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コラム

あらためて、乗用車の『窓』について考えてみる

 

 今回は「あらためて、乗用車の『窓』について考えてみる」と題して、1月 17
日配信のメールマガジンにおいてご回答をお願いしたアンケートの結果を踏ま
えてのレポートです。

( http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7852 )

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【はじめに】 
 アンケートの際にもお願いしましたが、まず過去のモデルを含めて印象に残
っている何車種かの乗用車の「窓」のことを想起してみていただけますでしょ
うか。その時々の流行や社会的要請を映していると思しき特徴や、車種カテゴ
リーによる差異などに、とても興味深い傾向や変遷をお感じになりませんでし
ょうか。

 過去数十年をざっと振り返ってみても、細いピラーに大きな窓という組み合
わせが主流であった 1960年代、俗に「コークボトルライン」と称されたグラマ
ラスなボディと小さめのグラスエリアが持てはやされた 1970年代、その反動と
すら思えた直線基調のデザインが主流となった 1980年代、そして車種カテゴリ
ーの多様化もあり一概にトレンドを語りにくくなった 1990年代という移り変わ
りがあったと感じています。

 そして二十一世紀。技術面そして用途(使われ方)でかつてない変革期を迎
えつつある自動車は、そしてその「窓」は、今どのような状況にあり、今後ど
う変化していくのでしょうか。以下、筆者の思い出や想いを交えながら書き綴
ってみようと思います。

【設問ならびにアンケート結果】
 それではまず、アンケートの結果をご覧ください。

<設問> 過去のモデルを含めて、何車種かの「窓」を想起してみてください。
あらためて俯瞰いただくと、大きさ・色・開閉の自由度などがボディタイプに
よってさまざまなのは勿論、同じボディタイプ(車種カテゴリー)であっても、
時代とともに少なからずの変遷があるのにお気づきになるのではと思います。
そこで以下、窓に求められる要素を選択肢として列挙しますので、皆様が最も
重視されるものをお選びください。申すまでもありませんが、いずれの場合も
窓が持ち合わせるべき全ての機能は満たされているという前提でお考えくださ
い。

<ご回答結果 および 頂戴したコメント>
(コメントは趣旨を損ねないと判断した範囲で加筆・集約しています、ご容赦
ください。)

 1. 車体全体のデザインとの調和・スタイリッシュさ :64.9 %
―視界確保などはカメラやレーダーなどの普及によりカバーされるので、全体
 デザインとの調和を重視したい。
―視認性を十分に確保した上でならば、やはり見た目に拘りたい。

2. 適度な囲まれ感・プライバシー :6.7 %
―特に低速走行の多い街乗りにおいては、他車・路上から室内が見え過ぎると
 感じるような車種が散見される。
―プライバシーガラスの普及は、この点が重視されるようになったからでは。

3. より広い運転視界 :19.2 %
―斜め後方・後方視界が著しく損なわれている車が増えてきているのは由々し
 き事態。いかにモニター等の装備が充実しようとも確実なのは目視である。
―ピラーが視界の妨げになることが多いので、安全(強度)と細さの両立を追
 求してほしい。
―ピラーによる死角を補うようなモニター(透視機能等)の実用化に期待して
 いる。

4. 後席を含む乗員の開放感 :6.1 %
―外観デザインも重視したいが、あくまで室内の開放感が十分に保たれること
 を優先したい。
―見た目重視によるサイドウインドゥの小型化、ショルダーラインの上昇によ
 る開放感の低下を、ルーフ部分の活用で補えないだろうか。

5. その他(重視すべきとお考えの要素の具体的なご教示も歓迎です):3.1 %
―熱反射や保温などエコ性能面で、ガラスの機能向上に期待したい。
―フロントウインドウが寝ていると斜め前方視界の悪化(=右直事故・山道で
 の危険増大)、乗降性の低下、ガラスの反射増大による視認性低下などマイ
 ナスの影響が多い。 

【考察・随想】  
 今回のテーマは少なからず感覚的な要素に左右されるものであり、結論が導
き出せる類の設問ではありませんでしたが、5 つの選択肢へのご回答そしてコ
メントは非常に参考になり、かつ興味深いものでした。あらためて、ご協力に
お礼を申し上げます。 

 冒頭でも少し触れましたが、過去半世紀ほどを振り返ってみますと、乗用車
の「窓」に求められる機能の変化や時流とともに、そのありようが変化し続け
てきたのではと感じます。

 1960年代の細いピラーに大きな窓、そして多くの車種に設けられていたフロ
ントドアの三角窓からは、安全対策(車体強度)への社会的・法的要請が昨今
ほどでもなかったことや、視界・開放感重視、そして換気性能の高さへのニー
ズが高かったことが伺えます。あえて今回は他の時代を含めて具体的モデル名
を挙げることはしませんが、当時の日本車・欧州車・米国車で人気を博しいわ
ゆる「名車」として今なお語り継がれているモデルの多くにもこの傾向が感じ
られます。余談になりますが筆者は当時、窓を全開にして低めの位置にあった
窓枠下端に片腕を乗せるドライビングスタイルに憧れたものです。それに続く
1970年代はデザイン・機能面で自動車がやや迷走した時期であり、業界全体が
本格的な排ガス規制への対応に追われ、それに追い打ちを掛けるようなオイル
ショックによるガソリン価格の高騰に襲われた時期でもありました。この時代
は「窓」についても、車体デザインの腰高傾向が強まった煽りで、全般に上下
寸法が小さめになったほか、タクシーにも使われる小型セダンにまで後席スペ
ース・後方視界が犠牲になったファストバックスタイルが登場したり(約 4年
間のモデルライフ途中に、ボディパネルを含む後半部の大幅な手直しをし、ノ
ッチバック形への回帰を余儀なくされたモデルもありました)、果てはカーゴ
スペース側面が窓ではなくボディパネルとされたバン(ワゴン)までもが現れ
るような、今にして思えば混迷もしくは試行錯誤の時代でした。その後 1980
年代にはエッジの効いた直線基調への回帰が目立ち、視界の広さに注目したデ
ザイン評価がメディアでも増えたことを記憶しています。1990年代になると車
種の多様化とともに直線基調・視界重視一辺倒の傾向は薄まりましたが、この
時期には SUV(当時は RV とも称された) やミニバンの台頭とともに、ドライ
バーの視点の高さがもたらすメリットが乗用車においても広く認知・意識され
るようになりました。

 では昨今の「窓」はどうなのでしょうか。今回、このテーマを取り上げよう
と決めて以来、意識してさまざまな車種の「窓」を室内・室外から観察してき
ました。偶然か必然か、まず感じたことは窓周りのデザインがモデルの魅力に
与える力の大きさでした。言葉や 2 次元スケッチで簡単には表現出来ない凝
ったプレスラインや動感、そしてそれを支える窓周りの質感(モールやウエザ
ーストリップとの’合い’や、ドアミラー・ドアノブとのデザインの調和)など
は車種それぞれの個性・主張が感じられ、購買意欲をそそられるに十分なもの
でした。今回の選択肢「1.車体全体のデザインとの調和・スタイリッシュさ」
(=室外からの視点)を推してくださったかたが約 2/3 に達したことも頷け
ます。とはいえ、正直なところその比率は私が想像していたより高く、それに
対して「3.より広い運転視界」を重視するという回答が約 1/5 という比率に
留まったことは予想外でした。そう感じたのは、冒頭の回想からお察しのとお
り筆者は長い間、ADAS は言うに及ばずモニター装置すらない時代の乗用車に
接してきて、未だに「前方(にあるバックモニター画面)を見ながらバックす
る」という感覚に慣れていないようなドライバーであるため、目視での視界の
広さを重視する傾向があるせいかもしれませんが、一連の現行車種観察を通じ
て通常の運転中でも頻繁に確認する必要のある斜め後方・後方の視界が良くな
い車種が意外なほど多かったのは、安全性や運転疲労度の高低にも絡む要素だ
けに、やはり気になりました。

 また、同じく気になったのは、運転視界同様に筆者が重視している「4. 後
席を含む乗員の開放感」が決して十分ではないと思われる車種が、いわゆる実
用車を含めて少なからずあったことです。空力特性との兼ね合いからか低めに
設定されたルーフ後方の下に空間を確保するべく着座位置が低めに設定されて
いたり、印象的なウエストラインや窓周りのシルエットと引き換えに後席の側
方視界が狭めで、チャイルドシートに座った幼児や背が低めの乗員の場合は真
横が窓ではなく壁になるような後席は、ドライブの最大の楽しみといえばラジ
オやカセットテープを聴きながら眺める車窓風景であった世代からするとにわ
かには納得し難い設定だと感じてしまいました。

 しかし、こうした視界や開放感に関する筆者の感覚・拘りには異論をお持ち
になるかたも少なくないとは思います。今や運転視界はさまざまなモニターが
実用化あるいは開発されていますし、換気性能はエアコンが担う時代です。後
席の問題にしてもパッセンジャーの楽しみの中心が、今や車窓風景から車載AV
装置・携帯デバイスといったインフォテインメントシステムに取って代わられ
つつあり、むしろ、「2. 適度な囲まれ感・プライバシー」が保たれるという
理由で、小さめの窓が歓迎される傾向すらあるのかもしれません。

 ただ、乗員とりわけパッセンジャーの快適性については日本、特に都市圏に
おいては複数所有が一般的ではない環境にありますので、一度特定車種を保有
してしまうとなかなか他車との相対比較をする機会に恵まれないがゆえに、高
い・低いにかかわらず保有した車種の快適性レベルに馴らされてしまうという
傾向があるのではないでしょうか。余談になりますがその意味で、クルマをご
購入の際には後席も含めた快適性を、視界や開放感に限ったことではありませ
んが幅広く、複数車種で比較する機会を、意識的に増やされることをお勧めし
たいと思います。

 必ずしもグラスエリアが広くないスタイリッシュなウエッジシェイプやヒッ
プアップ系の外観を持ち、高度な空調装置・インフォテインメントシステム・
モニター機能・ ADAS など新世代の装備が充実したモデルは、車種カテゴリー
を問わず確かに今の時代の一つのトレンドであり、市場ニーズも高いようです。
しかしその一方でそれら装備の充実が新車価格・メンテナンス費用の上昇に繋
がっていることは近年の価格推移からも明らかですし、何よりも目視による安
全性や、ドア to ドアの移動手段ならではの開放感を乗員全員に提供してくれ
る良好な視界・眺望は特別なデバイスの必要性なしに乗用車が提供できる大き
な魅力ではないでしょうか。

 「スタイリッシュさ(恰好良さ)」「機能性」「先進装備」「価格」等々、
乗用車の商品性そして販売を左右する要素はさまざまで、いずれかの要素を重
視し過ぎると商品力を損ねてしまうのは当然ですし、それらのバランスが崩れた
(特定要素を重視し過ぎた)がゆえに販売が振るわなかったと思われる車種は
いくつも想起することが出来ます。これら販売を左右する要素を絶妙にバラン
スさせ、代替需要や他銘柄からの乗り換えに留まらず、乗用車への新規需要を
喚起するような魅力的なニューモデルが、新型車の’豊作’が予想される 2017
年に、そして来年以降にも、時にはあっと驚くような提案を伴って出て来るこ
とに、業界の一員として、クルマ好きとして、大いに期待したいと思います。

<清水 祥史>

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