国内大手サプライヤ統合のすすめ

◆合併新会社「ジェイテクト」、世界の自動車部品業界で「ベスト10」入りへ1月1日付で光洋精工と豊田工機が合併。現在、世界の部品業界で16位か17位

<2006年01月17日号掲載記事>

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昨年 5月に発表されていた通り、今月 1日付で光洋精工と豊田工機が合併し、ジェイテクトとなった。両社は、昨年 2月に合併を発表した時点では、今年 4月の統合を予定していたが、「統合効果」をいち早く発揮するために、合併を3 ヶ月早めたものである。

今回のジェイテクト設立は、アドヴィックス、トヨタ紡織に続く 3 件目のトヨタの大手系列サプライヤ統合となる。今年、世界一の完成車メーカーとなるであろうトヨタは、そのグローバル戦略を遂行する上で、主要サプライヤの各社の開発・設備等リソースの重複を省き、競争力を強化するために、こうした再編を進めているものと考えられる。

今回のコラムでは、3C (Customer、Competitor、Company)の切り口で、グローバル展開を進める国内大手サプライヤの統合の狙いと効果について考察してみたい。

【Customer:日系完成車メーカーとの関係の変化】

伝統的に系列関係に支えられてきた国内の完成車メーカーとサプライヤの関係であるが、21 世紀に入り、着実に変化が起こりつつある。系列の崩壊とグローバル化に伴うサプライヤの二極化の進展である。

その根本にあるのが、ここ数年の国内完成車メーカーの慢性的なリソース不足である。グローバル展開を進めると同時に、環境・安全など様々な分野で次世代技術の開発を求められる完成車メーカーにとって、開発リソースの確保は大きな課題であり、これがサプライヤマネジメントにも新たな流れを起こしつつある。これまでの完成車メーカーが主体で開発を行い、サプライヤを指導しながら系列全体の発展を目指すという関係から、サプライヤを選別し、機能重視の部品分野においては主体的に開発を任せられるサプライヤとの関係を強化する一方で、コスト重視で調達を進める部品分野については系列に囚われない調達を進める傾向が強まりつつある。

リバイバルプランで系列解体の方針を明確にし、資本関係を解消するか、40%以上を出資する連結子会社とするかの二つに整理した日産が最も顕著な事例と言えるが、トヨタ、ホンダにおいても、系列外からの取引を拡大したり、主要サプライヤへの出資比率の引き上げなどを行っており、この二極化の流れは国内の自動車業界全体に波及していると考えられる。

つまり、大手サプライヤが今後も事業基盤を拡大していくためには、完成車メーカーのグローバル展開に対応しながら、リソース不足を支える開発力が求められる。

【Competitor:欧米系サプライヤとの比較における日系サプライヤの特徴】

世界の生産台数の 3 割強を占める日本の完成車メーカーは、グローバル規模でも大きな存在感を示している。では、世界の自動車部品業界において、日系大手サプライヤはどのぐらいのポジションにあるのであろうか。

米 Automotive News によると、2004年の世界自動車部品メーカー連結売上高ランキング上位 10 社は以下の通りとなっている。

順位 会社名(国)    連結売上高    前年順位
(単位 USD mil.)
1位 Robert Bosch(独)  USD27,200    (2位)
2位 Delphi(米)     USD24,104    (1位)
3位 Magna(カナダ)    USD19,937    (6位)
4位 デンソー(日)    USD19,927    (3位)
5位 Johnson Control(米) USD19,500    (7位)
6位 Visteon(米)     USD17,700    (4位)
7位 Lear(米)      USD17,000    (5位)
8位 アイシン精機(日)  USD15,508    (8位)
9位 Faurecia(仏)    USD13,327    (9位)
10位 SiemensVDO(独)   USD11,600   (11位)

<出典:Automotive Newsホームページ>

ここ数年、米 GM、Ford の不調の影響もあり、米系サプライヤが若干低迷しているものの、それ以外には大きな変動はない。米欧の大手サプライヤに比べて、日系サプライヤはまだまだ小規模であり、上位 10 社に入っているのは、デンソーとアイシン精機の 2 社のみである。ちなみに、同ランキングで、上位100 社に入っている企業数でも、北米 39 社、欧州 35 社に対し、日本は 25 社と劣勢である。

一方、部品の外部調達率は、欧米系完成車メーカー(約 50 %)よりも日系完成車メーカー(約 70 %)の方が高く、各完成車メーカーの直接取引企業数においても日系完成車メーカーの方が少ない。これらを踏まえると、以下のような日本の自動車部品業界の特徴が見えてくる。

・ 系列構造により、ティア 1 サプライヤとその下請企業となるティア 2、 3サプライヤが明確に階層化されている。

・ 外部調達率が高く、ティア 1 サプライヤがシステム化・モジュール化を 進める土壌はあるものの、企業再編自体はあまり進んでおらず、充分な 効果が発揮できていない。

また、この世界自動車部品メーカー連結売上高ランキングには、部品分野にも特徴がある。上位 20 社の全てが、「電装部品」、「内装部品」、「外装部品」、「駆動・伝導・操縦部品」を取り扱うシステム・モジュールサプライヤである。これは、弊社が 2004年 6月に国内完成車メーカーを対象にアンケート調査を行った際に、完成車メーカーがシステム化・モジュール化の進展を期待する分野とも一致する。

つまり、統合・再編等により積極的にシステム化・モジュール化を進めることで、日系サプライヤは企業規模を拡大していく余地が充分に残されていると言えるのではなかろうか。

【Company:システム化・モジュール化の進展を機会と捉える】

前述の通り、顧客である完成車メーカーは、グローバル展開への対応に加え、開発力のあるサプライヤとの関係を強化しようとしている。言い換えれば、開発領域における権限・責任を任せられるシステム化への対応が可能なサプライヤを求めている。

ここで、システム化・モジュール化で考えてみる。両方の側面からサプライヤへのアウトソースが進められることも少なくないため、混同されることも多いので、整理すると以下の通りである。

・ システム化
部品の機能的な統合であり、主に開発のアウトソーシングを進めること。例えば、エアコンシステムは、エアコンの機能に必要な部品の集合であるが、納入時に一体化されているものではない。

・ モジュール化
部品の物理的な統合であり、主に生産(組立)のアウトソーシングを進めること。
例えば、フロントエンドモジュールは、ヘッドランプ、ラジエタ、バンパー等を一体化したものであり、組立済みのモジュールとして完成車メーカーに供給されているが、機能的に統合されているものではない。

前述の通り、世界の大手サプライヤは、システム化・モジュール化を軸に規模を拡大しており、IT 化・電子化が進む今後の自動車業界において、この傾向は更に進むと予想される。日系大手サプライヤも、これを機会と捉え、事業拡大することが求められているのではなかろうか。

今回のジェイテクトの誕生の背景には、グローバル展開やシステム化への対応といったトヨタの期待があることは間違いない。しかし、同社が今回の合併におけるシナジーとして、トヨタ向けのビジネス以上に、システム化を進めることでトヨタ以外、特に海外完成車メーカーとのビジネスを拡大させることを狙っているのであろう。

これは、今回の吉田新社長の「世界の自動車部品業界でベスト 10 以内を目指す」というコメントからも伺える。光洋精工と豊田工機両社の 2004年度売上高の合計は約 70 億ドルであるが、10 位に入るためには約 120 億ドルにまで拡大する必要があるからである

両社の 2004年度のトヨタ向け売上高比率は、豊田工機が 53.9 %であるのに対し、光洋精工はわずか 12.7 %である。光洋精工は欧州完成車メーカーからも着実に受注を増やしており、トヨタ依存比率を下げてきている。今回の統合により開発リソースの強化が可能となれば、海外完成車メーカーとの取引を更に拡大することも期待できる。

こうした統合・再編を伴う事業拡大は、完成車メーカー主導で行われるものと考え、受身になっていては、機会を逃すことにもなりかねない。日系完成車メーカーの海外生産台数が 10 百万台レベルに達する今、GM、Ford の低迷に悩む北米サプライヤとの資本提携など、思い切った事業拡大を考える良い機会ではなかろうか。

<本條 聡>