ソフトウェアと制御技術が実現する新しい技術開発の方向性

◆富士通、30m先の信号機などを検出できる自動車向け画像認識モジュール

<2005年11月20日号掲載記事>

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日本は間違いなく世界一のカーナビ大国である。2005年 3月末時点で累計出荷台数 18 百万台を突破し、今や 4台に 1台が搭載していると言われている。

普及に伴い、その性能も進化してきた。CD、DVD から HDD (ハードディスクドライブ)へと新しい地図媒体が開発されるたびに、情報量が拡大し、処理速度も加速化してきた。最新のカーナビの画像は、最早「地図」というよりも「動画」である。

機能の高度化、多機能化も進んでいる。ルート案内や渋滞情報の表示だけでなく、テレマティクスを始めとする通信機能によって、目的地の天気情報、駐車場の満車・空車情報から目的地選定のためのコンシェルジュサービス、車両故障時の緊急連絡や救援要請など、高度なサービスが次々に実用化されてきた。

4~ 5年でモデルチェンジを迎える自動車本体と比べると、半年程度で新機種が登場するカーナビは、商品ライフサイクルが早く、自動車部品というよりも限りなく家電製品に近い商品である。アフターマーケットでの市場競争も激しく、差別化を図るために各社が新機種開発に注力している。

さらに近年、トヨタ、ホンダ、日産の大手 3 社は独自のテレマティクスサービスを本格化させており、顧客の囲い込みのツールとしてネットワークを拡大させてきている。ダイハツ、マツダ、三菱、富士重工はトヨタの「G-Book」を、スズキは日産の「カーウィングス」を採用することを決めており、国内テレマティクス業界はこの 3 勢力に絞り込まれている。

ETC の普及により、新たな可能性を秘めたテレマティクス領域も広がっており、カーナビ自体の高度化は着実に進んでいる。しかし、様々なクルマの機能とカーナビの連動というところについては、カーナビ単体ほど高度化が進んでいないのが実態である。クルマ自体の開発スピードとカーナビの進化のスピードがマッチしないため、連動した機能を開発するために同期を取るのが難しいことが要因となっているのであろう。

過去にもカーナビの機能を活用した新技術が実現されてきた。代表的なものとしては、リアモニターカメラとカーナビのディスプレイを連動させて車庫入れを誘導する機能や、カーナビ上でカーブを認識してシフトダウンを行う機能などがある。カーナビとしての機能は一般ユーザーのニーズ以上に高度化し、全ての機能を十分に活用できていないユーザーも出てきている中、今後は、カーナビという車に搭載されている機器を活用して、自動車自体の機能に付加価値をもたらすような新技術の登場が期待される。

こうした状況の中、今回の富士通が開発した画像処理技術は、カーナビに新たな機能をもたらす技術として注目すべきものだと考える。

特に今回は、車載カメラ、カーナビといった既に実用化されている端末を使いながら、画像処理技術やパターンマッチングによる認識技術を専用 LSI やソフトウェアで実現することで、信号機や横断歩道などを検知するという新たな機能を実現するという点に注目したい。

新たに特殊な装置が必要で、それが高価なもの、重たいもの、かさばるものとなると、実用化が極めて困難になることが多い。しかし、今回の技術の構成は新規に大きな追加装置を開発・搭載したのではなく、従来の機能との併用であるため、比較的安価に実現できる可能性がある。

既に十分に普及しているカーナビ、及び、車線維持機能や視界補助機能で急速に搭載個数が増えているカメラを従来の機能と併用しながら今回の技術に活用することを考えると、制御装置とソフトウェアの熟成さえ十分にできれば、近い将来実用化することも大いに考えられる。

こうした新技術の開発手法は既に実現されている。その代表例がトヨタプリウスの「インテリジェントパーキングアシスト」である。発売当初、自動で縦列駐車を行うという未来を感じさせる技術には大きな注目が集まった。この技術も、特に新しい付加装置を開発することで実現したわけではなく、リアモニターカメラを利用したガイド機能、電動パワーステアリングによる角速度制御、モーターによる走行制御など、既に搭載されることになっていた車内のリソースを最大限に応用することで、先進的な技術を実用化させたものである。

自動車の電子化に伴い、制御装置である ECU の数も増加してきていたが、近年自動車メーカーは、複数の機能を統合して制御する ECU の開発や、ソフトウェア開発のプラットフォームの共通化を進めてきている。こうした動きが、併用する複数の機能を制御するシステムの実用化を加速化させていくはずである。

トヨタは先週行われた講演にて、来年市場投入予定のレクサス LS では、自社で開発した車両制御システムと、サプライヤが開発した電子制御ブレーキシステムとネットワークの制御という 3 つの機能を一つの ECU で統合制御することを発表している。

既存の車載部品を活用し、高度な制御技術をソフトウェアで実現することで新たな付加価値をもたらす新技術開発は、今後の技術開発の一つの方向性となるのではないかと考えられる。

10年弱ぐらい前に、カーナビを搭載した車に始めて乗った友人は、ルート案内の音声ガイドに感動していた。ちょうどその時、信号が黄色になってから左折した、運転手である筆者は、対向車線にいた白バイに捕まってしまった。友人は、

「カーナビは 200m 先を左折することは教えてくれるのに、信号が変わったこ とは教えてくれないんだね。」

とコメントしていた。赤信号を教えてくれるカーナビの実現もすぐそこまで近づいていることを教えてあげたい。

<本條 聡>