世界戦略車に見るスズキの競争力

◆スズキ、ジュネーブショーに世界戦略車「SX4」を出品すると発表

<2006年02月09日号掲載記事>

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「スイフト」「エスクード」に続く、スズキ第 3 の世界戦略車として注目を集める「SX4」の概要が発表となった。SX4 は、2003年 4月に合意した伊 Fiatとの共同開発車で、今年春から欧州で発売となる。開発コンセプトは「X-OVERREVOLUTION」(クロスオーバーレヴォリューション)となっており、スズキが得意とする小型車の DNA とコンパクト SUV の DNA を掛け合わせたクロスオーバーモデルとなっている。実車の初公開の場となるジュネーブモーターショーでは、よりオフロードテイストを強めた「アウトドアライン」と、より都会的なテイストを強めた「アーバンライン」の二つの仕様に加え、WRC を想定した競技用車両の試作車も公開されるという。

アウトドアラインの四輪駆動モデルには二輪駆動、四輪駆動、二輪/四輪自動切換えの 3 つのモードを切り替えられる四輪駆動システムを搭載する。エンジンは 1.5 L と 1.6 L のガソリンエンジンと、1.9 L のディーゼルエンジンを設定しており、ディーゼルエンジン仕様車には 6 速マニュアルトランスミッションも組み合せられるという。ハンガリーにあるマジャールスズキで年間 6万台を生産予定であり、うちスズキブランドで 4 万台、Fiat ブランドで 2 万台販売するという。

国内トップの軽自動車メーカーであるスズキだが、近年普通乗用車分野への事業展開を加速させている。2004年 11月に発売したスイフトは、スポーティなデザインと高い走行性能、手頃な価格が大きく評価されており、同社初となる日本カーオブザイヤーの特別賞と RJC カーオブザイヤー(1993年のワゴン R 以来、13年ぶり二度目の受賞)を受賞した。発売後 1年をたつ現在も安定して月間 4~ 5 千台程度の販売を維持し、2005年の国内販売は前年比で約 45 %増を記録した。スイフトは、インド、ハンガリー、中国でも同一品質、同一性能による同時生産を開始したことが話題となったが、海外でも順調に販売を伸ばしている。

2005年 5月に発売したエスクードも好調である。特に、北米、欧州など海外市場向けの輸出(輸出名「グランド・ビターラ」)が好調であり、発売 3 ヶ月で輸出計画も大幅に上方修正された。世界戦略車として先代モデルよりも一回り大きくなった現行モデルは、デザイン、質感とも 1 クラス上にシフトしており、海外生産も視野に入れたものとなっている。

この 2 つの世界戦略車の成功と過去最高を記録した国内の軽自動車販売により、スズキの 2005年世界生産台数は初めて 200 万台を突破し、前年比 6.5 %増の 212 万台を記録した。スズキは 2002年に中期 3 ヶ年計画を発表しており、利益目標は結果的に未達(それでも営業利益、経常利益は過去最高を記録)となったものの、2002年時点では 160 万台程度であった生産台数を 50 万台以上上乗せしており、着実に成長を続けてきた。そして、2005年に発表している中期 5 ヶ年計画では、2009年度の目標を 270 万台に設定しており、更なる拡大に向けて事業展開を進めている。

この近年のスズキの業績拡大の背景には、同社の競争力に大きな変化があると考える。即ち、商品力の向上である。

かつてのスズキ最大の強みは、徹底した低コスト開発・生産であり、マーケティングの 4P の切り口で考えると、Price (価格)に相当する部分にあると考える。これまで、研究開発費や設備投資は最小限に抑え、既存の技術や設備を最大限に有効活用し、開発費や減価償却費を抑えることと、従業員 1 人あたりの生産性を最大限に高め、人件費を抑えることにより、業界トップクラスの原価率の低さを達成してきた。これが、国内軽自動車分野で 31年連続でトップシェアを誇る原動力となってきたと考える。

しかし、グローバル化が進展する世界の自動車市場において、韓国メーカーのみならず、中国等の新興市場の地場の自動車メーカーも着実に成長している中、価格競争力に固執し、これらの新興勢力に対し、価格勝負を挑み続けることが今後取るべき戦略とは考え難い。当然、事業基盤の拡大や技術面での差別化が必要であり、そのためにも研究開発投資や設備投資を拡大し、商品力、つまり Product (製品)に相当する部分を強化することが求められる。

スズキは、前述の中期 5 ヶ年計画において、設備投資額を過去 5年間の 2 倍にすることを発表しており、設備・研究開発投資を推進し、事業基盤を確固たるものとすることを明確に方針として掲げている。この狙いも商品力の強化にあると考える。市場に高く評価されているスイフト、エスクードという二つの世界戦略車もこうした商品力強化への取り組みの産物であろう。今回発表となった SX4 にも大きな期待がかかる。

このように、低コスト開発・生産に加え、商品力を向上させてきたことで、他の自動車メーカーへの OEM 供給も拡大させており、これも近年のスズキの生産台数拡大に大きく貢献している。GM グループとの連携の中で OEM 供給や共同開発を推進しており、2000年から欧州で OPEL Agila (ワゴン R ベース)を生産開始したほか、2001年から国内で Chevrolet Cruise (先代スイフトベース)を展開している。また、富士重工に Justy (欧州向け)を OEM 供給し、南米では GM の拠点でスズキ車を生産し、Chevrolet ブランドで販売してきた。また、国内でも、軽自動車を中心に、マツダに計 6 車種、日産に 1 車種、 OEM供給している。今回の SX4 も Fiat に OEM 供給される予定である。

また、日本ではあまり知られていないが、海外専用車の開発という新たな取り組みも行っている。スズキはインドネシアにおいて APV と呼ばれる海外専用車を現地開発・生産しており、東南アジア、豪州等に輸出している。8 人乗りのミニバン、商用バン、ピックアップ等をラインナップしており、年間 7 万台を生産しており、三菱自工にも OEM 供給している。

スズキの商品力は確実に向上しており、これがここ数年の業績拡大に大きく寄与してきた。そして、今後 270 万台という目標を達成していくためには、これまでの Price、Product を強化する戦略に加え、Place (物流、チャネル)、Promotion (プロモーション)といった部分を強みに変えていく戦略も求められるであろう。業販店主体の国内販売網から本格的なディーラーネットワークへの転換、OEM 販売に頼らない自社ブランドの強化など、今後想定される課題を乗り越えられれば、今度の中期計画は確実に達成できるのではなかろうか。

<本條 聡>