「プリウス」に見る製品ライフサイクル上の課題

◆6月の新車販売、「プリウス」が 13 カ月連続で軽自動車を抑え首位を維持

プリウスは前年同月比 43 %増の 3 万 1876台。2 位は「タント」で 27 %
増の 1 万 6871台。今年上期 (1~ 6月期) もプリウスが前年同期比約 3.3
倍の 17 万 426台で首位に。2 位「ワゴンR」 (5.0 %減の 10 万 6017台)
に 7 万台近くの差を付けた。3 位は「タント」で 30.0 %増の 10 万 4530
台。

<2010年07月06日号掲載記事>

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【好調な「プリウス」の販売台数】

「プリウス」が 13 カ月連続で国内車名別販売台数の首位を維持している。3
代目「プリウス」が発売されたのは 09年 5月であるから、それ以降、首位の座
を守っていることになる。

10年 1月-6月の上半期で見ると、国内市場全体の販売台数(登録車+軽自動
車)は 266 万台、前年比 121 %という状況である。一方、「プリウス」の販
売台数は 17 万台、前年比 331 %と、前年比の伸びで、国内市場全体を大きく
上回っている。

また、日刊自動車新聞によれば、「プリウス」が上半期の車名別販売台数で
最高記録を更新したという。これまでの最高記録は 90年の「カローラ*1」で
15.9 万台であったが、「プリウス*1」は 17 万台を販売している。

*1
「カローラ」は「ワゴン」・「バン」・「レビン」・「FX」を含む。「プリ
ウス」は 2 代目ベースの「EX」を含む

経済情勢や制度、販売チャネルの状況など*2 が異なるため、90年の「カロー
ラ」と 10年の「プリウス」を一概には比較できないが、90年の「カローラ」は、
上半期国内市場全体の販売台数 393 万台の 4 %を占めていた。一方、10年の
「プリウス」は、上半期国内市場全体の販売台数 266 万台の 6 %を占めてお
り、今や「プリウス」は、往時の「カローラ」に比類する人気車種であると言
っても良いのではないだろうか。

*2
90年は、いわゆるバブル経済期であり、「カローラ」の販売台数の後押し
になったであろう。国内市場全体でも過去最高となる年間販売台数 777 万
台を記録した年である。
一方、 「プリウス」はエコカー減税やスクラップインセンティブ、レクサ
スを除く 4 チャネルでの併売などが販売台数の後押しになっていると考え
られる。

【収益面でも好調に思える「プリウス」】

「プリウス」が発売当初から好調だったわけではない。初代「プリウス」は
97年 12月に発売されたが、98年の「プリウス」の年間販売台数は 1.7 万台で
ある。現在の人気は 10年単位で取り組んできた成果であろう。

自動車メーカーや販売会社にとって、人気車種を持つことのメリットは大き
い。例えば、生産面ではボリュームの増加によるコスト低減やラインの効率化
などが考えられる。販売面では、指名買いによる販売の効率化や値引き防止な
どが考えられる。

特にハイブリッドシステムは「プリウス」以外の車種への展開も進んでおり、
その点でもコスト低減が進んでいるであろう。一見して、「プリウス」は台数
面でも収益面でも好調で、非の打ち所が無いような状態のようにも思える。

【「プリウス」が抱える課題】

しかし、実際には手放しで喜べる状態ではないようである。以下は自動車ニ
ュース&コラムから抜粋したトヨタ系列の販売店の声である。

◆トヨタ販売店、利益幅が大きい高級車の顧客を「プリウス」が奪う問題
「高級車が目的で販売店を訪れたユーザーも、エコカー減税などの影響で最
終的には、お買い得のプリウスに流れてしまう」

◆「プリウス」は年配層が支持、トヨタの利益構造をも変える
「大きな車を乗っている方はそれなりのプライド持っているが、プライドを
捨てることなくボディーサイズを小さくすることが可能な車ということでプ
リウスが選ばれている」、クラウンなどからプリウスへのダウンサイジング
で「利益構造が変わってきている」

また、トヨタ本体からも、「プリウス」を代表とするハイブリッド車全体の
課題として、「ハイブリッド車で利益は出ているものの 1台当たりの利益を見
ると既存車種との差は大きい」、「現状のコストの半分程度にしないと普及は
進まない」などの声が報道されている。

更に、「プリウス」もプラグインハイブリッド車を導入し次世代に向けた対
応を進めているが、他社も電気自動車やハイブリッド車(各社、様々なハイブ
リッドシステムはあるが)、ハイブリッド車並みの燃費を実現するガソリンエ
ンジン車・ディーゼルエンジン車の開発・販売を進めており、環境対応車の競
争が激化している。

【製品ライフサイクルで考えてみる】

一般的な製品ライフサイクルを見ると、販売台数は、導入期から成長期に掛
けて二次関数的に増加し、その後、成熟期になると伸びが鈍化し衰退期を迎え
る。利益は、導入期は赤字であるが、成長期から成熟期に掛けて黒字化してい
く。

「プリウス」を代表としたトヨタのハイブリッドシステムを搭載した製品は、
今後、どれだけ成長期を継続できるか、どれだけ販売台数曲線を高くすること
ができるかの岐路に立っているのではないだろうか。

販売台数を最大化させるためには、前述したようにコストを半減し普及を進
める、あるいはプラグインハイブリッド車の導入など新たな価値を加えていく
などの方策があるだろう。一方で、中長期的には、技術革新次第では想定以上
に電気自動車などが普及し、販売台数を減少させる大きな要因となる可能性も
ある。

ただ、目下の課題としては、「ハイブリッド車で利益は出ているものの 1台
当たりの利益を見ると既存車種との差は大きい」という声があるように、成長
期に入り黒字化が進んではいるものの、従来と比べると、利益曲線が思うよう
に伸びてきていないことではないだろうか。

ハイブリッド車の価格競争力を高めるため、今後も、コスト削減分が、その
まま利益になるとは考え難い。

更に言えば、特に、国内市場は自動車に対する顧客ニーズの中で経済性とい
う要素が強いため、ハイブリッド車に限らず、電気自動車など新たな製品を開
発・販売していく上でも、従来の利益を獲得することが難しい状況が想定され
る。アライアンスによる投資の分担や、そもそも獲得利益が少ないという前提
に立った上でビジネス構造を確立していくことが重要だと考える。

<宝来(加藤) 啓>