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コラム

「シックカー」症候群とならないために

(日産、車内のVOC濃度を低減、厚労省の定める指針値以下に)

「キューブ」と「キューブキュービック」のマイナーチェンジに際し、従来車に対しVOC(揮発性有機化合物)を含まない接着剤の採用を拡大するなどで車室内のVOC濃度を、厚生労働省の定めた13物質についての指針値以下のレベルに低減させた。今後、対応モデルを拡大していく。

<2005年05月24日号掲載記事>
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VOC (揮発性有機化合物:Volatile Organic Compound)とは、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等、常温で揮発しやすい有機化合物のことである。近年、建物等が原因で、めまい、吐き気、頭痛、平衡感覚の失調や呼吸器疾患など様々な症状、体の不調を感じる、いわゆるシックハウス症候群の原因とされている。

過去、シックハウス症候群は、個人差が大きく、症状自体も多様で、VOC が人体に及ぼす直接的な影響を解明しにくいため、行政の対応も遅れていたが、近年は、VOC が多かれ少なかれ影響を与えているという見解が通説となっている。建築・住宅業界では、現在、シックハウス対策を施した原材料や天然素材を利用する建築業者も多数あり、VOC に過敏な人が生活するための環境も整いつつある。

シックハウス症候群の人の中には、公共交通機関が使えず、唯一の移動手段としてクルマに頼る人も少なくない。そこで、車内の VOC 対策というものが課題となっているのである。

そもそも、新車購入時には、新築の住宅同様に、有機化学物質のような特有の匂いがすると思い当たる読者も多いだろう。消費者の生活に不可欠な存在である以上、クルマの車内も居住空間の一部であり、VOC 対策は必須の課題と言える。

厚生労働省は、「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」において、13 の VOC について、以下の通り、室内濃度指針値を策定している。

物質名         室内濃度指針値 主な発生源
ホルムアルデヒド       100μg/m3  合板、壁紙などの接着剤
トルエン             260μg/m3  内装材などの接着剤、塗料
キシレン             870μg/m3       〃
エチルベンゼン      3800μg/m3  合板などの接着剤、塗料
スチレン              220μg/m3  断熱材、浴室ユニット等
フタル酸ジ-n-ブチル    220μg/m3  塗料、顔料、接着剤
テトラデカン           330μg/m3  灯油、塗料
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル120μg/m3  壁紙、床材、電線被覆
アセトアルデヒド         48μg/m3  建材、壁紙などの接着剤

パラジクロロベンゼン     240μg/m3  防虫剤や芳香剤
クロルピリホス           1μg/m3  防蟻剤
ダイアジノン         0.29μg/m3  殺虫剤
フェノブカルブ          33μg/m3  シロアリ駆除剤

※2004年12月現在
※25℃のときの換算値
※パラジクロロベンゼン、クロルピリホス、ダイアジノン、フェノブカル
ブの 4 物質は、住宅特有の物質であり、後述の車内VOC濃度の測定対象
となっていない。
【日本自動車工業会HPより】

こうした社会動向を受け、(社)日本自動車工業会(自工会)では、自動車の使用方法を考慮した VOC 濃度試験方法の研究や実態調査を進めてきた。そして、今年 2月に、自主取り組みを進めることを発表した。その内容は以下の通りである。

<時期と対象車>
・ 2007年度以降の新型乗用車(国内で生産し、国内で販売する乗用車)
・ トラック・バス等の商用車についても、2005年度内をめどに自主取り組みを公表できるように検討中。

<目標値>
・ 厚生省の室内濃度指針値(上述の 13 物質)を満たす。
・ それ以降も、各社さらに室内濃度低減に努める。

<試験方法>
(1)プレコンディション
標準状態で、ドア・窓を開放して、30分以上換気を行う。

(2)密閉放置時の濃度測定(ホルムアルデヒド)
ドア・窓を全閉し、密閉状態の車両を照射ランプを使って加熱し、室内温度 40℃に調整する。
この状態を 4.5時間保持したのち、車室内の空気を 30分間採取する。

(3)乗車時の濃度測定(トルエンなど)
採取終了後、エンジンを始動(エアコン稼動)させ、その状態で車室内の空気を 15分間採取する。

【日本自動車工業会HPより】

対象となる VOC 自体は、自動車には使用されていない上記 4 物質を除外していること以外、住宅等と変わりないが、試験方法は、車室内の VOC の傾向を踏まえたものとしている。車室内の VOC の傾向としては、以下 3 点が挙げられている。

・経時変化:  一般的に、時間の経過とともに VOC 濃度は低減する。
物質によって、低減の度合いが異なる。

・温度依存性: 車室内の温度によって、VOC 濃度は異なり、高温になるほど濃度が高くなる。

・換気効果:  走行中の窓開けやエアコンの外気導入による換気で、VOC 濃度が大幅に低減する。

したがって、実態として因果関係も良く把握されていない現状では、積極的に換気することが当面最も有効な対応策と言える。(都心部では外気が本当に車内よりも清浄かは不明であるが。)

こうした流れを受け、各自動車メーカーは、VOC が含まれない(もしくは少ない)部材を採用する、接着剤・塗料等の溶剤を水性に切り替える(もしくは使用しない)等、VOC 濃度低減への取り組みを進めている。今回の日産の発表も、従来以上に VOC を含まない接着剤等を積極的に採用した結果、新型キューブ等にて、上記厚生労働省の室内濃度指針値を下回るレベルまで低減できたというものである。

当然のことながら、この問題への対応は、自動車メーカーだけで解決できる問題ではなく、自動車部品メーカー、素材メーカーの協力が不可欠である。VOC問題への対応ということでは、自動車業界よりも、住宅・建築業界の方が進んでいるところも少なくない。対応が遅れれば、いつの間にか、「シックカー」症候群と名前が変わることも有り得るかもしれない。

素材メーカーで、自動車と住宅、双方の業界に関与している企業も多数あるだろう。しかし、現在素材を提供している会社だけに責任を押し付けるのではなく、業界外にも広く目を向け、新たな素材・製法をもたらす技術・企業を探していくべきであろう。弊社も将来の自動車業界に貢献する企業の参入を支援したいと考えている。

<本條 聡>

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