自動車業界での IoT の取り組み

 今回は、「自動車業界での IoT の取り組み」をテーマとした以下のアンケー
ト結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7579

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【モノのインターネット:IoT】
 インターネットが本格的に普及をし始めた 1990年代から約 20年が経ち、今
モノのインターネットと呼ばれる IoT (Internet of Things:)が、様々な業
界で実現し始めている。かつて、M2M (Machine to Machine)と呼ばれた、機
械と機械をつなげることで機械同士が自動的に情報をやり取りするシステムは、
さらに領域を広げ IoT に発展しつつある。モノだけであった概念が、情報を受
け取る人へのサービスを含めた概念へと進化しているのである。

 まずは、他業界での具体的な事例を挙げてみたい。建設機械業界では、車両
がどのように使われているのか、いつ故障するのか把握できていなかった。ま
た、広大な現場のどこに機械があるのかわからず、高価な機械の盗難リスクを
抱え、故障した場合にサポート要員が駆けつけるのにどこに行けばよいか、す
ぐにはわからなかった。建設現場では、機械のダウンタイムは工期に影響を与
えるため、故障時の対応はユーザーの購買要因として重要なポイントである。

 そこでコマツは、建設機械にデバイスを搭載しネットにつなげることで、車
両ごとの稼働状況、位置情報、故障・故障の予兆を把握することができるよう
にした。これまで困難であった車両の利用状況が把握でき、配車計画に活用し
たり、保守時の対象車両位置特定により効率的な作業を行ったり、予防保全に
よりダウンタイムの短縮や保守コストの低減などに活かすことができるように
なったのである。
【アンケート結果:自動車業界の取り組み】
 さて、以上のような動きが他業界である中で、自動車業界はどうだろうか。
まずは、アンケートで伺った、2020年に想像される姿を見てみよう。

[2020年自動車業界のどのような領域で IoT の取り組みが具体化されているか]
・運転支援及び自動運転 : 34%
 車車間/路車間通信や地図データ、渋滞予測、自動運転 など

・開発・製造 : 33%
 製造効率化やトレーサビリティの確保、車両使用履歴を企画・開発へ
 フィードバック など

・インフォテイメント : 15%
 スマホ連携や購買の提案、シェアリングサービス など

・アフターサービス : 13%
 予防保守高度化や、使用履歴に応じた保険料算定/下取り など

・その他 : 5%

 「運転支援及び自動運転」が最も多くの票を得た。昨年開催された東京モー
ターショー、先日米国で開催された CES2016 (コンシューマー・エレクトロニ
クス・ショー)でも多くの出展があり、完成車メーカーのみならず他業界のプ
レーヤーも開発競争を繰り広げている状況を鑑みると、納得の結果とも言える。

 アンケートでは、「高齢化に伴う運転技能の低下」や、「高齢化、人口都市
化に伴う地方公共交通の脆弱化」から自動運転の必要性を指摘する声もあり、
日本の社会問題への解としても期待が高まっている。

 自動運転で得られる価値としては、「運転そのものが高速化・安全化できる」、
「子供や高齢者など運転技能が低い運転者が自動車を運転できる」「移動時に
運転者がサブタスクや余暇消費に注力できる」「無駄な加減速や停止発進を減
らすことにより環境負荷が低減できる」「自動駐車・自動迎車など発車前・到
着後の運転者の手間が省くことができる」など、様々なものが考えられ、ユー
ザーにとっても社会的にもメリットは多い。
(参考:2015年6月配信のコラム(https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7371))

 また、自動運転に限らず運転支援でも、業界に囚われず新しいデバイスを開
発する動きが見られる。

 例えば、JINS は MEME (ミーム)というメガネに搭載したセンサーで視線の
動きや瞬きの情報を取得することで、ドライバーの疲労や眠気を感知、アラー
トを出すアプリケーションを開発した。特に長時間運転する法人ドライバーに
は大きな需要があると見られている。

 次に、「開発・製造」もほぼ同数の票を得た。実際のクルマの使われ方を把
握できるようになれば、より良いクルマづくりに繋げることができる。クルマ
をつくる側からすると、顧客がどのような環境で、どのような運転をするのか
は、重要な情報である。

 これまでも、地域や車両の分類によってクルマの使用状況を想定し、それを
開発目標値として定義し、満足するような車両を開発してきた。より精緻な情
報をもとに部品の寿命や故障のパターンを把握し、商品企画や開発へフィード
バックすることで、より良いクルマづくりができる環境が整うだろう。

 製造面では、工程の品質情報を取得し、後工程の加工条件を自動調整するな
どの取り組みも行われており、製造品質向上が期待できる。アンケートでは、
「品質問題の対応に多大な工数を割いている。品質問題は、作る人、売る人、
使う人の誰もうれしくない。対策に情報を活かすことが有意義。」とのコメン
トも頂いたが、上記のように設計/製造品質の向上に、クルマの使われ方情報
が果たす役割は大きいと考える。

 「インフォテイメント」や、「アフターサービス」の IoT 化による、ユーザー
への提供価値は、インフォテイメントを活用した購買の提案や、カーシェアリ
ングサービス、予防保全など、多岐にわたる。

 カーシェアリングは、クルマの価値を時間単位で提供しており、都市部を中
心に普及が進んでいるが、クルマの「所有」から「使用」へ、ビジネスモデル
が転換しつつある 1つの事例である。

 アフターサービスでは、運転の仕方や運転履歴から、保険料の算出や中古車
の下取り価格への反映がされ、より納得感のある仕組みが広がっていくだろう。
事故を起こしづらいドライバーには安い保険料を適用し、車両への負荷が少な
い運転をしてきた車両をより高く下取り評価することができれば、ユーザーが
安全・省エネな運転をするモチベーションにもなり、社会全体としてもメリッ
トは大きいと考える。

 予防保守の提案にも活用ができる。例えば、いすゞの「みまもりくん」は、
トラックの車両制御コンピュータから、ドライバーの操作やエンジンの燃料噴
射量、GPS の位置情報を、リアルタイムに遠隔地から把握することで、予防保
守の提案や分析レポートを提供し、燃費向上や安全運転の徹底に貢献している。
【実現へ向けての課題と、日本企業への期待】
 以上述べてきたように、2020年の段階では新たな機能が実現できると予測さ
れる。これらを実現するため、「提携関係」「協調領域での標準化」の構築が
課題であると考えている。

 IoT は、必要なデータを収集して分析・活用することを可能にし、自動車業
界という枠組みを超えて検討が広がっている。そのため、これまでの自動車開
発にとどまらない様々な領域、例えば、デバイス、ネットワーク、アプリケー
ション、自動車以外のコンテンツ/サービス提供など、多岐にわたるケイパビ
リティ、莫大な資金が必要となり、一社では完結できなくなりつつある。一社
で全てを賄うことが困難になっている中、自社に無い能力は「他社と提携」す
ることで補完することが、スピード面・資金面で適切な判断であろう。

 「協調領域での標準化」については、新たな取り組みを推進するにあたり、
業界内で各社がオープンにし協調する領域と、クローズにし競争する領域を切
り分けながら進めていくことが求められる。例えば自動運転に用いる地図デー
タなど、より良いサービスを提供するために、業界全体が協調した規格の標準
化が必要となる領域がある。日本では SIP (戦略的イノベーション創造プログ
ラム)で、協調領域についての検討がなされている。この検討結果が、効果的
に各社のビジネスに活かされることを期待している。

 さらに加えると、日本企業が、これまで築いてきた「高品質というブランド
力」を活かし、IoT の流れの中で飛躍を遂げることを期待している。筆者もそ
の一翼を担えるよう邁進していきたい。

<藤本 将司>