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<開催報告>、「水素エネルギーが社会に与えるインパクトを捉える~トヨタ自動車の新型MIRAI発売を契機に~」

弊社が主催し、住友商事株式会社及び株式会社InBridgesが協賛した第一回水素エネルギーを語るシンポジウム、「水素エネルギーが社会に与えるインパクトを捉える~トヨタ自動車の新型MIRAI発売を契機に~」210日に開催された。

基調講演の講師として経済産業省 資源エネルギー庁 新エネルギーシステム課長 兼 水素・燃料電池戦略室長 白井 俊行 氏、トヨタ自動車株式会社 Mid-size Vehicle Companyチーフエンジニア 田中 義一 氏、NPO法人国際環境経済研究所理事・主任研究員 竹内 純子 氏の三氏を迎え、モデレーターは国際自動車ジャーナリストの清水 和夫 氏、住友商事株式会社 水素事業部 部長付 木村 達三郎 氏が務めた。

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冒頭、モデレーターの木村氏より、住友商事の水素ビジネスへの取組みが紹介され、水素ビジネスは水素単体で成立させることは難しく、現時点では多様な産業セクター間での連携、協調領域の拡大が必要である、との解説がなされた。

また清水氏よりは、長年に渡る自らの水素との関わりを語った後、メディアでは「エンジンはもう要らない、バッテリーEVだ、水素だ」という対立が生じていることに触れ、構造と性能、政策・基準(デジュール)とユーザーニーズ(デファクト)、この4つのパラメーターが調和しなければ新しい技術は普及しないと言及した。

 

【基調講演要旨】

水素社会実現に向けた経済産業省の取組み

(資源エネルギー庁 白井 俊行 氏)

「水素の可能性」

エネルギー政策の基本方針「3E+S (安全性(Safety)、自給率(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment))の同時達成」の観点から、「消費段階でCO2が排出されない」「多様なエネルギーから生産可能で、エネルギー調達先の多様化に寄与する」「蓄積された水素燃料電池技術を活かすことで、(日本の)産業競争力の強化につながる」という特徴を持つ水素は、水素燃焼による火力発電、産業プロセスにおける熱供給など、自動車以外でも、幅広い分野で活用される可能性を秘めている。

 

「水素社会の実現に向けた政府の取組み」

従来からの「水素基本戦略(201712月策定)」「水素・燃料電池戦略ロードマップ(20193月策定)」に基づき、既に日本では「製造」「輸送・貯蔵」/利用のサプライチェーンの全域にわたり、様々な取り組みが行われている。

また海外でもカーボンニュートラルに向けた動きが高まる中、水素への関心が高まってきている。日本政府は国際的な水素への取組みの促進に向け、各国で水素を担当する閣僚を日本に集め水素政策を議論する「水素閣僚会議」を過去3回主催している。回を追うごとに関心は高まっており、昨年開催された第3回はオンライン開催となったが、参加登録者が3000名近く、視聴回数は1万回を超え多くの関心を集めた。

 

「カーボンニュートラルに向けて」

2050年カーボンニュートラル実現宣言」を受けた「グリーン成長戦略(202012月発表)」においても水素は「重要14分野」に含まれており、「燃料電池自動車の普及」「水素ステーションの整備支援」「燃料電池の低コスト化に向けた技術開発支援」「水素の海上輸送に向けた実証技術開発の強化」に取り組む。引き続き脱炭素化の手段として水素が活用されるよう取組みを進めていきたい。

 

新型MIRAIの開発と水素が切り開く未来社会

(トヨタ自動車株式会社 田中 義一 氏)

「水素の特徴」

水素の特徴は、エネルギー密度の高さ故の「貯められる」「運べる」。

再生可能エネルギーをマクロで大量に使うにあたっては、「エネルギーキャリアとしての水素で補い、不安定化を防ぐ」という点で、自動車で燃料電池として使うにあたっては、「短い充填時間で長い航続距離が確保でき、自動車をサステナブルに使う」という点で、それぞれ重要なものと考えている。この両方の特徴を活かし、トヨタはFC乗用車のみならず、バス、トラック、フォークリフト、鉄道、宇宙探査ローバー等のモビリティに加え、水素を利用した発電機、コジェネレーション等にも取り組んでいる。

 

「カーボンニュートラルの実現に向け、自動車産業のすべきこと」

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、乗用車は順調に電動化が進んでいる一方、トラック・バスにもしっかり取り組まないと真の意味でのカーボンニュートラルは実現できない。現行のエネルギー密度が低く、充電に時間がかかるEV用バッテリーは大型トラックのバッテリーEV化には不向きなため、水素を活用したトラック・バスのCO2排出量削減はカーボンニュートラルの実現に向けて極めて重要になる。

 

※ 日本の総CO2排出量に占める運輸部門の割合は2割弱(18.5%)。運輸部門の内、約半分(47.3%)が乗用車、4割弱(38.5%)がトラック・バス。

 

「実証から実装へ」

水素社会の構築に向け実証実験は進んできているが、まだ十分に実装段階に踏み込めていないのが現状。コンビニエンスストアと組んだ実証実験では車両/燃料等のコストがオーナーの負担になっていることがわかっており、水素基本戦略で将来水素価格を現在の1/3に、水素利用を現状の10倍の300万トンを目標に置いているのは非常に心強い。

実証実験を社会実装に繋げる動きとして、トヨタは「中部圏水素利用推進協議会」に参画、また昨年末には「水素バリューチェーン推進協議会」が結成され、様々なフェーズ・サプライチェーンでの「使う・運ぶ・作る」の連携に加え、作る・運ぶを「支える」動きを進め、実装を加速したい。

 

「トヨタ自動車の水素利用車両を拡大に向けた施策」

FCVが少ない ⇔ ステーションの営業時間が短い」という負のスパイラルに陥っているのが現状で、これがFCVの普及につながらない要因。FC乗用車の開発を通じて性能向上/原価低減を図ったFCユニットを、他企業に供給すると共に一台当たりの水素消費量が大きい商用車にも展開、商用車の普及により水素ステーション等のインフラ整備が促進され、乗用車の普及を後押しするという正のスパイラルを回すことで、水素活用車両の普及を図っていきたい。

 

MIRAIが果たす役割」

自分は初代MIRAIの開発も担当した。新型MIRAIの役割は、初代が果たせなかった「量を出す、普及させる」こと。

水素はまだ一般には馴染みのないエネルギーであり、社会受容性が充分に醸成されないと反対やアレルギーが起こり得る。クルマという身近なもので水素を使えるようにすることに重要な意義がある。新型MIRAIの使命はFCVの魅力を伝え、その結果、水素の可能性を実感してもらい社会受容性を上げ、水素エネルギー社会実現の起爆剤になること。

二代目のMIRAIは全てのスタート。ここで使っているユニットをトラック・バス・タクシーなどの様々なモビリティに繋げて水素社会を拡げていきたいと思っている。

 

日本のエネルギーの大転換 -2次エネルギー水素の活用を考える-

(国際環境経済研究所 竹内 純子 氏。)

「カーボンニュートラルに向けた『需要の電化』の必要性」

脱炭素化に向けた技術的な選択肢は実はそれほど多くはなく、「電源の低炭素化」と「需要の電化」の掛け算がその一つ。これを徹底的にかつ同時進行で進めることが脱炭素化の大きな柱になる。

エネルギー全体で見ると、現状では電力は1/4程度、残りの3/4(非電力)は化石燃料を直接燃やしている。非電力由来のCO2削減には高効率化が効果的だが、これから更にガソリン車の燃費が2倍、3倍になることは考えづらく、またいくら高効率化しても、CO2の排出はゼロにはならない。

そこに出てくるのが、水素や電気のように「何かから作るエネルギー」=二次エネルギー、作り方次第でCO2を排出せずに作ることができる。高効率化は飽和しつつあり、非電力由来のCO2を減らすためには使用抑制が必要となるが、使用抑制は国民生活・経済に負担をかける。負担をかけることなくCO2を減らすためには、非電力で動いていたものを電力で動くようにすることが必要で、これを「需要の電化」と言い、これと同時に電源を低炭素化する=再生可能エネルギーや原子力でCO2を出さずに発電する、という掛け算を同時進行で進めるのがCO2削減のセオリー。

水素も「何かから作る」エネルギーなので、同じことが当てはまる。今まで非電力で動かしていたものを、「水素で動かす」ようにする。このように水素も期待が持てる二次エネルギーではあるが、電気は送配電網も含め、インフラの基盤が既に整っていることから、脱炭素化には電気が柱になる。

 

「水素に求められる役割」

水素は作り方も使い方も多様で、大量に消費してコストを下げることから考えていく必要がある。

水素には作り方によって「色」が付けられており、究極的には再生可能エネルギー由来の電気で水を電気分解した「グリーン水素」にしていかなければならない。これには安価で大量のゼロエミッション電気が利用できることが大前提になる。

電気は本来電気のまま使った方が効率は良いのだが、再生可能エネルギー由来の電気には発電量がぶれるという特性があり、不安定な電気を吸収するために、送配電線の増強の必要性が論じられる。この余剰の再生可能エネルギーを水素に変換して使うことが検討されている。

難しいのは不安定な電気で水素に変換する場合、水素変換設備の稼働率が不安定になり、系統の増強と同じように費用対効果の点でビハインドを背負いかねないという部分。いかに安定・安価なゼロエミッション電源を手にして、安い水素を入手していくかという点が課題になっている。加えて、現在水素の約7割は化石燃料由来であり、移行期間としてどのような形でプロセスを踏んでいくかも、大きな課題である。

 

「電力需要の見通しとモビリティに期待される役割」

二次エネルギーの活用が進むにつれ、電力の需要が大きく増えると試算されている。数年前の我々の試算では、2013年時点で日本では1年間で1kWhの電力を使っていたのに対し、人口減少、経済停滞、省エネの進展等の電力需要が減少するトレンドに任せていくと、2050年には8000kWh程度に減る一方、電動車の増加、デジタル化の進展等の社会変化を踏まえると、我々の試算で2割増、政府の試算だと5割程度増えるという予測も存在する。この前提で、電力は低炭素電源で出来る限り賄い、53%が再生エネルギー由来、原子力を10%残すと仮定しても2050年のCO2削減は2013年比72%減に留まる。道を走る車は全て電動車、給湯も全て電気に切り替えられているという厳しい前提を置いてもそうなる。ここを100%にするには、水素を含めたイノベーションが必要になる。

再生可能エネルギー由来の電力がここまで増えると、太陽光・風力は振れ幅が大きいので、過剰供給・過少供給の調整が必要になるが、ここでモビリティとエネルギー(ユーティリティ)の融合が期待されている。クルマは駐車場で寝ている時間も長いので、ここにエネルギーを貯めて、必要に応じて運ぶ役割も担ってもらえれば、エネルギー供給側としてはかなり描ける絵が多くなる。例えば、クルマのバッテリーとしては寿命を終えたバッテリーを離島の電力供給に使う実証を起点として、今現役で動いている電動車を利用して、モビリティとユーティリティとの協調に関する実証が多く行われている。電動車は、自動車の専門家からすると「バッテリーで動くクルマ」だが、エネルギーの視点では「移動できるバッテリー」であり、様々なセクターとの掛け算が行われることが期待されている。

 

「おわりに」

エネルギーの世界は転換期を迎えつつある。気候変動だけでなく、地方の過疎化、災害の激甚化に対するレジリエンスを上げる必要性、あるいはデジタル化のような社会の大きな変化、このような変化にエネルギーの世界は大変革期を迎えている。変革の要素が大きく多様であり、エネルギー分野だけで解決策を模索していても、なかなか解が描けない。ここで先程のモビリティとユーティリティの融合という文脈に戻っていく。セクター同士の掛け算によって何らかの解を見いだせないか、ということで多様なプレーヤーが登場することを期待し、セクターカップリングとしてユーティリティ/エネルギーの分野との掛け算を模索している。

 

白井氏、田中氏、竹内氏による基調講演の後、モデレーターの清水氏、木村氏による進行で、視聴者からの質疑に対する応答も交えた活発なパネルディスカッションが行われた。

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最後に弊社大森社長より、多数の方に御視聴頂いたお礼と共に、今後、本シンポジウムをシリーズとして開催していくことを述べ、閉会した。