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コラム

マニュアルトランスミッションは生き残ることができるか?

 

 今回は「マニュアルトランスミッションは生き残ることができるか?」と題
して、6月 20日配信のメールマガジンにおいてご回答をお願いしたアンケート
の結果を踏まえてのレポートです。
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7964

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【はじめに】

  1985年の国内市場における乗用車のマニュアルトランスミッション(以下 MT)
  /オートマチックトランスミッション(以下 AT)車の販売比率はほぼ半々
(1985年で MT 車が 51.2% /軽自動車と輸入車を除く乗用車)でしたが、その
後、MT 車の販売台数は急速に減少し、2016年は乗用車の新車販売の約 98.4%
を AT 車が占めるに至っています。日本以外の国についても調べてみたところ、

米国         : 1992年 25%→2012年 7%→2017年 3%以下(見込み/乗用車)
ドイツ       : 2001年 約80% → 2010年 約77% (乗用車)
EU-27か国合計: 2001年 約88% → 2010年 約83% (乗用車)
中国         : 2006年 約63% → 2012年 約57% (乗用車)
インド       : 2016年 95%以上 (乗用車)
ブラジル     : 2012年 87% → 2013年 83.3% (乗用車)
ロシア       : 2006年 75% → 2016年(1~4月)48% (乗用車)
と、若干古いデータもありますが、日本・米国以外ではまだまだ MT 車が主流
であり、20年後であっても MT はまだ存続しているのではないかと希望を持た
せてくれます。

  しかしながら「MT車のお膝元」である欧州では:

●オランダで2025年以降、内燃機関を動力源とする自動車の販売を禁止する法
  案が可決となる見込み(2016年4月)
●ノルウェーが国家運輸計画2018-2029年に、2025年までに排気ガスを排出し
  ないゼロエミッション車の比率を増やすことを盛り込む(2016年6月)
●ドイツ連邦議会が2030年までにな内燃機関エンジンを禁止する決議案(法的
  拘束力はない)を採択(2016年10月)
●スウェーデンのボルボ・カーが、「2019年以降に発売する新型車を全てハイ
  ブリッド車か電気自動車とし、2025年前後を目途に、内燃機関のみを動力源
  とする車両の生産を終了する」と発表(2017年7月5日) 
●フランス政府が「2040年までにガソリンおよびディーゼルエンジン車(ハイ
  ブリッド車を除く)の販売終了を目指す」と発表(2017年7月6日)。

等、急速に電動化に舵が切られています。

  また新興国においても、

●インド政府は、2030年までにガソリン車及びディーゼル社の国内販売を禁じ、
 同国内で販売される自動車を電気自動車のみに制限するとの方針を表明
 (2017年6月)
●中国政府は 2015年に策定した「中国製造 2025」ロードマップにおいて、EV、
  PHV、FCV の販売台数を 2020年に 200 万台、2025年に 700 万台とする計画
  を掲げた。この計画を実現するために同政府は、同国で一定台数の製造・販
  売を行っていいる自動車メーカーに対して、早ければ 2018年にも全体の販売
  の一定量を EV、PHV、FCV とするよう義務付けるのではないかとみられてい
  る。

等、電動化の動きは顕著になっています。
  また、電力供給の制約のため急速な電動化を進めることが難しい発展途上国
においても、一部ではAT化が進んでいます。 

 筆者は 1998年~ 2003年と 2011年~ 2015年の 2度にわたり、アフリカのケ
ニアに自動車のトレードビジネスの担当者として駐在しました。この経験で申
しますと、1度目の駐在の時にはお客様から見向きもされなかった AT 車が、8
年のブランクを経た 2度目の駐在時には需要の主流となっており、取引先であ
る日本メーカーの正規代理店からのオーダーも、MT しか設定のないピックアッ
プトラック等を除くと大半が AT 車に変わっていました。

 ケニアは一年間に新たに輸入される自動車の 5台に 4台が中古車、左側通行
/右ハンドル故、日本車が圧倒的なシェアを占めるという市場です。輸出でき
る MT 車の数が減少するという供給側の背景に加え、経済発展に伴い自動車の
需要は増える一方、道路インフラの開発が UIO の増加に追いつかず渋滞が慢性
化、新車を購入される(希望すれば MT も選択できる)お客様からも「こんな
渋滞の中では、もはや MT 車には乗れない」という声を多数頂きました。以前
は「AT 車では押し掛けができない」「AT 車は燃費が悪い」「AT は壊れると
(町のガレージでは)修理ができない、交換すると値段が高い」と散々な評判
だったのが嘘のような、お客様の嗜好の変化でした。

 AT の性能(燃費・耐久性等)の向上、ADAS /自動運転との親和性、更には
電動化と、今後 MT のシェアは減ることはあっても増えることはないという流
れは止めることはできませんが、「MT でしか味わえないクルマの楽しみがある」
と思っている一 MT ファンとして、このまま MT は世の中から消滅してしまう
のだろうかと思い、皆様の御意見を伺わせて頂いた次第でございます。
【設問ならびにアンケート結果】

<設問>
20年後、マニュアルトランスミッションは:
 

<結果>
1. もはや電動車の時代となっており、トランスミッションという概念自体が過
   去のものとなっている… 86.5%  

2. 趣味のクルマや商用車、新興国向け自動車のトランスミッションとして存続
   し続けている … 9.6%

3. クラッチ操作を自動化したロボタイズドMTの構成機構としては存在し続ける
   が、3ペダルを搭載した車は完全消滅する … 2.9%
 
4. その他 … 0.9%
 

【考察・随想】

 最初に、今回のアンケートに御回答下さった方、コメントを下さった方皆様
に心より御礼申し上げます。以下、一部にコメントを引用させて頂いておりま
すが、趣旨を損ねないと判断した範囲で加筆・集約しています。ご容赦くださ
い。
 

<MT車の何が魅力なのか>
 今回のレポートを書くにあたり、電動車に試乗しました。
アクセルペダル1本で駆動力をコントロールするというのは大変新鮮でしたが、
筆者がアナログな人間なためか「楽しい」という感覚は湧かず、「自らシフト
レバーを操作して限られたエンジンのパワーを引き出してやってこそ自動車の
運転だ」との思いを新たにしました。

 最新の高性能車に搭載されている素晴らしい AT を経験すれば考えが変わる
可能性は否定しませんが、トルコン AT や CVT はエンジンと車輪の間に「何か
が挟まっている」という感覚が拭えません。
 

<国内市場で購入可能なMT車の商品力について>
 MT 車と AT 車の販売台数が拮抗していた 1980年代中盤、AT は 3 速か 4 速
が大多数で、当時既に 5 速が一般的だった MT に比べると、AT 車は「運転は
楽だけど『燃費が悪い』『走りがかったるい』『値段が高い』」というのが一
般的な評価でした(5 速トルコン AT は 1989年に上市)。これは現在でも MT
車が主流のマーケットでも同じ理由であると理解しています。

 このような理由で、当時の若い男性の間には、「AT 車は女性の乗るクルマ」
という意識が少なからずあって、それが MT 車の販売台数を押し上げた側面も
ありました。

 警察庁の運転免許統計によれば、1985年の運転免許所有者の男女比は男性
65.5:女性 34.5。2016年には男 55.1:女 44.9 と女性の免許所有者の割合が
大幅に増加しています。

 当時から 30 余年が経ち、AT は改良を重ね、既に性能的には MT を超えたと
言っても差支えない領域まで到達しています。現在国内市場で同一グレード
(同一装備)で MT/AT が共に選択可能な国産メーカーのモデルを比較してみま
すと、MT 車の方が

1. 燃費はAT車より優れ、価格もAT車より安い、という従来のケースは少数で、
2. 燃費はAT車よりすぐれているが、価格はAT車と同じ
3. 燃費はAT車より劣るが、価格はAT車よりも安い
4. 燃費はAT車より劣り、価格はAT車より高い

というケースも散見され、AT車の性能向上と、MT車の需要減に伴うコストアッ
プの実態を改めて痛感しました(実際の走りについては、いずれ試乗して確認
したいと思います)。

 今回のアンケートの「3.」に御回答頂いた方から「MT は是非残ってほしいが、
MT を維持することによる製造コスト増加の圧力に、やがて耐えられなくなると
思う」というコメントを頂きました。今後電動化や発展途上国のモータリゼー
ションの進展に伴い MT から AT への移行が進むと、MT は乗用車のトランスミ
ッションとしては完全に消滅してしまうか、存続したとしても、AT 車に比べて
数十万円高価になるという可能性もあり得ると暗澹とした気持ちになります。
 

<MTの技術革新>
 AT に比べると改善の余地が少なく見える MT ですが、地道に新規開発・改良
が行われています。

 MT 車の何が面倒かといえば、先ず思い浮かぶのが渋滞ですが、今日的な十分
に低速トルクがあるエンジンと踏力の軽いクラッチの組み合わせであれば、渋
滞での発進は、アクセルは踏まず左足でクラッチミートすれば事足ります。AT
車でブレーキから足を離してクリープで進むことに比べると一手間余計にかか
りますが、「渋滞中に足がつる」ようなことは最新の MT ではもはやないです
し、シフトレバーも軽い操作力で、正確に目標のギアに入るようになりました。
また賛否両論ありますが、坂道発進でもサイドブレーキを使わず発進できるよ
う、坂道でクラッチを切った際も数秒間は後退しないよう保持してくれる機能
も一般的になりました。

 読者の皆様にも、是非最新の MT を体感して頂きたいと切に思うのですが、
ディーラーに MT の試乗車が準備されているケースは稀のようで、折角メーカー
が丹精込めて開発した MT が、消費者にアピールされる機会が少ないのは大変
もったいないことだと感じます。

 クラッチ操作を運転手が自ら行う MT もさることながら、面倒だと思われて
いるクラッチ操作を自動化する試みも古くから行われており、最近は人間の操
作に比べても勝るとも劣らないものになってきています。

 AT 限定免許でも運転できるため、MT に分類するかについては賛否が分かれ
るところですが、高価なデュアルクラッチはもちろんのこと、シングルクラッ
チのロボタイズド AT でも、基本機構が MT であることを理解し、変速の際に
一旦アクセルを抜けば、素早くクラッチの断続を機械がやってくれ、3 ペダル
の MT に遜色のない気持ち良さで走れること驚きました。これもディーラーで
説明を受けると「オートマチック」であることを必要以上に強調するが故に、
トルコン AT / CVT と同じように操作・運転してしまい、変速時に大きなショ
ックを伴う等のネガが出てしまうので、大変もったいないことだと感じます。

 AT 限定免許が一般的になっているとはいえ、いまだ 4 割以上の新規免許取
得者が MT 車も運転できる免許を取得しているので、「面倒なクラッチ操作は
不要ですが、これは MT です」ときちんと説明すれば、シングルクラッチのロ
ボタイズド AT はもっと市場に受け入れられるのではないでしょうか。
 

<終わりに>
 今回「3.」と御回答頂いた方から「伝達効率の良い MT 機構は、変速ショッ
クなどの弱点が克服されれば、将来主流になる可能性を秘めている」「純粋な
MT はもはや不要かと思うが、AMT や DCT として進化していくのではないか」
というコメントを頂戴しました。また「2.」と御回答頂いた方よりは「2 ペダ
ル MT は一寸刻みの低速走行が不利なため、MT は残ると思う」というコメント
を頂きました。

 筆者自身はクラッチペダルの操作を苦にしませんし、クラッチ操作も含めて
MT 車の操縦と考えており、クルマとの対話が楽しめる 3 ペダルの MT 車にで
きる限り長く生きながらえて欲しいと切望しています。しかしながら、もしも
クラッチペダルが存在するが故に、アクセルペダルと車輪が直接繋がっている
感覚を味わうことができる MT が消滅してしまうのであれば、ADAS との親和性
も考慮すると、ロボタイズド MT でもデュアルクラッチでも良いので、機構と
しての MT には残って欲しいと思う次第です。

 幸い今ならば、少なくなったとはいえ輸入車を含めると約 60 モデルの MT
車(3 ペダル)が国内で購入可能です。まだ消滅すると決まったわけではあり
ませんが、ある間に目一杯楽しみたいと思います。

<川浦 秀之>

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