本文へジャンプ

コラム

自動車の価格が、販売や利用方法に及ぼす影響について

 今回は 「自動車の価格が、販売や利用方法に及ぼす影響について」と題して
ご回答をお願いしたアンケート結果を踏まえてのレポートをお届けします。

http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7740

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【はじめに】
 今回、筆者が「自動車の価格」というテーマを選んだのは近年、ニューモデ
ルが発表されるたびに以前と変わらずワクワクする一方で、価格設定を目にす
るたびにその上昇傾向を実感し、自らが買えるかどうかはともかくとして、自
動車業界に身を置く者としてその傾向が販売面に影響を及ぼすのではないかと
気になって仕方がないという経験が続いているからである。

 確かに、今やかつては中古車などの売り文句になっていた「フル装備」とい
う表現(=エアコン・パワステ・パワーウインドウ辺りを指していたと記憶す
る)が死語にならんばかりのレベルで日本国内で販売されている自動車の標準
装備が充実し、それに加えてオートマティック・トランスミッションも当然の
装備になった観がある(余談になるが、今どきの子供たちの少なからずは、ウ
ィンドウ・レギュレーターがどういう機能を持っているかを知らないのではな
いだろうか?)。こうした快適装備の一般化に加えて、エアバッグ、ABS さら
にはここ数年のADAS(先進運転支援システム)といった安全装備の充実、そし
て年々厳しくなる排ガス規制への対応とそれにも関連する燃費効率の改善など
も、日本国内で販売される殆どの自動車に及んでいる。目覚ましい進化である
と思う。しかしその一方で、これらの装備・機能はいずれも当然ながらコスト
アップ要因であり、これら装備の普及期に見られたオプション価格を改めて足
し上げてみると、数十万円単位になってしまうことには驚きを禁じ得ない。

【自動車販売価格の推移をみる】
 そこで今回はまず、自動車販売価格の推移をいくつかの実例で検証した結果
を記してみたい。なお、当該期間に生じた装備の変化などは考慮していない。

<2010年・2015年比較>(平均販売価格)
軽自動車:929千円から1,081千円に(16.4%上昇)
小型車:1,393千円から1,743千円に(25.1%上昇)
普通車:2,101千円から2,555千円に(21.6%上昇)
(出典:経済産業省「生産動態統計年報 機械統計編」)

<2000年・2015年比較>(個別モデル比較)
LクラスセダンA車上級グレード:28.4%上昇
LクラスミニバンB車4気筒車:43.7%上昇
LクラスミニバンC車4気筒車:19.4%上昇
MクラスSUV車D車:19.0%上昇
コンパクトカーE車:30.4%上昇
軽セダンF車:25.4%上昇
軽セミハイトワゴンG車:20.4%上昇
(当社にてモデルポジショニング・グレード構成とも大きく変化せず継続して
量販されている車種・グレードを選定して比較。時期による装備差は考慮しな
い消費税込みのメーカー希望小売価格ベース)

 検証したサンプルが限られているので、上記をもって自動車の販売価格が今
世紀に入ってどの程度上昇したという結論を導くことは出来ないが、少なくと
もはっきりと上昇傾向にあるということは皆様の実感に照らしても異論のない
ところだと思うのだがいかがだろうか。

【設問ならびにアンケート結果】
 それでは、このような現状を踏まえて、今回のアンケートの結果をご覧いた
だきたい。

<設問>皆様はこうした自動車の価格変動が販売動向や利用方法にどのような
影響を及ぼしている・及ぼしていくとお考えでしょうか。以下選択肢の中から
最も当てはまると思われるものをお選びください。

<結果および頂戴したコメント(抜粋)>

1. 価格の上昇により販売台数が減少する  : 38%
―これこそが軽自動車へのシフトやクルマ離れを生んでいる根本的な要因と思
われる。

2. 価格の上昇により売れ筋車種が小型・廉価版に移行する  : 23%
―機能向上に伴う価格上昇→小型・廉価版への移行 / レンタカー・シェアリン
グの増加→販売台数の減少、という流れは起こって当然ではなかろうか。

3. 価格の上昇が商品力・機能向上に見合っていれば販売には影響しない : 12%
―機能・仕様が向上しているので価格上昇はやむを得ないと思うが、車を所有
するというニーズは減少傾向に向かうのではなかろうか。

4. 価格の上昇により「所有から使用へ」という流れが強まる  : 16%
―ライドシェアやカーシェアが普及しつつあるが、価格の上昇は特に大都市部
をにおいてその流れに拍車を掛ける要因になるのでは。
―価格の上昇は機能向上がゆえであることを市場は理解していると思うが、機
能が必要ない人やコスト負担に見合わないと考える人が機能を省いたり、所有
を見合わせたりすることが増えるのではないかと考える。

5. もとより自動車の価格はさほど上昇していないと思う  : 8%
―少なくともコストパフォーマンスは上がっていると思う。
―「費用対価値」で正当に評価する世代と、廉価版に移行する世代とに分かれ
るのではなかろうか。

6. その他  : 3%
―価格上昇は実感しています。これに対する市場の動きとしては保有期間の長
期化、保有車両のダウンサイジングが進み、必要に応じて上級車のレンタルや
シェアリングを活用する動きが強まるのではないでしょうか。

【考察・随想】
 今回は自動車を作って売る側と、買って利用する側双方の立場から、興味深
いコメントを多数頂戴したことに対し、まずは感謝を申し上げたい。 

 さて、アンケート結果から伺えることは、多くのかたが自動車の機能・価値
向上を認識されつつも、やはり価格は上昇したと実感しておられる(選択肢
1~ 4の合計で 89%)というということではなかろうか。また「やはり」と感
じさせられたのが、こうした価格上昇が保有長期化や複数所有の見直し、ある
いはシェアリングサービスの利用促進などを招き、新車の販売減少ないしは購
入車両のダウンサイジングに繋がるのではというご意見が、いずれの選択肢に
おいても付帯コメントとして共通して見られた点である。個人的にも、昨今の
自動車は商品力・機能の向上に魅力を感じるものが多いが、いざ買おうと思っ
たり、薦めようと思って価格を調べてみた結果、その価格がネックとなり買い
替えを断念したり、保有の継続を提案したりした経験が複数回あるのも事実で
ある。

 少なくとも日本国内においては過去 20年近くにわたって可処分所得額や大
卒初任給等、自動車の購入・保有のための財源というべき指標は概ね横ばい傾
向を続けており、更にはこの間の消費支出は家賃の上昇傾向が続いた上、それ
まで存在しなかった大きな項目として携帯電話関連費用がほぼ全ての個人・世
帯(特に自動車の初回購入層の中心となるべき若年層のそれ)において看過出
来ない金額レベルで発生するようになっている。そうした環境にあって自動車
価格の上昇が販売に影響を及ぼすか否かについては、論を俟たないのではなか
ろうか。

 価格上昇が販売に影響を及ぼすという課題は、筆者があらためて提起するま
でもなく当然、自動車業界で広く認識されているであろうし、その対策も種々
検討されているとは思うが、以下ではユーザー目線を含めて筆者なりの考えを
何点か挙げてみたい。

1)「全車、フル装備」への疑問 
 今後、環境・安全規制への対応や ADAS の導入促進、そして現下の快適装備
のフル装備が続くとすると、自動車価格の上昇傾向は続くと思われる。一方で、
利用環境によっては必要ではない装備・機能もあるはずで、それらを省略して
価格を下げるというアクションにも検討の余地があると思うがいかがだろうか。
環境・安全規制への対応は必須としても、極端な例となるが雨に濡れず複数人
+荷物が運べる移動手段と割り切れば、割愛出来る快適装備や削れる性能要素
もあろうし、こうした措置による価格の抑制は、中長期的に販売の伸びが期待
されている新興国戦略にも繋がると思われる。確かに現在も、このような方向
性を持って設定されたと思われる市販車は存在し、それらの販売は必ずしも目
論み通りに伸びてはいないようだが、今後も続くコスト上昇圧力と購買力の制
約・限界に照らせば、一つの方向性としては追求を続ける必要があると考えて
いる。歴史を振り返ってみても、いわゆるリッターカーの復活や 5 ナンバー
サイズへの復帰、’小さな高級車’コンセプトの導入といった低価格化・ダウン
サイジングの試みが何度となく繰り返されてきたが、いずれも定着したとは言
えない。あえて申せば、過去 10年あまり顕著になった登録車から軽自動車への
著しい需要シフトは、限られた商品選択肢の中で、市場自らがそのような指向
を示したといえるのかもしれない。しかしながら、近年そして今後も続くと予
想される価格上昇圧力の前にあっては、メーカー側が価格抑制を意識した商品
戦略を打ち出す必要性がこれまでになく高まっているとも感じる。

2)「利用状況に応じた使い分け」の促進
 現状は、使用頻度の限られている 6 人超の乗車定員・広大なラゲッジスペー
ス・高速性能などを備えた普通車・高額車が「大は小を兼ねる」と言わんばか
りの勢いで一定の市場シェアを得ている。しかし、それらの車種の価格上昇に
いつまでもついて行ける購買層には限りがあろうし、当然ながら保有の長期化
にも繋がるであろう。これらは、いずれも販売台数の減少圧力である。今後、
日本国内の自動車販売台数は減少傾向が続き、2020年代には団塊の世代が後期
高齢者となることもあり保有台数も横ばいから減少に転ずるという予測が有力
である。そうした環境にあっては、いま一度小型化・価格抑制・性能絞り込み
を意識した製品特性を訴求し、需要の掘り起こしを図る方向性があってもいい
のではなかろうか。その際にネックとなる長距離対応・多人数収容・高速性能
といった機能については、進化を続けるシェアリングやレンタルにより必要な
際にだけ利用するというスタイルを新車マーケティング情報に積極的に織り込
むことで合理性・利便性を訴える等の、発想の転換にも期待したい。これは「
シェアリングの利用=所有の中止」という販売台数に大きなマイナスを及ぼし
兼ねない動きに対する代案(折衷案)としてもより積極的に検討されてもいい
のではなかろうか。自動車には所有せねば得られない利便性、その小型化によ
る日常的なメリットも数多く存在するのだから、必ずしも「所有と使用」を二
者択一視する必要はないと考える。

3) ADAS ・自動運転をどう考えるか
 技術面では既に目覚ましい進化を見せている ADAS およびその先にある自動
運転。その一方で最大の自動車の価格上昇要因の一つになりそうなのが当機能
の付加・高度化である。それでは筆者は、当機能が自動車の価格高騰を招くの
で当機能の普及に否定的かと問われると、答は否である。この領域については
導入する機能を車両の用途やドライバーによって取捨選択した製品を、技術・
社会・市場の発展段階に応じて送り出すことが肝要だと考えている。プロのド
ライバーが運転するバスやトラックにおいては多くの自家用車ではコスト要因
とはならない人件費が掛かっており、ADAS/ 自動運転機能の付加によるコスト
上昇は、ドライバーへの負荷低減・労働条件改善効果、ひいては人件費の削減
効果をもってして経済的合理性が確保出来るであろうゆえ、高度な機能付加に
大いに期待している。一方で、自家用車においては必要とされる機能・安全性
と価格上昇のバランスを慎重に検討のうえ、機能を絞り込んだ商品が投入され
ることに期待したい。ともすると、快適装備のフル装備化に見られたような流
れが繰り返され、それによる価格の高騰が販売台数の減少やクルマ離れを助長
し兼ねないと危惧するものである。

 以上は、いずれもが筆者があらためて書き綴るまでもなく、当然のこととし
て認識されている課題であるとは思うが、ともすると日々それぞれの課題と直
面していると大局観を失いがちになるものではなかろうか。今回のアンケート
を通じて筆者自身がそのような状況にあると感じたため、あえてレポートの形
で書き留めることとした次第である。

<清水 祥史>

  • コラム
  • 業界アンケート
  • 書籍&レポート
メールマガジン

住商アビーム自動車総合研究所が発信する各種情報をご紹介します。当研究所のスタッフが日々移り変わる自動車業界を、経営と現場を結ぶ視点で紐解いた記事やコラム、等です。

無料配信申し込みはこちら
PDF メルマガ見本はこちら

News -プレスリリース・メディア対応 自動車業界ライブラリ

UPページの先頭へ