低価格車における共有化について考える

◆世界の新車販売、2009年比約 1 割増の 7200 万台前後と過去最多に

<2011年01月27日号掲載記事>

◆三菱自、ジュネーブショーに小型世界戦略車を出品

<2011年01月18日号掲載記事>

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【増加する世界新車販売台数】

10年の世界の新車販売台数が 7,200 万台となり過去最多を記録した。世界の新車販売台数は、今後も増加し続け、15年には 9,000 万台水準に達するという見方も多い。

新車販売台数の増加を牽引していくのは、ご存知のとおり BRICs を中心とした新興国である。15年には、2,000 万台に達していると言われる中国を筆頭に、ブラジル、インドでも 400 万台、ロシアでも 300 万台の水準に達し、4 ヶ国合計で 3,000 万台超になるとも言われている。

新興国で販売台数を増加させるために、一つの重要なキーとなるのが小型車・低価格車であろう。各自動車メーカーが取り組んでいるが、直近の記事でも三菱自動車が、小型・低価格・低燃費を基本コンセプトとした「MITSUBISHI Concept Global Small」をジュネーブショーに出品すると発表した。同車はタイで生産しグローバルで販売する見込みである。

【低価格車における車種の共有化】

グローバルで低価格車の開発・販売をする上で重要なのが、コスト低減をしながら、如何に競争力を高めていくかであろう。

現地調達や部品・プラットフォームの共有化などによりコスト低減をしていく一方で、共有化できない・すべきではない各国のニーズの違いを反映し他社との差別化を図り競争力を高めていかなければならない。

そうした中で、共有化という観点でも、各自動車メーカーの対応が進んできており、車種の共有化という切り口では、新興国のみで販売するタイプと、新興国と先進国両方で販売するタイプに大別することができる。

新興国のみで販売するタイプとしては例えば、トヨタの「Etios」(インド、中国、タイ、ブラジルなどを計画)や、フォードの「Figo」(インド、ASEAN、南アなどを計画)が挙げられる。

新興国と先進国両方で販売するタイプとしては例えば、日産の「MARCH (Micra)」(インド、中国、ASEAN、日本、西欧、北米などを計画 )や、VW の「Polo」(インド、ロシア、欧州、日本などを計画)が挙げられる。

ただし、実際には、もちろん同じ車種を新興国と先進国両方で販売するといっても標準装備など異なるし、新興国内であっても異なる装備がある。

【共有化を進める上での考慮点】

共有化による規模の経済を享受することを重視すれば、新興国と先進国両方で販売するタイプを選ぶのではないだろうか。現実的ではないが、極端に言えばグローバルで仕様・装備が全く同じ車種を開発・生産し、同じマーケティング活動を行えば、バリューチェーン全体に渡り規模の経済を享受できる可能性が広がる。

しかし、かつて GM がグローバルカー構想で取り組んだ「T カー」、「J カー」では、プラットフォームを共有化しても各国の事情に合わせる部分が多くなり想定する程の開発費削減効果が得られなかったという声や、共有化したが故に各国での競争力が失われてしまったという声も聞かれる。

また、共有化することにより、一つの不具合の影響が及ぶ範囲も拡大するといったリスクなども考えられる。

更に、ルノー・日産グループのダチアで開発・生産している低価格車「ロガン」を、ロシアでルノーブランドの「ロガン」としてルノーの拠点で販売したところ、「ロガン」の販売台数増加に伴いルノーのブランドイメージが低下してしまったと言われている。

ブランドを新興国と先進国で共有した例ではあるが、マーケティングの側面でも留意しなければいけないことがあるだろう。

つまり、低価格車における車種の共有化を進める際には、従来からある部品・プラットフォームなどの共有化が抱える課題に加え、ULCV (Ultra Low Cost Vehicle)や LCV (Low Cost Vehicle)の中で、どのセグメントに参入するかにもよるが、低価格車ならではのマーケティングの問題なども考慮しなければいけないであろう。

【ポジショニングから考える】

一方で、中国において、東風日産は「ヴェヌーシア」、広汽本田は「理念」を第二ブランドとして展開することを発表しているが、いずれも低価格車向けのブランドと言われている。

こうした新興国においてブランドを分ける取り組みは、コスト増加に繋がる可能性もあるが、上記で述べたようなブランドイメージを毀損するリスクを軽減することなどに繋がるであろう。

また、ブランドを分けたとしても、部品・プラットフォーム、生産ノウハウなどを共有化することで、一定量の規模の経済を享受することができると考えられる。そのことは、ブランドを分ける・分けないに関わらず、前述した新興国のみで販売するタイプの場合でも、先進国で販売する車種と共有化することで、同様の効果を得られると考えられる。

ただ、共有化はコスト削減の手段であり、そもそも、そのブランドや車種のポジションや、どのような価値を提供するか、が重要なのではないだろうか。

日本車は米国において、燃費や整備コストを含めたトータルコストの低さやサービスの質の高さなどで競争優位なポジションを確立し販売台数を増加させてきた。新興国において、車両価格が安いというのは一つの重要な価値であるが、それだけが日本車が提供する価値ではないだろう。どのようなポジションを確立するかを検討し、共有化などによりコスト低減をしていくことが大切だと考える。

<宝来(加藤) 啓>