自動車の IT 化がアフターマーケットに与える影響について

今回は「自動車の IT 化がアフターマーケットに与える影響について」という
テーマでご協力をお願いしたアンケート結果を踏まえたレポートです。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7432

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【はじめに】
 自動車アフターマーケットとは、自動車購入後、自動車を維持管理する際に発
生する製品・サービスの市場全般を総称するもので、日本では年間 10 兆円を超
える市場規模となっている。

 新車の販売台数は景気、政府施策や税制改正などの外部要因の影響を受けやす
いが、アフターマーケットのベースとなる保有台数に関しては当面は横ばいで推
移していくとみられている。然しながら、中長期的にみると人口減少や若年層の
車離れ等により減少傾向で推移していくとみられており、ビジネスの分母である
台数の減少に対し、売上を維持・拡大させていくために、現業のシェアアップだ
けでなく他業界への参入、新サービスの提供等取り組んでいる会社も多い。

 また、総務省が今年 7月に公表した情報通信白書によると、自動車関連分野の
IoT 端末数は 2014年の 1.9 億個から 2020年には 35.1 億個へと約 18.5 倍
になると予測されており、年平均成長率も 30 %と急速に自動車の IoT 化が進
むとみられている。技術の高度化・低廉化によるデバイスやインフラの普及とい
った側面と、市場のニーズの側面が普及の後押しをしており、自動車のアフター
マーケットにおいても、今後益々拡大していくとみられている IoT (モノのイ
ンターネット化)を活用した様々な変革が起きていくと考えられる。

【ワンクリックアンケートの結果】
 先月実施したアンケートの結果は以下の通り。

1.運転行動/特性連動型費用負担(テレマティクス保険等)による保険市場の
   変革:27 %

2.自動車の履歴情報(メンテナンス履歴、事故履歴等)などのトレーサビリティ
   サービスを活用した中古車市場の拡大:24 %

3.車載センサーを利用した予防保全、リアルタイム車両点検等、ディーラー/
   大手業者のユーザー囲い込みによる自動車整備市場の寡占化:22 %

4.インターネット更新型の車載情報(IVI)システムなどアプリケーションを
   含む用品市場への新業態からの参入:10 %

5.個人車のカーシェア等、自動車賃貸関連市場のサービス拡大:12 %

6.その他:5%

 自動車の IT 化により最も影響を受けると思われるアフターマーケットの分野
につきご回答頂いた今回のアンケート結果では、既に欧米で実用化されており、
サービスとして具体的にイメージしやすい「テレマティクス保険」、「トレーサ
ビリティサービス」を選択された方が多かったが、「自動車整備市場」の変革に
ついては回答も多く、また一番コメントも頂いており、IoT だけでなく、自動車
の新技術の普及に伴う自動車整備市場の変化は避けられないと考えている人が多
いとの結果となった。

【テレマティクス保険について】
 テレマティクス保険とは、自動車に設置した端末機から走行距離(PAYD 走行
距離連動型)や運転特性(PHYD 運転行動連動型)といった運転者毎の運転情報
を取得・分析し、その情報を元に保険料を算定する自動車保険である。既に欧米
においてはテレマティクス保険が浸透しつつあり、2020年には、契約件数が自動
車保険の約 3 割を占めるようになるとの予測もある。

 日本でも今年からテレマティクス保険の販売が開始されており、自動車のデー
タを活用したサービスの代表例となっている。日本の保険制度は、保険料金が欧
米に比べ安価であること、また一般ユーザー向けには割引制度として、最大 63
%の割引率ともなる等級制度も確立されていることから、日本での普及を疑問視
し、多額な投資コストをかけてまでテレマティクス保険を導入する事に対し慎重
なスタンスをとっている保険会社も多いとの話もある。

 一方、商用車に関しては、テレマティクス情報を利用したフリート管理により、
安全管理だけでなく、運転、業務効率化によるコスト削減も見込めることから、
テレマティクスサービスを利用する企業、団体も増えてきている。

 一般ユーザー向けも、交通事故抑制効果があると実証できるのであれば、テレ
マティクス情報を保険費用削減だけでなく、安全運転支援の面からも利用促進し
ていく事に意義はある。イギリスの例ではあるが、17 歳から 21 歳の加入者が
1年間保険商品を利用した場合に、交通事故率が 75 %減少したとの話もある。
テレマティクスサービスの普及の為には、導入コスト削減の観点からも、保険事
業だけではなく、他情報利用サービスへの活用の可能性も視野に検討する必要が
でてくるであろう。

【自動車整備業界について】
 総整備売上高は、景気回復や消費税増税前の駆け込み需要等により、5 兆 5169
億円 (2013年度) と 2年続けて増加したものの、東日本大震災前までは回復して
おらず、また前述の通り保有台数の減少が予測されている中、縮小傾向へ進むと
みられている。一方、整備工場数は取締強化による未承認工場の認証化等の背景
もあるが年々増加しており、減り続ける売上を奪い合うという構図が浮かび上が
ってきている。

 また、先進安全システムなどの新技術や、軽量化素材(超高張力鋼やアルミ合
金)の普及に伴い、設備やシステムなどの導入等の環境整備、人材育成等、整備
技術の高度化へ対応していく事が必要となっている。

 国としても、車両の故障診断やテストに使用する汎用スキャンツール(外部故
障診断機)の普及の為に、購入経費の 1 / 3(上限額 10 万円) を補助する制度
を 3年前から始めているが、今年は 2 億円の予算に対し、5 割程度の執行率と
低調な結果となった。

 また、スキャンツールの普及率も 6 割程度に留まっており、現状車検に必ず
しも必要ない上、同業他社や取引先のディーラーに外注する事も出来る事から、
導入不要と判断する整備工場も多いとみられている。しかし、今後は車検に車載
式自己判断装置(OBD)検査が導入されるようになるとスキャンツールが不可欠
となる事で、資金だけでなく人材にも余裕のない中小・零細の整備工場の技術力
をどのように向上させるのかといった問題も出てくる。

 ユーザーが自動車整備に求めるものとして「コスト」も大事であるが、一番は
「安全」であるとのアンケート調査もあり、一歩間違えると人命に係る自動車の
場合は特に「安全」を優先する人が多く存在する事は想像に難くない。ユーザー
側からみると、選択権を狭めるものになってしまうが、技術の高度化に対応出来
ている整備工場を利用したいと考える心情はよく理解でき、今後は技術の高度化
に対応出来ない整備工場は淘汰されていくことは必然かもしれない。

【トレーサビリティサービスについて】
 トレーサビリティサービスとは、自動車の所有者、整備、修理、事故等の履歴
情報を行政機関や事業者等から収集し、提供するサービスであり、欧米では既に
中古車売買の際に利用されている。

 日本では、中古車売買の際は中古車ディーラー等が査定する事が一般的であり、
一定の品質は確保されているものの目視に頼る部分が多くなっている。トレーサ
ビリティサービスを活用することで、ユーザーに対し信頼性の高い情報を提供す
る事が可能となる。調査機関が行ったアンケートによると、中古車購入時に後押
しとなる情報のニーズとして、「事故情報」「車両情報」「整備情報」が回答と
して多かった事からも、本サービスの有効性が伺える。一方、自車の情報提供に
対する意識調査によると、自車の情報提供に対し抵抗があるとの回答が 60 %に
も上ったが、そのうち 90 %は情報提供に抵抗はあるが、経済的なメリットがあ
れば提供をしても良いといった回答結果となっている。

 今回のアンケートで、自動車整備市場に関し「予防保全、リアルタイム車両点
検等を受ける車両は車検を免除するなどの法制度の修正があると便利である」と
の回答も頂いたが、車検だけでなく、「自動車保険割引」、「査定価格 UP」等、
インセンティブとなるような施策を活用する事で、より有効な情報を入手でき、
更にサービスの充実を図っていく事ができるのではないであろうか。

【情報の活用について】
 IoT によって自動車から取得出来る情報を、プラットフォームとして共有活用
することで、情報の充実化だけでなく、基盤整備投資費用負担も薄めることがで
き、普及拡大の相乗効果を得る事ができる。

 その為には、自動車関連で収集した情報の所有権は誰にあるかという根本的な
所に立ちかえる必要がある。自社で収集した情報は自社の経営資源であるとして
開示を拒否したり、顧客との契約上開示不可としたり等、情報収集の妨げとなっ
ている要因も多々存在しており、問題解決の為には情報利用に関する環境整備が
必要となる。また、個人ユーザーに関しても、個人情報の流出を不安に覚えてい
る人も多く、情報の提供に否定的な人も多い。情報の利用に際しては、実施体制
などの制度面、セキュリティ面からもしっかりと管理、運営を行える様細心の検
討を行っていく必要がある。

【さいごに】
 アンケート回答としては少なかったが、個人所有車を利用したサービスなど、
新サービスの創出も現実的となっている。UBER は、福岡で実験的にスタートし
た「ライドシェア」が行政指導を受け中止になる等、日本だけでなく、世界的に
も規制や既存業界からの逆風を受けているが、既に時価総額も 6 兆円を超えて
おり、サービスの新形態として世界的に無視できないビジネスモデルへと成長し
ている。

 ユーザーのニーズから新サービスが創出され、ユーザーの利便性にあわせ更に
進化を遂げていく、より良いサービスに育てていくのはユーザーであり、その為
には、自分の感性を研ぎ澄ませ、これから創出されてくる市場を上手に活用して
いきたいものである。

<成田 朗子>