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コラム

自動運転が齎すであろう社会的便益について

 

  今回は「自動運転が齎すであろう社会的便益について」と題して、5月 16日
配信のメールマガジンにおいてご回答をお願いしたアンケートの結果を踏まえ
てのレポートです。

( http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7942  )

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【はじめに】

 御多分にもれず、筆者は自動車産業に関わるものとして、「シェアリング」
「電動化」「自動運転」について、自動車産業・市場・社会を根本から変える
であろう重要な三つの要素として、大いに注目している。中でも「自動運転」
については、連日の報道等の通り、それがどのような形で社会の中に受け入れ
られ、それにより我々の日常生活が変わるのか、に大いに関心を持っている。
確かに、自動運転については、我々が将来に向けて直面する、「環境問題」
「エネルギー制約」「交通事故」「渋滞問題」等々、所謂メガトレンドの問題
を解決する切り札の一つであることは間違いないと思う。然し、そもそも、自
動運転にもっとも期待することは何か、より手触り感を以て理解したい、と思
い、経産省・国交省の自動走行ビジネス検討会にての『取組方針』を例に、皆
さまに先月、アンケートの設問として、投げかけた次第。

【読者アンケートの結果】

 結果、多数の読者よりご回答と共に多数のご意見を頂いた(皆さまのご協力
に改めて感謝申し上げます)。その結果は、以下の通り、「隊列走行」が他の
選択肢を圧倒的に抑えて「ブッチギリ」な結果となりました。

1. 「隊列走行」による物流事情の改善、更なる効率化。       88.8%
2. 「ラストワンマイル自動走行」による地域の人手不足や移動弱者の解消。
                                  5.7%
3. 「自動バレーパーキング」が齎す利便性と駐車エリアの有効活用。   3.9%
4. その他                                                         1.6%

【自動運転の定義】

 本論に入る前に、本稿で対象する「自動運転」の定義について簡単に定義し
ておきたい。本稿で使う「自動運転」とは、 SAEのレベルでいうL4-5を専ら、
対象と考えたい。つまり、人間ドライバーが存在しない「ドライバーレス」か
乃至は、それを目指しての実証の取組みに対象を絞って考えることとする。

 しかしながら、「ドライバーレス」については、ジュネーブ交通条約上、公
道を走行する場合には認められていない。日本の道路交通法上も然り。よって、
ドライバーレス運転の実現に当たっては2016年の 3月の国際間合意によって認
められた「自動運転車両の実験について、車両のコントロールが可能な能力を
有し、それが可能な状態にある者がいれば、その者が車両内にいるかどうかを
問わず、現行条約の下で実験が可能」という管制塔からの遠隔操作を前提とす
るL4及びL5が対象となる。

 また、後述する実証実験 3ケースについては、いずれも、高速道路乃至は、
特定領域におけるドライバーレスに向けた取り組みであり、現段階ではL4の実
現を目標とするものである。

【トラック隊列走行】

 全日本トラック協会が公表する統計によると、トラック輸送は、まず、「自
家用トラック」によるものと「営業用トラック」によるものとに大別される。
この二つの分類の中では、当初(平成初期)は「自家用」が勝っていたものが
平成 9年を機に両者が逆転し、以後、「自家用」は減少の一途を辿り、今日で
は、「営業用」の輸送トン数は年間 2,934トンで、「自家用」の 1,381トンの
倍以上になっている。なお、積荷の内容を見ると、「自家用」の大半は建設関
係資材が占める一方、「営業用」の大半は消費関連貨物、生産関連貨物に占め
られている。つまり、これら物品の輸送は「自家用」を用いるに足らず、輸送
が「営業用」にアウトソースされたと考えられる。

 次いで、トラックの種類と保有台数を見るに、車両総重量11トン以上の大型
貨物自動車は全国で保有台数57万台を数えるが、内 7割強が「営業用」である。
つまり、「トラック隊列走行」は概ね「営業用」大型トラックに狙いを合せて
のものと考えられる。

 政府の計画では、2018年 1月より、新東名高速道等を使い、 3台連結で後続
する 2車両はドライバーありでの実証実験が開始される。トラック隊列内の車
間距離は4-10メートルで保持され、結果、10%程度の燃費削減が期待される。
また、後続運転手は走行環境の監視義務は負いながらも、車両の操舵からは一
応解放される。

 課題は、大型トラックに関連した自動運転に係る装置は乗用車以上に高い安
全・技術水準が求められること、運行上、効率の良い車両の編成を組む場所を
どこにするのか、上手く設定すること、更には、対象車両が20トンクラスの大
型トラックであれば、車両の長さは約 12m、これを 3台連ねれば、合計の長さ
は 50mにもなり、近くを走る乗用車は、追い抜く際には、相当慣れていない限
り、結構な精神的負担を感じること、等がある。

 ついで、2020年半ばからはいよいよ新東名高速(東京~大阪間)での後続無
人走行の実証がはじまり、更に2022年からは事業化が見込まれている。加えて
ドローンや自動運行船等、他の輸送手段とマルチモーダルを形成できれば新た
な輸送形態に発達する、というシナリオも夢ではないだろう。

 トラック運転手数は80万人を数え、しかも高齢化が進んでおり、高速でのト
ラック輸送というハードな業務にはそう簡単には交代は見つからない。よって、
自動化に伴い議論となる雇用の問題は、トラック輸送に関しては当て嵌らない
と思われる。

 また、一方で運送業においては採算上、人件費が占める割合は極めて高く、
実に営業収益(=輸送料収入)の 4割近くに上る。トラックの隊列走行により
後続無人化が実現すれば、ドライバー人数の減った分、人件費削減が見込める
為、それを本件の為の技術開発の為の余資として充当することも可能となるの
で採算性が期待できる。

 以上の通り、考えれば、読者の大方の皆様が本ケースを選択したことがよく
理解できる。想定ケースが明確であり理解がし易く、他のケースに比べ『有難
味』が理解しやすい、と筆者も同感する次第。但し、折角なので、その他ケー
スに関しても論を進めたい。

【ラストワンマイル自動走行】

 高齢化・過疎化に伴う公共交通の撤退により、移動そのものが困難に遭遇し
ている地域の社会問題の解決を目指すのがラストワンマイル自動走行だ。政府
計画では、モデル地域として茨城県日立市、石川県輪島市、福井県永平寺町、
沖縄県北谷町の 4か所を指定、これらの公道を含む適用地域での実証実験が、
今月26日から実施する北谷町に続いて順次、実施される。実験を通じて、事業
性、社会受容性を高め、運行管理技術の確立やビジネスモデルの検討等を進め
る計画だ。

 本件では、車が、基本は高速沿いの道の駅を起点とする公道(特定地域)で
の無人状態で単独走行を行うことから、人間ドライバーによる運転を義務付け
たジュネーブ交通条約への対応により、(人間ドライバーによる)遠隔監視・
制御等を含む管制技術が必要となる。また、管制技術を担保する通信技術、サ
イバーセキュリティも実現に向けた重要な要素となる。

 また、本ケースのそもそもの目的が社会問題の解決ということから、「果た
してビジネスとして成立するか」という疑義が生じるので、実証に当たっては
技術的な課題の吟味に加え、ビジネスモデルの具体化・成立性が課題となる。

 ラストワンマイル自動走行に使われる自動走行用車両としては、フランスの
Navya 、Easymileという二つの会社が有名であり、日本でも前者がソフトバン
ク、後者がDeNAと組んで、実証実験に着手している。日本勢ではヤマハ発動機、
ZMP 、アイサンテクノロジー等が参入している。また、大学発ベンチャーも参
入している。

 また、実証は、上述の政府計画の 4か所に限ったものではなく、政府の許可
があれば色々なところで実施が可能である。このため、過疎地のみならず、都
市部商用地の特定エリアでの導入検討も件数多く、実証実験の件数としては、
このモデルが一番多いと思われる。結果、採取される種々のビッグデータを活
用してまた新たなサービスの開発に繋がる可能性もあろう。

【自動バレーパーキング】

 これも、従来から例にあがる、自動運転の魅力的なユースケースだと思う。
つまり、ショッピングセンターやテーマパークに車で到着した際に、自動バレ
ーパーキング機能があれば、ドライバーが車から降りた後、車が自動で走行し
て、駐車エリアに向かい、空きスペースを探して、そこに自動で駐車してくれ
る。この場合、操作を完了させるには、車側の装備のみでは不十分で、駐車場
側の管制センターとのコミュニケーション、監視カメラ等とのセンシング時の
システム連動が必要となる。

 自動バレーパーキングは、実際の降車位置と駐車場が離れている場合に利便
性が高く、駐車場事業者にとり、安全性向上、顧客満足度の向上、スペースの
有効利用等、メリットが多い。

 一方で、駐車場側の装備については、管制面や、監視カメラインフラの全国
または世界に通用する企画水準を策定する必要がある。また、「なりすまし」
等の問題に備えたセキュリティ対応も重要な課題だ。

 という具合に、本ケースも用途としては大変イメージしやすいと思う。
 
 因みに、自動バレーパーキングの専用駐車場における実証実験は、今年度末
よりスタートし、2020年度までに専用車両、専用駐車場における自動バレーパ
ーキングの実証実験が開始される。

【自動運転が目指す姿】

 以上、今後本格化する自動運転の実証ケース3つについて夫々述べたが、一方、
政府は 6月 9日に「日本再興戦略2017」を発表した。そのコアとなる”Society
5.0″に向けた戦略分野の一つ、「移動革命の実現」の中で、「自動運転が目指す
姿」がストーリーとして述べられている。果たして、政府は、どれを選んだので
あろうか?

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(物流現場) eコマースの進展に伴い、物品取引が飛躍的に増大してドライバ
ー不足と長時間労働に直面する中でも、一人のドライバーが行うトラックの隊
列走行によって大量の貨物が輸送可能となる一方、ドローンを活用した個別配
送が一般化することによって、大きな負担なく物流事業が継続でき、消費者ニ
ーズに沿った新たな配送サービスが日々生み出されている。

(発送・受取)四国の離島から北海道に暮らす友人に荷物を発送。自動運行船
による運搬、トラックの隊列走行、無人自動走行、ドローンなどロボット技術
の活用による個別配送の連携で、真冬でも迅速・安価に、安全・安心に荷物が
到達。

(高齢者・家族)鉄道や路線バスが廃船となり、仲間との囲碁の会や買い物・
通院に車を使用していた高齢者が、心配する家族から運転を控える様に勧めら
れていた。県道を走る自動走行バスと道の駅からの移動サービスが導入され、
住み慣れた土地で、家族に心配を掛けずに暮らし、外出も続けられている。

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【今後への期待】

 平たく言えば、正解は、「物流」と「移動」、しかも、両者に共通するのは
「サービス」。この点には、ある意味、「うーん、なるほど」。嘗ての「産業
立国」的主張とは格差を感じるものの、「革命」という言葉には、過去の価値
観との決別すら感じる。

 いずれにしても、 3つの実証パターン夫々について、今年末あたりには色々
なところで、ドライバーレス運転の実現を標榜する社会実験が展開されること
になる。実証実験が進むことで、自動運転の実現に向けて必要となる種々技術
開発(地図、通信、認識技術、判断技術、セーフティ、セキュリティ等々)
に加え、法律や倫理、社会受容性等の観点もより具体的な検証が進む。

 斯様な中で、今回、日本政府が上述の通り、敢えて「移動『革命』」と銘打
ったことに改めて共感する。自動運転に係る色々なことが動き出す、今年をい
わば、「革命元年」と称えたい。

<大森 真也>

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