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コラム

今、あらためて、日本自動車産業の「ものづくり」について考えよう

 今回は「今、あらためて日本自動車産業の『ものづくり』について考えよう」
というテーマでご協力をお願いしたアンケート結果を踏まえたレポートです。

http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7462

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『今、あらためて、日本自動車産業の「ものづくり」について考えよう』

【はじめに】
 日本型ものづくりの基礎に貢献したのは W ・エドワード・デミング博士だろ
う。彼は統計学者として戦後初の 1951年国勢調査計画立案に携わる傍ら、品質
管理技術の専門家として日本科学技術連盟の招待を受け、日本の製造業経営者に
対し統合的品質経営(TQM)を説いて歩いた。こうして日本のものづくりは体系
化され、力を付けた。

 1980年代、日本の製造業、特に自動車産業が勢いを増す中、米国マサチューセ
ッツ工科大学(MIT)が中心となり、日本の自動車産業における生産方式を研究
し、その成果を再体系化・一般化し、「リーン(=痩せぎす)生産方式」(LPS)
と命名した。その後、LPS の概念は欧米製造業に浸透し、ゆくゆくは日本本国に
逆輸入された。

 1990年代末、日本にてバブル経済、金融不況と苦境が続いた後、再度、自動車
産業を中心に日本の製造業が徐々に復活を見せた。この時、日本は、単なる製造
を超えた日本古来に由来する日本の強みと伝統の象徴とすべく「ものづくり」と
命名し、「ジャパンブランド」の一つの軸に位置付けた。

 斯様な歴史を経て、「ものづくり」の概念は今日に至ったが、特にリーマンシ
ョック以降、それを取り巻く環境諸般が著しく変化する中、またもや、大きな転
機に差し掛かっているものと考える。

 リーマンショック前後より電機関連領域における日本の製造業の地盤沈下が起
こった。続いて 2010年以降、自動車産業においても大規模なリコールが発生し
元来の「品質神話」に疑問符が付いた。更に昨今では、消費者の「モノ離れ」と
か、「モノからコトへ」とまで言われる。「モノ=所有文化=時代遅れ」という
感じすらある。

 一方で、欧米では、IoT とか、インダストリー 4.0 とか新しい概念が生まれ、
GE をはじめ「製造業の復活」と言われている。

 こうした一連を見るに、「『ものづくり』とは一体何だろう」と改めて問題提
起をし、皆様と一緒に考える契機を作りたい、というのが今回の執筆の意図であ
る。

【ワンクリック・アンケートの結果】

 ワンクリック・アンケートでは、読者の皆様に「日本のものづくりにとっての
重要な課題は何か」を御伺いした。結果;

1. 世界をリードする高品質の確保と、信頼性の奪還                         43 %
2. グローバル競争をリードするコスト競争力の確保                          10 %
3. 高度な効率化と安全性を兼ね備えた生産体制の追求                   9 %
4. ものづくりの源流となる優れた製品開発能力、新たなアイデア力の発揮
                                                                                                              29 %
5. その他                                                                                                9 %

 選択肢に上げた Q (良品質)、C (低コスト)、D (良い生産工程)、D
(研究開発力)は、「良い『ものづくり』のパフォーマンス指標」と言われる。
これら四つは本来一体であるべきだが、アンケート結果からは、「何といっても
高品質と信頼性の奪還を急務、ついで、創造性を求める」という、危機感を伴
った強いメッセージがハッキリと読み取れた。

 そもそも、日本の「ものづくり」については、以前から、ブランド・製品企画
から設計品質に至るまでの上位概念に支えられた「統合的ものづくり」の遂行が
その課題と言われてきた(この観点は上述アンケート結果と合致する)。

 然し、後述する昨今の変化一連を見るに、こうして「QCDD」を主軸に「ものづ
くり」を見ることすら難しく、寧ろ、一段上のレイヤーにたって、「ものづくり」や
「製造」そのものの概念について、再度整理をして定義を施すべき状況ではない
だろうか、と感じている。

【製造業の現状と今後の眺望】

まず、製造業全体について考えてみたい。

○ マクロ経済上の位置付けと懸念

 日本のマクロ経済において製造業は引き続き重要な位置を占めている。国内総
生産においては、2013年度で産業別第 2 位の 18.8 % (首位はサービス業)を
占める。

 製造業全体の出荷額は 2013年度で 292 兆円であり、過去最高(2007年度 337
兆円)には至らずとも、大凡 2005年度と同等のレベルにまで回復している。

 製造業は他産業への波及効果が高く、国内生産額に占める割合は全産業中首位
であり、シェアは 3 割を超えている。

 然しながら今後将来は余り明るくない。少子高齢化により、生産年齢人口はマ
イナス成長(2010年 80 百万人から 2030年 68 百万人)が予想される。また、
資本ストックも 2006年以降 1400 兆円の水準のまま停滞している。

 つまり、これまで製造業は他産業に比較し、高い成長(2000年から 2011年ま
でで、製造業成長率 1.5 %、対し非製造業 0.4%)により経済全体を支えてきた
が、今後共リーダーシップを継続する為には、これまで以上の技術進歩とビジネ
スモデルの革新が求められる。

○ 国際比較

 その他主要国と日本の製造業を比較しよう。各国の国内総生産における製造業
の比率と 10年前との対比は次の通り(数値単位は %)。

                 日          米          英          独          仏         中         韓 
2003     19.5       13.3      12.8       22.1       14.2      32.5      26.7
2013     18.8       12.1         9.7       22.2       11.3      29.9      31.1

 重要なのは特にドイツとの対比だ。日本の製造業は比較的高い比率ではあるが、
10年前と比較して減少している。一方、ドイツは日本より高い比率であり且つ
10年前と比較して増加している。このことからも、ドイツが製造業に力を入れて
いることがよく判る。

 つまり、ドイツや米国は夫々、インダストリー4.0、アドバンスト・マニュ
ファクチャリングといった「次世代製造業」への転換に向けて積極的な政策を
推進する中、日本も同様の努力を怠れない。日本はどの国にもまして少子高齢
化が進行するのだから。

○ IT利活用の遅れ:

 これも大変忌々しき問題である。日本の製造業においては、ITの利活用自体
が他国と比較して進んでいない。加えて、ITの利用目的が省人化や省エネ化と
いった生産効率改善の為に偏っているという実態がある。前述の通り、米国や
ドイツが次世代製造業システムを構築し、マスカスタマイゼーション時代への
対応や、ものづくりのビジネスモデルそのものの変革が求められる中、IoT活
用によるメリットを享受する積極的な姿勢が求められている。

 例えば、ビッグデータについて、2013年時点でのアンケート調査の結果、米
国企業は 90%以上が「利用している」と答えているに対して、日本企業は 70%
が「(ビッグデータそのものを)良く知らない、余り利用したことがない」と
答えている。驚くべきことだ。

 そもそも、日本については IT 技術者が大凡 100 万人程度、と言われ、米国
の 1/3、中国の 1/2 と言われており、絶対数そのもので劣っている。更には、IT
技術者の職場別分布が、米国の場合は 7 割がユーザー側であるのに対し、日本
は 7 割超が IT 企業側に居るという違いがある。

【自動車産業の課題】

 以下に上げる点は、他製造業にも共通の点があろうが、特に自動車産業につい
てとして:

○ グローバル化の進行:
 
 日本自動車産業については、2014年の生産総数 2,725 万台の内、6 割以上の
1,748 万台を海外で生産した。但し、日本からの輸出比率は各社によって異なる。
トヨタは国内生産比率を一定程度保つ一方、本田は輸出比率を大きく引き下げて
いる。然し、自動車産業は概ね「地産地消」を基本としており、旺盛な海外需要
には海外生産の拡大によって対応する状況が明確になっている。今後とも継続し
てグローバル化への対応が求められている。

 つまり、開発と生産の距離は今後とも更に遠くなる。併せて、「摺り合わせ」
が機能しにくくなる、という影響もある。しかし、そうであっても、エアバッグ
で発生した様なメガリコールは何としても避けなければならない。

 更に言えば、日本は市場自体が今後大幅に縮小することが予想される。2014年
の 560 万台に対し、2035年に向けて大凡 350 万台へと言われる。つまり、日本
車にとってのグローバル展開を考える上での礎となる「マザー市場=日本」が大
幅に縮小する。このことは、自動車メーカー・サプライヤー双方の開発体制に大
きな影響を与え、特に、日本でのサプライ基盤を保持出来ないサプライヤーには
大きな痛手となることであろう。

○ 自動車/製品と技術の複雑化

 自動車と言えば「メカ」を連想するが、実は現段階においてすら自動車の付加
価値全体における比率で、エレキはメカに優位に立っているのだ。そして、この
「エレキ優勢」は、車の電動化・自動化が進む中、今後とも更に拍車がかかるで
あろう。つまり、今後は益々、ハードウェアのみならずソフトウェアも一体とな
っての品質管理が求められる。

 このことを昨年頻発したフィット、ヴェゼルでのリコールが裏付ける。これら
リコールの大半は、電動化に伴う制御系統でのソフトウェアの不適切なプログラ
ムに起因すると言われる。更に電動化は進む。そして、電動化により機能検証す
べき項目や条件が膨大となり、事態は複雑化に向かう。

○ 人口動態・雇用形態の変化に伴う現場力の低下

 繰り返しになるが、生産年齢人口の減少は、製造現場の崩壊をも引き起こす。
現場での暗黙知の伝承が語り部、乃至は聞き手の不在により成り立たなくなる。
更には、派遣社員の増加に伴う労働条件の差異が故に、QC サークル等の現場活
動が成り立たなくなる、という事態も起こっている。

【欧米における動向】

 上述、課題を述べる中で、特に米国とドイツにおける「次世代製造業」を目指
した転換政策についても言及したが、改めて、簡単にレビューする。

○ ドイツ:

 インダストリー 4.0 とは、ドイツ政府が 2011年に公表した「サイバー・フィ
ジカルシステム(CPS)を基礎とした第 4 次産業革命を目指す汎国家的な取組み」
だ。CPS、イコール、「データ収集」、「データの蓄積・解析」、「現実世界へ
のフィードバック」という 3 つのサイクルを繰り返す仕組みを基調とし、企業
や工場の内部が「繋がる」ことで、市場ニーズに応じて柔軟な生産を行うスマー
ト工場を作り、更に、企業間の壁を超えて繋がることで、国内製造業の全体最適
化を目指す取組みだ。

 インダストリー 4.0 は、その技術的側面よりも寧ろ、ドイツ国家が全体とな
って産学官が「繋がる」という目標を共有し、着実に前進している点に脅威があ
る。産学官連携の主役となるフラウンホーファー研究所は、年間研究事業費約
2000 億円の 2/3 を民間からの委託研究で賄っている。そして、ドイツ全国に広
く展開された研究所には夫々、各地の大学教授が必ず加わり、研究現場では、民
間からの委託テーマが取り上げられる。つまり、オペレーションの仕組みそのも
のの中に、産学官連携そのものを浸透させているのだ。

○ 米国:

 GE の「インダストリアル・インターネット」においては、航空機エンジン等、
製造物に取り付けたセンサーから稼働状況データを取得し、機器運用の効率化や
予知保全に活用されている。更には、データ分析アプリケーションを外販するこ
とで、それを導入した他社製機器のデータも取得、世界中のデータを集め、ビジ
ネスモデルを高度化させることも目論んでいる。

 GE のみならず、IBM も「スマーター・プラネット」構想の下、ほぼ同様の IoT
戦略を展開している。更には、GE、IBM に加え、AT&T、Cisco、Intel の 5 社が
発起人となり、インダストリアル・インターネット・イニシアチブという IoT
関連技術の標準化団体も昨年結成され、日本からも、日立、富士通等大手が参加
している。

 つまり、米国産業界主導でのデファクト化の進行だ。しかも、「IoT」つまり、
Things がデファクト化するというのは、全てのデファクト化を意味する。本件
は斯様に壮大、且つ、日本にとっては大きな脅威だ。

【日本の対応】

 斯様な状況下、日本の製造業、自動車産業の中でも、種々対応が展開されてい
る。

○ IoTを利用した製造業のビジネスモデル変革

 本年 7月、日立製作所はあらゆる部品から製品の性能向上や故障防止につなが
るデータを集める技術を開発した。米粒ほどの超小型センサーで金属などの素材
に生じる変化を瞬時に検知するという仕組みだ。それ以外にも、多くの製造メー
カーが IoT によ「繋がる」技術を多用し CPS を構築することで、製造工程を洗
練化する新たな試みを公表するケースが多々出てきている。

○ モデルベース開発

 近年開発されるシステムの多くが、高機能、大規模となり、また、複数のシス
テムが繋がることにより複雑化しており、従来のハードウェアを起点とした「摺
り合わせ」、つまり、局所最適型のものづくりの手法では対応が困難と言われて
いる。このような中、システム全体の最適化を実現するためトップダウンで開発
を進める設計開発手法であるモデルベース開発が積極的に活用されている。更に
は、複数のシステムが繋がった複雑なシステム全体をモデル化するモデルベース
システムエンジニアリングという手法も広がっている。

 これらは、商品からの要求値を、詳細な物理量へと落とし込み、形ではなく物
理状態量を設計(機能設計)することで、相互作用を把握し、全体最適に向けて
調整(関係設計)するという手法で、実機によるテスト工程を待たずして検証が
出来る為、開発期間を圧倒的に短縮できるという大きなメリットがある。モデル
ベース開発は、既に特に内燃機関係の制御開発分野を中心に自動車産業でも多用
されており、多くの成果を生んでいる。

 更に、モデルベース開発の手法の普及が進めば、自動車の「摺り合わせ」の手
法そのものにも大きな変化を齎し、結果、自動車部品をシステムで大きく纏まっ
たモジュールとして納入できるメガサプライヤーの存在感が増大してくる傾向も
見られる。

○ 自動車産業における取引のオープン化

 上述 IoT が生み出した新たな手法が出てくる以前より、完成車メーカーと部
品メーカーの関係が徐々にオープン化しつつある。つまり、同じ部品について
2 社以上の完成車メーカーに納入を行うサプライヤーの比率が、1990年当時の
40 %に対して、近年では 50 %を上回るにまでオープン化してきた。更には、
これらオープン化したメーカーについては、他のクローズなままのサプライヤー
に比べて断然高い TFP (全要素生産性)を実現している。

 斯様にモジュール化の進展は、サプライヤーにとってもリスク増のみならずそ
れに見合った量産効果の実現による収益増を実現できるチャンスとなる。

 更には、その様に確りとした実力を持ちつつオープン化したサプライヤーが海
外展開を進めれば、グローバル化に伴うものづくりの課題も軽減・解消されるで
あろうと期待される。

【明日への挑戦】

 以上、述べた様に、自動車産業を始めとする日本の製造業、「ものづくり」が
今、諸方面から大きく変貌しつつある。改めてビジネスモデルの上位レイヤーか
らら整理すると:

○ 顧客志向が、モノからコトへ、所有から使用へと変化し、マーケティングの
  あり方が変貌し、新たなビジネスモデルが構築される(但し、これは「ものづ
  くり」という範疇を超えたものであるが)。

○ 最終商品である自動車そのものが、IoT 化する中、その商品のあり方、構造、
  要求性能が大きく変化、複雑化しつつある。特に電動化、電気化が進行しつつ
  ある。

○ 自動車の販売がグローバル化する中、地産地消が進み、自動車のグローバル
  生産が引き続き進行する。

○ 自動車そのものの設計開発方法がモジュール化し、結果、それまで自動車メ
 ーカーのものづくりが変化する。それまで行われてきた開発・製造工程が、サ
 プライヤーにシフトし、サプライヤーはリスクと共に付加価値を増やし、「も
 のづくり」はサプライヤー段階でも大きく進化する。

○ 「ものづくり」は従来より対象としているハードウェアのみならず、今後は
  ソフトウェアへと対象領域を広げる。

 斯様に、「ものづくり」のカバーする領域や課題数は圧倒的に増加する。しか
も確実に増加する。そして、更に IoT がより本格化すれば、ものづくりも、本
格的にマスカスタマイゼーションと真剣に向き合いことが必要となる。「ものづ
くり」の世界に「メイカーズ」をも迎え入れる時期はそう遠くないだろう。

 つまり、「ものづくり」の概念そのものが大きく変貌しつつある。「ものづく
り」は顧客志向・ビジネスモデル・製品開発というより上位のレイヤーと密接に
関係しつつ、従来の枠組に捉われない、より柔軟でフレキシブルで何よりも、自
らがクリエイティブな概念に変容すると予想する。そして、その行方がどうなる
かはまだ、判らない。「明日への挑戦」のスタート台、それが、今、「ものづく
り」が置かれた場所なのだ。

<大森 真也>

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