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コラム

トヨタと富士重工の提携がもたらす効果

◆トヨタ、富士重工の米国工場(SIA)での「カムリ」生産委託等で正式合意

<2006年03月14日号掲載記事>

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3月 13日に、トヨタと富士重工の資本提携に伴う具体策の第 1 弾として、富士重の北米生産拠点である SIA (Subaru of Indiana Automotive, Inc.)にトヨタカムリを 2007年から年間約 10 万台生産委託することが発表された。今回合せて発表となった、今後進める予定とされている具体策は以下 3 つである。

(1)SIAでのカムリの委託生産
(2)富士重工へのトヨタ車の開発委託
(3)トヨタから富士重工へのハイブリッド車に関する技術供与

今回のコラムでは、この 3 つの施策について、トヨタ、富士重工両社における意義を考えてみる。

(1)SIAでのカムリの委託生産
今年モデルチェンジしたばかりのカムリは、世界 8 カ国で生産し、100 以上の国・地域で生産されるグローバルモデルであり、昨年 9月には累計生産台数10 百万台を突破している。北米においても乗用車市場のトップランクを競う主力モデルであり、北米市場向けには、主力工場の一つであるケンタッキー工場で生産されてきた。

今年、トヨタは北米市場で 255 万台の販売を見込んでいるが、現在の北米での生産能力(9 拠点、うち車両製造は 4 拠点)は 150 万台程度と言われる。先月発表したカナダ第 2 工場の増強や年内に稼動するテキサスの新工場などにより、2008年の生産能力は 188 万台まで拡大する予定である。しかし、依然として好調な販売に追いつくレベルではなく、米 GM を始めとする北米メーカーが経営不振に陥る中、米国における日本車メーカーへの風当たりも強くなることが懸念される。

こうした中、トヨタにとっては、SIA に生産委託し、北米での現地生産台数を拡大することで、単なる主力モデルの供給能力確保だけでなく、現地雇用拡大(フル稼働時には 1,000 人の雇用増が見込まれる)と現地部品調達拡大が期待できる。

トヨタの狙いはこれだけではない。米ケンタッキー工場だけでなく、国内の堤工場で生産していたカムリの生産を北米にシフトすることで、堤工場の生産能力を次期プリウスに当てることも噂されている。プリウスは現在堤工場とトヨタ車体で年間 20 万台程度生産されているが、カムリの生産をシフトすることで、次期プリウスを投入する 08年には 30 万台近くまで供給体制を拡大できることになる。

一方、富士重工にとっても SIA での生産を拡大できるメリットは大きい。1987年にいすゞと合弁で SIA を設立し、1989年より両社の車種を生産してきた。2001年頃までは安定して 20 万台レベルの生産を続けてきたが、2003年のいすゞ撤退、2004年のいすゞ車生産終了もあり、近年は 12 万台レベルに留まっており、採算ラインを下回っていた。2005年に B9 トライベッカの生産を開始し、生産台数拡大を図るも、更なる生産台数の確保が求められていた。

今回のカムリの委託生産により、生産能力を 24 万台まで拡大する予定であり、同時に、従来のスバル車(レガシィ、アウトバック、バハ、トライベッカ)の生産ラインを一つに統合することで、生産性の向上が期待できる。そして、何よりも、トヨタの生産設備を導入することで、生産技術面でも大きなノウハウを吸収することが期待できることも大きなメリットである。現在富士重工からトヨタに生産技術のエンジニアが派遣されているが、トヨタ生産方式を学ぶまたとない機会と言える。

(2)富士重工へのトヨタ車の開発委託
現在、世界規模で成長を続けるトヨタにとって、大きな課題の一つが技術者の確保である。過去 9年で、トヨタの世界生産拠点数は 2 倍に増えたが、生産台数は 1.5 倍程度に留まっており、世界的に多品種少量型生産の傾向が強まっている。同時に、開発拠点のグローバル化も進展しており、各市場に合わせた車種開発を行う体制を整えつつある。

こうした中、最も不足しているリソースが人材である。そこで、一部の車種の開発を丸ごと富士重工に委託することで、開発リソースを確保しようというものである。既存モデル、特に小型スポーツ車のフルモデルチェンジのタイミングに合せて検討することになるであろう。レガシィを始めとする一部のスバル車は、同じターゲットに向けたトヨタ車よりも市場の評価が高く、販売も好調なものもあり、商品力としても期待できるものがある。
両手で数えるほどの車種しか市場投入していない富士重工としても、10 倍以上の車種を展開するトヨタの開発を受託することで、開発リソースの稼働率向上も期待でき、同時にトヨタの開発手法を取り入れる機会を得られるため、前向きに進めたいと考えているであろう。

しかし、新型車の開発は市場に与える影響も大きく、ブランドイメージにも関わるために両社でも賛否両論あると考えられ、具体化にはまだ時間がかかることが予想される。

それよりも先に、これまで富士重工がスズキから OEM 供給を受けてきた欧州市場向け小型車の供給をトヨタから受けることの方が現実味があるかもしれない。

(3)トヨタから富士重工へのハイブリッド車に関する技術供与
富士重工は、これまで TPH (ターボパラレルハイブリッド)と呼ばれる独自のハイブリッド技術の開発を進めてきた。同社得意の水平対抗エンジンとトルコン式 AT の間に駆動モーター(ジェネレーターも兼用)をはさみこんだパラレル式のハイブリッドシステムである。エンジンにはミラーサイクルを採用し、中高速ではターボ過給により動力性能を確保し、低回転域ではモーターがトルクを補うことで、全域にわたって同社の売りである加速性能を犠牲にせずに、燃費性能を向上させるというものである。

しかし、富士重工の生産規模から考えれば、同社が独自にハイブリッドシステムを開発しても、競争力のある価格を実現することは容易くない。世界最大のハイブリッドシステムメーカーであるトヨタから技術供与を受け、システムの共通化を図る方が得策だというのは妥当な判断であろう。

トヨタのハイブリッドシステムも着実に柔軟性を高めている。ハイブリッド専用車種であるプリウスで確立した技術を応用し、モーターで後輪を駆動する4WD システムを搭載するハリアーハイブリッド、主力 FF 車種への投入となるカムリハイブリッド(北米で今年投入予定)、トルコン AT レベルまで小型化することで世界初の FR 車種への搭載となったレクサス GS ハイブリッド(今月発売開始)など、着実にラインナップを広げている。スバルの水平対抗エンジンやシンメトリカル AWD に対応するハイブリッドシステムの開発も近い将来実現されそうに思える。

ハイブリッド関連で、注目が集まるもう一つのテーマは 2 次電池であろう。トヨタは松下と共同でパナソニック EV エナジーを設立し、ハイブリッドシステム用 2 次電池市場を牽引してきた。ハイブリッド車用ニッケル水素電池では、業界トップの技術と実績を誇っている。一方、富士重工は NEC と共同で、NECラミリオンエナジーを設立し、急速充電、耐久性、コストに優れるリチウムイオン電池の開発を進めてきた。既に世界の自動車メーカーにサンプル供給も始めているという。この分野においても、両社の提携がどういう形で具体化されるか、注目が集まるところである。

以上のように、トヨタ/富士重工の提携に伴う具体的な施策は様々な分野に及ぶことが予想される。これまで GM との資本提携の効果が見え難い状態であった富士重工からすれば、願ってもない提携となったと考えられる。

先週行われた両社社長の記者会見において、資本提携発表から半年で具体的業務提携までまとめられたのは、「両社が共通の DNA を持っているからだ。」「クルマ作り、ものづくりというところでの文化が似ていた。」との発言があった。

客観的には、世界最高レベルの生産技術を駆使してマスマーケット向け製品に強みを持つ業界のリーディングカンパニーであるトヨタと、水平対抗エンジンと AWD という特定の製品領域に特化してニッチマーケットに注力してきた富士重工の文化には、結構な温度差があるようにも思える。両社の提携関係によるシナジー効果が「見える化」された製品の市場投入が楽しみであると同時に、あくまでも両社が持つ「とんがり」が失われないことを願いたい。

<本條 聡>

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