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コラム

水素ステーション普及の展望

【はじめに】

  発売当初に比べると最近話題になることが少なくなってしまった感のある燃
料電池自動車(以下 FCV)ですが、トヨタ自動車は 2014年 12月の発売以来約
2,400台の MIRAI を国内市場で販売し、本田技研工業の Clarity Fuel Cell も
官公庁・企業向けリース販売限定ながら、2016年 3月の発売以来、累計で約 200
台が販売されています。

 カリフォルニア州を中心とした米国での販売台数は日本国内を上回っており、
MIRAI は 2015年 10月の発売から現在までの累計販売台数が約 3800台、Clarity
Fuel Cell は 2016年 12月に発売され、現在までに約 1,100台が販売されてい
ます。
 
 トヨタ自動車は本年 5月、2020年以降の FCV 世界販売 3 万台/年を見据え、
燃料電池スタック生産用の建屋の新設、高圧水素タンク生産用ラインの追加を
発表しました。本田技研工業も、General Motors との合弁工場を設立し、2020
年以降、次世代燃料電池の生産を行うことを発表しています。

 内燃機関車と同様、短時間で燃料の充填ができ、有事の際には非常用電源と
して活用が可能。電動モーターならではの瞬発力を備え、水素の製造・運搬方
法に大きく左右されますが”Well to Wheel”での CO2 排出量の少ない「究極の
エコカー」となり得る可能性を秘めた FCV には車としての魅力を感じる一方で、
使い勝手を考えると、現状では水素ステーションの数が少なく、ショッピング
リストには載せづらい、という方も多いのではないでしょうか。

  筆者自身もそうで、自宅から最寄の水素ステーションまで片道30分かかり
ますし、年に2~3回帰省する、自宅から約300km離れた実家との間には水素
ステーションが存在しないため、「満タンで出発して、途中どこにも立ち寄ら
ず、おとなしく運転すれば」無補給で往復できる可能性はありますが、それ
では車で出かける意味が半減してしまいますので、「次の愛車をFCVにする
か?」と訊かれたら、やはり逡巡してしまいます。

  今回はFCVの普及のボトルネックの一つである水素ステーションについて考
察し、FCVの将来を占いたいと思います。

【水素ステーションの現状と整備目標】

 2017年末に政府が発表した「水素基本戦略」では、水素ステーションの整備
目標として 2020年に 160 箇所(FCV 普及台数 4 万台)、2025年に 320 箇所
(同 20 万台)、2030年に 900 箇所(同 80 万台)が掲げられていますが、本
年 5月時点で稼働している水素ステーションは、移動式を含めて 100 箇所(25
都道府県)です。

 これに対してガソリンスタンドはピーク時に比べて半減しているとはいえ 2018
年 3月末で 30,747 箇所、バッテリー EV ・プラグインハイブリッド車用の急
速充電器は 2018年 5月末時点で 7,241 箇所に整備されています。

【何故整備が進まないのか?】

 現在、水素ステーションを 1 箇所整備するにあたり必要とされるコストは土
地代を除いて 4~ 5 億円、年間の運営費が 4~ 5 千万円と言われており、欧
米の整備費 2~ 3 億円、運営費 2~ 3 千万円に比べて割高になっています。

 欧米との差異は、主に高圧ガス保安規制により義務付けられる特殊材料・機
器のコスト、年 1 回の法定保安検査(約 2 千万円の費用がかかり、検査の間、
30日間休業する必要あり)、従来はセルフ充填が認められていなかったため、
保安管理者の常駐が求められること等に起因しているとされています。

 「ニワトリと卵」の議論になりますが、資源エネルギー庁の試算では水素ス
テーションを自立させるためには FCV (乗用車)が 1 ステーション当たり 900
台とされています。この水準に到達するにはまだまだ時間が必要なので、それ
以前の段階でも水素ステーションが「商売になる」仕組み作りが、整備を加速
するためには必要です。

【水素ステーション整備促進に向けた取り組み】

<JHyMの設立>
 2018年 2月 20日、インフラ事業者・自動車会社・金融投資家等が参画し、水
素ステーション整備推進を目的とした日本水素ステーションネットワーク合同
会社(通称:JHyM)が設立されました。

 JHyM の事業内容は「水素ステーションの戦略的整備」「水素ステーションの
効率的な運営への貢献」の 2 点に集約されます。

具体的には:
1. 新規の水素ステーションの整備に対しては、構成企業からの JHyM への出資
  金と、国からの補助金を活用し、JHyM が水素ステーションを整備すること
   でインフラ事業者の初期投資額を低減(従来は国・(地域によっては地方自
   治体)からの補助金のみ)
2. 水素ステーションの運営に対しては、自動車会社がJHyMを通じて、上記1
   で整備された水素ステーションの運営にあたるインフラ事業者に業務委託
   を行うというスキームで、現時点では自立が難しい水素ステーションの
   運営を支援します。

 既に効果は出始めているようで、設立当初 11 社(内インフラ事業者は 6 社)
であった構成企業は、設立から 5 ヶ月を経た今は 18 社(内インフラ事業者は
8 社)に拡大しました。

 以前から政府・地方自治体・自動車会社による水素ステーション整備・運営
に対する支援は存在しましたが、JHyM の設立で、金融投資家を新たなステーク
ホルダーとして迎え入れたこと、支援が一元化することにより、より効率的な
支援がなされ、水素ステーション整備の促進に繋がることが期待されます。

<規制緩和>
 前述の通り欧米に比べて厳格な高圧ガス保安規制が割高な日本の水素ステー
ションの整備費・運営費の一因となっていますが、2013年 5月の安倍総理によ
る「成長戦略第 2 弾スピーチ」において FCV 用水素タンク、水素ステーショ
ン等に係る規制の一挙見直しを発表したことをきっかけに規制の見直しが行わ
れました。既に
1. 82MPa(820気圧)水素ステーションの基準整備
   ⇒ MIRAIやClarity Fuel Cell等、70MPaのタンクを備えたFCVに対する充填
      が可能に
2. 公道とディスペンサーの隔離距離の緩和
   ⇒ レイアウトの自由度が向上し、より狭い敷地に水素ステーションが整備
      可能に
3. 消防法の見直し
   ⇒ ガソリンスタンドと水素ステーションの併設が可能に
等の規制緩和が実現しています。

 セルフ水素ステーションについては、2015年の規制改革実施計画に盛り込ま
れた結果、本年 5月に一財)石油エネルギー技術センターにて「セルフ水素ス
タンドガイドライン」が取りまとめられ、セルフのガソリンスタンドほど「お
手軽」ではありませんが、今後「ガイドラインに従って、契約を結び、教育を
受けた一般の FCV のドライバー」はセルフで水素充填を行うことができるよう
になります。

 更に 2017年 1月の施政方針演説での「燃料電池自動車の普及等の目標に向け
各省庁にまたがる様々な規制をすべて洗い出し改革を進めます」との言及を受
け、37 項目の規制見直しが規制改革実施計画計画に盛り込まれ、内 10 項目に
ついては 2017年度中に措置がなされ、13 項目は 2018 / 2019年度中に措置が
なされる予定、残りの 14 項目についても既に検討が開始されています。

 改めて見直してみると FCV、水素ステーションに関係する規制の多さに驚い
た次第(安部総理が 2014年の所信表明演説で用いた「がんじがらめの規制」と
いう表現を実感しました)ですが、今後もひとつひとつ規制緩和が進むことで、
水素ステーション整備の加速につながることでしょう。

<FC商用車の普及>
  本年 6月にトヨタ自動車とセブン-イレブン・ジャパンは燃料電池トラック
(FC トラック)の導入等を通じてセブン-イレブンの物流及び店舗の環境負荷
低減を図る実証実験に取り組むと発表しました。

 この実証実験に導入される積載量 3t の FC トラックは、セブン-イレブン
の配送トラックの標準的な走行距離で、一日当たり MIRAI の 30~ 35 倍の水
素を使用するそうです。つまり、乗用 FCV であれば 1 箇所の水素ステーショ
ンを自立させるためには 900台が必要となりますが、この FC トラックが 25台
~ 30台あれば、水素ステーションを 1 箇所自立させられることになります。

 既に都営バスが商業運行を始めていますが、「水素基本戦略」においては 2020
年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、100台の燃料電池バス(FC バ
ス)の導入目標が掲げられています。

 航続距離が長く、燃料充填に要する時間が内燃機関車と変わらない燃料電池
は、本来長距離トラック・長距離バスとも相性の良いパワートレーンです。ト
ヨタ自動車がカリフォルニア州での FC トラック(港湾トレーラー)の実証実
験を進めていますが、水素社会の実現・ CO2 の削減に向け、バッテリー EV の
みならず、FC トラック・ FC バスの普及が期待されます。

【まとめ】

 改めて水素ステーションについて調べてみると、意外といっては失礼になる
かもしれませんが、日本政府の水素社会の実現に向けた熱意を感じることがで
きました。

 FCV の普及にはもうひとつ「CO2 フリー水素の普及」という大きなハードル
がありますが、系統電力への負担を勘案すると、バッテリー EV 一辺倒の自動
車の電動化は危ういと感じるところもあり、「再生可能エネルギー由来の CO2
フリー水素+燃料電池」は残しておかなければならない選択肢と認識していま
す。

 JHyM、一連の規制緩和が水素ステーション整備を加速化し、近い将来、内燃
機関車やハイブリッド車と同じ感覚で FCV が購入できる日が来ることを願って
止みません。

<川浦 秀之>

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