クルマ離れと言われる若者の購入意欲を高めるための考察 『第3回 ロハス的なクルマ』

第3回 『ロハス的なクルマ』

このシリーズは、クルマ離れと言われる若者の購入意欲をいかに高めるかを考えるもので、若者を取り巻く環境の変化を示し、その変化から考えられる魅力あるクルマの姿やサービスを提言している。

第 1 回は、女性に「ウケる・モテる」男子像の変化を取り上げて、「オチがあるクルマ」を提言した。
https://www.sc-abeam.com/mailmagazine/horai/horai0189.html

第 2 回は携帯電話や SNS などコミュニケーションの変化を取り上げて、「仲間意識を醸成するクルマ」を提言した。
https://www.sc-abeam.com/mailmagazine/horai/horai0192.html

今回、取り上げたいのは、若者の嗜好や価値感の変化である。

読者の中にも若者の購入意欲を高めるクルマは、個人の嗜好や価値感を表現できるクルマであると考える方が多い。以下は、今月 5日に配信した弊社メールマガジンにて実施した 1 クリックアンケートの結果である。

<質問内容>
若者男子のクルマ購入意欲を高めるような「ライフスタイルの使用用途に合わせた使い勝手の良いクルマ」という意味で、最もイメージに近いと思われるのは、どれでしょうか。

<結果>
1. 趣味、レジャー等のための利便性を重視したクルマ
⇒  61名 (23%)

2. 日常生活での居心地の良さを重視したクルマ
⇒  33名 (12%)

3. 個人の嗜好や価値感(スタイル)を表現できるクルマ
⇒  69名 (25%)

4. 必要最低限の機能、性能に特化したシンプルなクルマ
⇒  54名 (20%)

5. 各種用途、必要性に応じて最適なクルマを利用できる環境
⇒  45名 (17%)

6. その他
⇒   8名 ( 3%)

質問に対する回答の選択肢は 5 つ あるが、1~ 3 の選択肢は、クルマの価値を高める方向性を持つ選択肢で、それぞれの選択肢でクルマに持たせる価値はどのようなものがよいかを分けて(1:利便性、2:居心地の良さ、3:嗜好・価値感の表現)お聞きした。4 はクルマには付加機能は持たせずに基本性能だけの方が、寧ろ使い勝手がよいのではないかという方向性の選択肢だ。また 5は 1~ 4 はクルマを所有してもらうことが前提にあるが、そもそもクルマは自由に使えればよいという方向性の選択肢だ。

突出して回答数の多い選択肢はないが(それだけ若者というターゲットを捉えることが難しいことの表れとも考えられる)、一番回答数が多かったのは、回答 3 の個人の嗜好や価値感を表現できるクルマである。それでは、若者の嗜好や価値感の変化から考えていきたい。
【若者の嗜好や価値感の変化の一形態:ロハス】

一度は聞いたことがある読者も多いと思うが、ロハス(LOHAS:Lifestyles Of Health And Sustainability)という言葉がある。

日本では 2002年頃から用いられるようになったらしいが、健康や環境問題に関心の高いライフスタイルのことで、一説には日本の成人の 29 %がロハス層であるという。

仮に、この説が正しいとすれば、平成 19年 9月時点の日本の 20 歳以上の人口は 104 百万人であるからロハス層は 30 百万人いることになる。

そして、そういったロハスな人々が若者の間でも増殖中であるとのことである。では、ロハスな人々、特に若者はどんな生活や行動を好むのだろうか。イメージを掴むたため、日経ビジネスオンライン「U35 男子マーケティング図鑑」や雑誌「ソトコト」を参考にいくつか具体的に列挙してみる。

・天然酵母を培養してパンを焼く。ぬかみそや梅干をつける。
・休日は「谷根千(谷中・根津・千駄木)」や「神楽坂」、「西荻窪」など  いわゆるショッピング・スポットではなく、どこか「懐かしい」街に出掛ける
・骨董市や蓑の市で古いものを買う
・昭和の住居を探してきて、そこで暮らす
・山や川、生き物など自然を守るプロジェクトや NPO に参加する

若者を 20 歳~ 35 歳未満とすると総数は 24 百万人であるから、年代による偏りがないして、先程の 29 %がロハス層ということで考えると 7 百万人がロハスな若者となる。健康や環境問題に関心を持つ若者が相当数いるということである。

こうしたロハス的な若者の生活や行動には、小さい頃から 1 人部屋を与えられ、その空間を自分なりに作り込む経験をしてきたことや、都会の庭のない家に育ったために、土いじりや昔ながらの日本の文化やモノに憧れてきた、といったことが影響を与えているという。

しかしながら、上記の例にあるような若者は、ロハス的な要素が特に強い層だといえるだろう。筆者の周りを見渡しても、このような若者はそうそう見当たらない。

ただ、一方では、例えば、コーラを飲む時は「ダイエット・コーラ」を選ぶ、買い物には某有名ブランドの「エコ・バッグ」を持っていくといったような、健康や環境問題にちょっとした意識を持った層は相当数いると思われる。こうした若者の根底には、健康や環境問題など周りで話題になっているからといった仲間意識のようなものがあるのかもしれない。
【ロハスな若者に向けたクルマ】

トヨタの渡辺社長が語る理想のクルマは以下である。
・走れば走るほど空気がきれいになるクルマ
・ヒトを傷つけないクルマ
・乗れば健康になるクルマ
・燃料を満タンにすれば世界一周できるクルマ

他自動車メーカーも表現や達成の仕方(技術)は違っても同じような目標を持っているはずである。ヒトを傷つけないクルマという「安全」の要素はロハスな人々にとってアピーリングなものではないかもしれないが、健康や環境問題に関心を持つロハスな人々が求めるクルマと自動車メーカーが目標にするクルマは合致するはずである。

しかしながら、特にロハスな要素が強い若者に訴求するためには、健康や環境だけでなく前述した作り込む要素と昔ながらのモノに憧れる要素が必要ではないだろうか。

例えば、外装や内装は往年の名車でありながらハイブリッド・エンジンを搭載したクルマである。最新の技術を搭載したクルマの外装は、いわゆる先鋭的なデザインのクルマが多いが、あえてレトロな外装を持ったクルマにするのである。光岡自動車やかつてのトヨタのオリジンのようなクルマである。新車でなくとも中古車でヘッドライトや塗装などを昔風に仕立てることも考えられる。

ただ、ロハスな若者といっても大多数はそこまでロハスな要素が強いわけではなく、ちょっとしたロハス的な意識を持っているに過ぎないことは前述したとおりである。商品開発の観点からいうとそういった若者の層を狙うことも考えるべきだろう。

現状で言えばハリアー・ハイブリッドやエスティマハイブリッドなどは、エコだけであればプリウスを選ぶがデザインや居住性など、その他の要素を考慮した上で環境に関心があることを表現する車種という点で、ちょっとしたロハス的意識にマッチした車種であると考えられる。また、マイナス・イオンを発生するようなエアコンや、最近国産車でも増えつつある瞬間燃費表示計なども、ちょっとしたロハスなものだと考える。
【「プチ・ロハス」な若者の購入意欲を刺激する】

今回は、若者の嗜好や価値感の変化の中で、ロハスな若者を取り上げた。

勿論、ロハスな若者にも程度があると思われ、極端にロハスの要素が強い若者は、環境問題の観点からクルマには乗らずバスや鉄道など公共機関を利用する人々で、クルマには乗らない可能性もある。こうした若者に対しては、現実的にはカーシェアリングなどの仕組みを提供していくことが効果的なのかもしれない。

ただ、前述したように、こうした層は限られていると思われる一方、健康や環境問題に「ちょっとした」関心を持つ層は多数いると思う。つまり、若者の嗜好や価値感が多様化していると言われているが、「ちょっとした」、最近の言い回しでは「プチ」というレベルに薄めることで、多様化している中に共通項を見出し、若者の購入意欲を刺激するような商品開発が求められるのではないだろうか。

そして、これまでそういったアプローチは、特に女性に有効だとされてきたが、現在の若者においては男性も価値観が女性化しているといわれている。その意味で、今後、若者向けの商品開発全般において、こうした要素の重要性が増してくると考える。

<宝来(加藤) 啓>