クルマ社会にも進出し始めた電子マネー

◆中央無線タクシー、タクシー全車両に順次、電子マネー「Edy」を導入へ8月から全車両(約2500台)利用可能に。タクシー無線組合での導入は全国初

<2006年04月10日号掲載記事>

◆JR東日本、タクシー料金の精算にも「Suica(スイカ)」の利用可能に

<2006年04月11日号掲載記事>

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最近活況を呈している電子マネー業界の波は、クルマ社会にも押し寄せてきている。先週、タクシーでも電子マネーが利用できるようになるというニュースが立て続けに流れた。今回は、この電子マネーが自動車業界に普及する上で何が求められるか、考えてみたい。
2001年に誕生した電子マネーの先駆け的存在である Edy は、当初はコンビニチェーン ampm ぐらいしか加盟店がなく、消費者への普及もなかなか進まない状態であった。しかし、2003年に全日空と提携することで、利用に応じてマイルがもらえるという武器を得て以降、ANA カードの会員を囲い込むことに成功し、それが空港周りの加盟店拡大にもつながり、一気に普及を進めることができた。「空港」というインフラを押えることで全国に顧客基盤を獲得したと言える。

同じく 2001年に導入された Suica は、母体となる JR 東日本の「駅」というインフラを持つ強みを発揮し、当初から充分な顧客を獲得できた。そして、東日本という特定地域での安定した顧客基盤を利用して、コンビニやレストランなどの加盟店を広げてきた。2004年には、JR 西日本の ICOCA (イコカ)と相互利用を開始し、日本航空との提携も始めた。2007年には、関東の私鉄や地下鉄、バスとも提携し、相互利用が可能になるという。

携帯電話端末の高度化に伴い、今年から携帯電話で電子マネーが利用できるようになったことも、電子マネーの普及を加速させている。Edy や Suica のようなプリペイドタイプの電子マネーだけでなく、クイックペイ、iD といったクレジット機能を持たせた決済サービスも登場しており、キャッシュレス決済市場を盛り上げている。

今回、ともに 10 百万人を超える顧客基盤を持つ電子マネー業界の両雄が、次なる市場としてタクシー市場にほぼ同時に進出してきた。「空港」と「駅」という交通インフラを基盤に事業拡大を進めてきた両者が次に展開する市場として、「タクシー」というのは当然の流れであろう。

タクシー業界も、2002年の規制緩和以降、「料金値下げは当たり前」という世界が横行し、市場競争は着実に厳しくなってきた。価格競争にも限界が見えてきた現在、タクシー各社は価格以外の付加価値の提供による差別化を模索してきた。こうした中、新たな投資を必要とするものの、決済端末の導入によるキャッシュレス化は、既に大きな顧客基盤を持つ電子マネー両者との提携により、顧客の囲い込みが期待できる非常に魅力的な事業提携といえる。

タクシーだけではなく、既にレンタカーにも電子マネーの波は押し寄せている。Edy はニッポンレンタカーと提携し、Edy による利用料金の支払を可能にしているほか、Suica も予約や料金割引サービスを始めており、利用者の拡大に伴い、こうした流れは更に広がることが予想される。

ここ数年の急速な展開を考えると、勢いをつけた電子マネーの波が自家用車市場に押し寄せてくるのも遠い先ではないようにも思える。自家用車における小口決済の機会としては、ガソリン代、駐車場代、高速料金などがあり、決して需要がないわけではない。そこで、自家用車への普及に向けて、最も大きな壁となるのが、ETC の存在は無視できないであろう。

2001年からサービスを開始した ETC は、一気に進めたインフラ整備、利用者への料金割引サービス、導入時の補助金制度等により、2006年 4月現在で累計台数は 11 百万人を超え、利用率では 57 %を誇るまで急速に普及した。現在、自動車業界としても、ETC のインフラ、決済機能を利用した新たなサービスの実用化に向けて取り組んでいる。

高速道路利用料金のキャッシュレス決済としてここまで普及した ETC の存在感は大きい。ボトルネックとなる端末やインフラ等の初期投資を済ませた以上、今後のサービスについては、比較的安価に導入できる可能性を秘めている。高度な双方向通信機能を利用し、渋滞情報等において既存インフラとも置き換えていくアイデアもある。

ここで大きなカギとなるのが、自動車メーカーの意向であろう。クレジットカード会社を抱える自動車メーカーは、ETC カードだけでなく、整備・点検等のサービスにも自社のカードを利用してもらい、新車販売における顧客の囲い込みツールとして活用している。自社のクレジットカードにガソリンの割引や付加サービスを持たせることでサービスステーションへの誘導を進めてきた石油元売り各社の存在も無視できない。

電子マネーがクルマ社会に本格的に普及するためには、既に普及している ETCや自動車メーカー・石油元売り各社のクレジットカードとの戦略的な提携が不可欠であることは間違いないだろう。既存業者に真っ向から勝負を挑むのではなく、こうした自動車業界の特殊性を的確に把握し、最適なアライアンスを実現することが、自動車業界でデファクトスタンダードを取るために求められると考えられる。

1 人のユーザーとして、様々な機能が一元化されることを期待したい。

<本條 聡>