光洋精工、車輪の回転速度を精密に検知できるハブユニットを開発

ユニット内に配置した電磁石に電気を流し、駆動軸の周りに磁界を発生させて、車輪が動くことで回転する駆動軸によって起こされる磁界の乱れを、ステーターが電圧の強弱として感知する「高分解能・正逆検知センサ内蔵ハブユニット」。精度は同社のABS用センサーに比べ200倍以上という。3年後をメドに市販車への搭載を目指す。

<2004年07月26日号掲載記事>
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昨今の自動車業界の技術開発における大きなテーマの一つとして、「安全性の向上」が挙げられる。今回、光洋精工が発表した技術も安全性の向上への貢献を目的としたものである。

現在の自動車業界での技術開発において、単独の部品の性能・品質向上が直接的に自動車自体の性能・品質向上に結びつくようなケースは簡単にはないと考える。主な理由としては、

・自動車は2万点とも3万点とも言われる大量の部品が複雑に絡み合って構成されている工業製品であること

・誕生してから 100年以上経つ現在においても、先進国では飽くなき技術開発が続けられていること

・昨今の電子化の流れから、各部品が相互に機能して性能を発揮するシステムとして構成される分野も増えてきていること

などが挙げられる。したがって、今後、自動車部品メーカーにとっては、自社製品の性能・品質向上だけでなく、関連する部品と協調した技術開発の必要性が高まるのではないだろうか。

特に電子化されたシステムに着目すると、部品毎に要求される役割が明確に分けられるので、判りやすい。自動制御系のシステムを簡略化すると、

「検知」→「判断」→「作動」

の3つの役割にまとめられる。例えば、電子制御式ABSの場合、

「検知」: 各ホイールに取り付けられたABSセンサーが、タイヤの回転数の変化を検知し、コンピューターに知らせる。滑りやすい路面で、タイヤがロックした場合、この回転数が下がる。

「判断」: このシステムのコンピューター(ECU)は、センサーからの信号を監視し、回転数が低下した場合、タイヤがロックしたと判断する。そして、タイヤがロックしないように、ブレーキの油圧を下げる指示を出す。再びタイヤの回転数が上がりだしたら、油圧を上げ、ブレーキを強める指示を出す。

「作動」: コンピューターからの指示に従い、ブレーキホースを開閉させ、ブレーキの油圧を下げたり、上げたり調整する。

というような一連の動作をすばやく繰り返すことで、制動距離を縮めている。

しかも、この電子制御ABSは、ディスクやパッドをはじめとする「止まる」というブレーキの基本動作に欠かせないシステム・部品ではなく、「止まる」という性能を向上させるためのシステムである。つまり、運転手にとっては「ブレーキペダル」を踏むという一つの動作が、多数の部品がそれぞれの役割を担ってはじめて作動するものであり、その性能向上のために要求される技術開発も、より複雑になっていると言える。

今回光洋精工が発表したABSセンサーは、「検知」の役割を担う部品の一つといえる。センサーとしての分解能(検知可能な最小の精度)は、200 倍に向上しても、機能するためには「判断」「作動」の役割も必要であり、このセンサーを搭載すれば、すぐに制動距離が短くなるというようなものではない。

光洋精工は「3年後の実用化を目指す」と発表している。ハブユニットは重要保安部品であり、自動車メーカーとしても採用までに十分な検証時間が必要なこともあるとは思うが、3年後というのは、新車開発のリードタイムやこの検証だけの時間ではないと思う。このセンサーの性能向上を活用できるシステムを、他のメーカーとも協調して開発していく時間を見込んだ結果、目標が3年後なのであろう。

この技術は、昨年の東京モーターショーでも出品されていた。こうしたメディア戦略も、自動車メーカーだけでなく、関連する分野の部品メーカー等にも認知を広げ、実用化を推進させる機会を増やそうということを考えているのかもしれない。

「判断」「作動」役を担う良き伴侶が見つかり、早期に実用化されることを期待したい。

<本條 聡>