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コラム

燃料電池自動車の将来

 

 今回は「燃料電池自動車の将来」と題して、10月 17日配信のメールマガジン
においてご回答をお願いしたアンケートの結果を踏まえてのレポートです。

http://www.sc-abeam.com/sc/?p=8079

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【はじめに】

  第45回東京モーターショー2017では、多数のOEMが市販車・市販前提車・コン
セプトカーを展示していたバッテリー電気自動車に比べ、燃料電池自動車の展示
台数は大きく見劣りしていましたが、トヨタ自動車のSORA・Fine-Comfort Ride、
メルセデスベンツのGLC F-CELL等、燃料電池自動車の将来性を垣間見ることがで
きるモデルも展示されていました。
 
  現在のバッテリー電気自動車が抱える「航続距離の短さ」「充電にかかる時間
の長さ」という問題を解決するポテンシャルを持つ燃料電池ですが、燃料電池自
動車の普及のカギとなる水素ステーションの整備は関係者の目論み通りには進捗
していないのが現状で、そんな中、トヨタ自動車は前記の問題を克服する「全固
体電池」の2020年代前半の実用化を発表しました。
  前途多難とも思える燃料電池自動車の将来ですが、本レポートでは、このまま
消えてしまうのか、あるいは、電気自動車の電力供給源の一角を担う存在となり
得るのか考察致します。

【読者アンケートの結果】

  先ず、今回のアンケートに御協力下さいました読者の皆様に御礼を申し上げま
す。アンケートの結果は以下の通りでした。

燃料電池自動車の普及に関する将来予測
1.乗用車・商用車共に普及する。                  74.1%
2.乗用車では普及するが、商用車では普及しない。   1.5%
3.商用車では普及するが、乗用車では普及しない。  10.0%
4.乗用車・商用車共に普及しない。                13.1%
5.その他                                         1.2%

  昨今の「自動車の電動化」に関するマスコミの論調の中には、誤解を恐れずに
申し上げれば「電動化=バッテリー電気自動車化」というイメージを読者・視聴
者に植え付けかねないものも散見される、という印象を持っておりましたが、
「乗用車・商用車共に、燃料電池自動車は普及する」という御回答が四分の三近
くを占め、乗用車・商用車のいずれかであれば普及するという御意見を合計する
と、85%以上の方が「燃料電池自動車は普及する」とお考えになられているとい
う結果に、希望的観測も含めて「燃料電池自動車は普及する」と考えている筆者
は大変勇気づけられました。

【燃料電池自動車普及に向けたロードマップに掲げられた目標】

  ここで一度、従来発表された燃料電池車普及に向けたロードマップをおさらい
します。

1) 2014年6月23日:「水素・燃料電池戦略ロードマップ」発表
                  (水素・燃料電池戦略協議会)
   ・2015年までに燃料電池自動車を市場投入
   ・2016年までに燃料電池バスを市場投入、燃料電池の適用分野を、フォーク
     リフトや船舶に拡大。
   ・車両価格は2025年頃に、同車格のハイブリッド車同等の車両価格を実現。
   ・2015年度内に四大都市圏を中心に100箇所程度の水素供給場所を確保。
   ・水素価格は、2015年にガソリン車の燃料代と同等以下、2020年頃にハイブ
     リッド車の燃料代と同等以下に設定。

2) 2016年4月15日:「水素・燃料電池戦略ロードマップ-改定のポイント」発
                   表(資源エネルギー庁)
   ・燃料電池自動車の普及台数目標を明示:
     2020年までに4万台程度、2025年までに20万台程度、2030年までに80万台
     程度。2025年頃に、ボリュームゾーン向けの燃料電池自動車の投入。
   ・水素ステーションの整備目標・自立化目標を明示:
     2020年度までに160箇所程度、2025年度までに320箇所程度、2030年度の
     台数目標80万台程度に対しては、900基程度が必要。
     2020年代後半までに、水素ステーション事業の自立化。

3) 2017年8月24日:「水素基本戦略の策定・規制見直しの必要性について」発表
                  (資源エネルギー庁)
   2017年4月11日に開催された、「第一回 再生可能エネルギー・水素等関係
   閣僚会議」において、安倍総理より「2020年に4万台の目標達成に向け、水素
   ステーションの整備を加速させる仕組み作り」「水素ステーションに関する
   規制合理化のため、海外の規制・国内のガソリンスタンドとの比較も念頭に
   置いた総点検」の指示が出される。

4) 上記指示を受け、2017年末を目途に「水素基本戦略」がまとめられる予定。

  上記目標の現時点までの進捗状況を見ると:

・2015年までに燃料電池自動車を市場投入
  → トヨタMIRAIが2014年12月15日に発売、ホンダクラリティ フューエル セル
     も「2015年までに」に対しては多少遅れたものの2016年3月10日に発売され
     ました。
・2016年までに燃料電池バスを市場投入
  → 東京都交通局に対してトヨタFCバスが2017年2月/3月に各1台納車されま
     した。納車時期を考えると「市場投入」されたのは2016年と考えて差支え
     ないでしょう。
・2015年度内に四大都市圏を中心に100箇所程度の水素供給場所を確保
  → 2015年度末時点での水素ステーションの軒数は、移動式を含めて80箇所で
     した。2017年7月時点でも96箇所と2015年度内の目標に届いていません。  
・水素価格は、2015年にガソリン車の燃料代と同等以下
  → 水素ステーション建設費用への補助金、化石燃料には課されている税金が
     燃料電池自動車用の水素燃料では免除される等の施策により、政策的な価
     格設定がなされており、MIRAIの発売当初から「同クラスのガソリン車と
     1km当たりの燃料代が同等」が実現しています。今後「2020年頃にハイブ
     リッド車の燃料代と同等以下」を目指した諸施策が実施されるものと期待
     されます。

となっており、他の項目に比べて水素ステーションの整備が遅れているという印
象を受けます。

【水素ステーション整備の課題】

  モデル数は限られ、まだ普及帯の価格とは言えないものの、量産車が発売され
たにも関わらず、現時点での累計販売台数が2千数百台にとどまっているのは
水素ステーションの整備が計画通り進んでいないことと無関係ではありません。
まだ水素ステーションが一軒も存在しないという道府県も多く、また高速道路上
には水素ステーションが存在しないため、折角巡航距離は長いのに、長距離ドラ
イブには利用できないというケースもありえましょう。

  今回のアンケートを通じて頂いたコメントでも、「乗用車・商用車共に普及し
ない」と回答された方の多くが、水素ステーション整備が困難と思われることを
理由とされ、「商用車では普及するが、乗用車では普及しない」と回答された方
の中で、「(決まったルートを運行する)商用車であれば水素ステーションの数
が少なくても運用可能であるため」とのコメントを頂いた方がいらっしゃいまし
た。

  水素ステーションに係る規制の見直しは2013年度、2015年度、2017年度にそれ
ぞれ、「規制改革実施計画」が策定され、措置が行われています。

2013年度:燃料電池自動車用水素タンク・水素スタンド等の基準を整備し、水素
          スタンドの整備を可能にすることを目的としたもの。
          見直し検討項目は25項目、既に全ての項目の検討を実施、23項目に
          ついては規制の見直しを実施済み。

2015年度:水素スタンドの都市部等への整備拡大及びコスト低減を目的としたも
          の。
          見直し検討項目は18項目、2017年9月時点で12項目については措置済
          み。

2017年度:水素スタンド・燃料電池自動車の普及に向けたコスト低減を目的とし
          たもの。
          見直し項目は37項目、内、2017年9月時点で4項目が措置済み、2017年
          度中に更に10項目、2018年度から2019年度にかけて13項目の措置を予
          定。
         
  主な成果としては、「充填圧力82Mpaの水素スタンドの基準が整備され、設置
が許可されたことにより、一回により多くの水素を充填できるようになったこ
と」、「公道とディスペンサーの距離が短縮され、従来よりも狭い土地に水素ス
ーションが設置できるようになったこと」が挙げられます。
  普及に重要な役割を果たすであろう、「セルフ充填の許容(2015年度の規制改
革実施計画の検討項目のひとつ)」等については現時点では「検討中」となって
いますが、安全性は十分担保された上で、年末に取りまとめられる「水素基本戦
略」に関連して、更なる規制緩和が進み、水素ステーション整備が加速されるこ
とが期待されます。

【商用車の航続距離】

  トヨタMIRAI、ホンダクラリティ フューエル セルのバッテリー電気自動車に
対するセールスポイントに「一充填の航続距離が650~750km(JC08モード)」
「水素の充填に要する時間が3分」があります。一方、現時点で商用化されてい
る唯一のOEM製商用車であるトヨタFCバスの航続距離は200kmに留まっています
(用途は路線バスですので、もちろんこれは十分な距離です)。

  水素ステーションの課題に加え、航続距離を伸ばすためには、バッテリーほど
ではないにせよより多くの水素タンクが必要で、乗客数・貨物積載量に影響を及
ぼすという課題もあるものの、コンセプトモデルとはいえ一充電の航続距離が
300kmのバッテリー電気大型トラック(三菱ふそうVision ONE)が発表された今、
航続距離を訴求した燃料電池トラック・バスを開発して実際に走らせる(※)等
のアピールが必要な時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

※ 運送事業者・バス事業者とタイアップして、水素ステーションが整備されて
   いる都市間(東京⇔名古屋等)の定期輸送便、高速バス等で運用する等。

【何故燃料電池車なのか】

  このメールマガジンの読者の皆様に改めて申すまでもありませんが、自動車の
電動化は目的ではなく、低炭素社会を実現するための「手段」です。
技術開発競争は熾烈で、「全固体電池」をはじめとする次世代の「高エネルギー
密度で」「短時間で充電可能な」電池が「低コストで」実用化されたら、燃料電
池は「過去の技術」となってしまう可能性も否定できません。

 内燃機関も更なる低燃費化が進み、電動技術との組み合わせによって、Well
to Wheelでは、水素の生産方法によっては燃料電池自動車よりもCO2排出量を低く
抑えられるという可能性もあります。

 しかしながら、今後ますます増えていくであろう再生可能エネルギーによって
作られた電気を効率よく蓄積・輸送するにあたり、水素は有用な手段となる可能
性を持っています。

 筆者が着目しているのはこの点であり、燃料電池が技術として勢いがのあるう
ちに普及させて、今後数十年、自動車のパワートレーンの一角を担って欲しいと
考える次第です。

 年内にまとめられる「水素基本戦略」が燃料電池自動車の普及を強力に後押し
し、将来再生可能エネルギー由来の、環境負荷の低い水素が燃料電池自動車を
走らせる日が来ることを願って止みません。

<川浦 秀之>

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