日本精工、従来製品比で摩耗現象を15分の1に抑制した変速機…

◆日本精工、従来製品比で摩耗現象を15分の1に抑制した変速機用の軸受を開発外輪の肉厚を太くし、小径化したボールを組み込んだ「クリープレス軸受」

<2004年07月22日号掲載記事>
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こういっては関係者に失礼だが、読者の中にも「ベアリングって、あのちっちゃな球が入った小物でしょ。」と思われる方が少なくないとは思う。しかし、自動車にとっては欠かすことができない重要な部品の一つである。今週は軸受、いわゆるベアリングとその技術革新の意義を見直してみたい。

ベアリングといっても、その種類は多岐に渡っているが、大別すると「滑り軸受」と「転がり軸受」の2種類がある。

滑り軸受は転動体(詳細は後述)等の機械的な構造体を持たず、接触面の圧力で軸を保持するベアリングであり、固体、流体等、接触面の潤滑構造によっていくつか種類がある。
一方、転がり軸受は、転動体といわれる球、ころ等の球体の転がり運動を利用して摩擦係数を押えたもので、一般的に、外輪、内輪、その間の転動体、及びその転動体を保持する保持器から構成されている。転がり軸受も多数の種類があり、転動体の形態によって「玉軸受」と「ころ軸受」、主な荷重方向によってラジアル方向(軸と垂直方向)の荷重を主に受ける「ラジアル軸受」とアキシャル方向(軸方向)の荷重を受ける「スラスト軸受」に大別できる。

転がり軸受は低摩擦、メンテナンス、交換の簡易性で優位性があり、一方、滑り軸受は耐久性、耐衝撃性、静粛性で転がり軸受よりも優れる。数ミリのものから 10 メートル以上のものまで、世界に約2万種類と言われるベアリングが存在しており、各部位の要求に応じて使い分けられている。

例えば、自動車には異常な荷重が掛かった時に軸よりも先に軸受が壊れるように転がり軸受を使用している箇所もあれば、歯医者のドリルのように、昔は転がり軸受を使っていたが、「キーン」という音が患者の恐怖感を煽らないように静圧空気軸受という一種の滑り軸受に切り替わったものもある。

ここで、自動車産業にとってのベアリングの意義を考えてみる。一般的に、乗用車1台あたり、約 150個のベアリングが使われており、AT だけを見ても、80個近くのベアリングを使用しているという。

さらに、近年、自動車部品においても、ベアリング単体だけでなく、周辺部品を組み合せたユニットの開発・製造が普及しており、小型化、軽量化、低コスト化が加速すると同時に、ベアリングメーカーの担う役割も拡大している。今後、CVT のようなベアリングの応用技術の開発・採用も増えると予想され、また、昨今の電子化の流れによるモーター等での小型ベアリングの新たな需要も期待され、自動車におけるベアリングの使用数量も重要性も拡大するのではなかろうか。

また、言うまでもなく、ベアリングの最も大きな役割は、回転部の摩擦を低減することで、エネルギーロスを減少させることであり、省資源、省エネルギーという観点でも、この分野の技術革新が与える影響は大きい。

ところで、今回日本精工が発表した技術は、クリープ(軸受の内輪の回転に伴って固定されていた外輪も回ってしまう現象)を、既存商品の 15分の1に抑えるというものである。クリープ現象は、外輪と軸受箱(軸受の取り付け部)との間に磨耗が発生し、異音発生、回転不良、破損等の原因となるものであり、今回の技術導入によって、品質向上、設計自由度向上、コスト低減が期待できる。

昨今の自動車業界では、リコールなどの話題が多く、ユーザーの品質への注目度も向上している。ハブも自動車においてベアリングを用いる代表的な部品である。

日本のメーカーのベアリング生産規模は年間8千億円にのぼり、世界の約3分の1を占めている。つまり、日本のベアリング業界の存在は、国内自動車業界や他の産業だけでなく、世界的にも大きいを言える。

一見地味と思うかもしれないが、こういった繊細な技術革新が、高い品質・性能を確保する上で重要な役割を担っており、日本の自動車産業が世界に誇れる技術を支える土台の一つとも言える。今後も目が離せない部品分野の一つである。

<本條 聡>