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コラム

自動車業界における特許の供与や公開について

今回は「自動車業界における特許の供与や公開について」というテーマでご協力を
お願いしたアンケート結果を踏まえたレポートです。

http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7250

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【トヨタ自動車 FCV 関連特許無償開放】

 去る 1月 6日、米ラスベガスにて開催された CES (コンシューマー・エレク
トロニクス・ショー)にて、トヨタ自動車は FCV 関連特許 5,680 件を無償公
開することを表明した。

 その 5,680 件の内訳は、以下の通りと公表されている。
 ・燃料電池スタックに関する特許:1,970件
 ・高圧水素タンクに関する特許:290件
 ・燃料電池システム制御に関する特許:3,350件(※1)
 ・水素ステーションに関する特許:70件(※2)
   ※1:無償使用期限は2020年までと設定されている。
   ※2:無償使用期限は設けないとされている。

 上記のような特許公開に踏み切った理由として、トヨタ自動車は、「FCV 導
入初期段階においては普及を優先し、開発・市場導入を進める自動車メーカー
や水素ステーション整備を進めるエネルギー会社などと協調した取り組みを進
めるため」と説明している。この公開は、トヨタ初の量産型 FCV 「MIRAI」が
2014年 12月 15日に発売されてから 1 ヶ月と経たない時点でのことであり、自
動車業界に限らず産業界に広く驚きを与えたと言えよう。

 ・「自動車も IT のようにオープンソース化が進むのか」
 ・「テスラ・モーターズの EV 関連特許無償開放(2014年 6月、約 200 件)
   に対抗したのか」
 ・「2020年までの期限に他社が本当に活用できる内容なのか」

など、様々な見方や解釈が飛び交っているが、自動車業界ではあまり前例の無
い試みだけに、その評価は定まっていないのが現状であるように思う。

 そこで、そもそも特許とは何であり、企業は何のために特許を取得し何のた
めに特許を使用するのか、今の自動車業界において今回の特許開放がどういう
意味を持つのか、今後は特許の供与・開放がどうなっていくのかについて、考
えてみたい。
【企業が特許を保有する意味】

 基本的なことではあるが、特許の定義と目的について、改めて確認してみた
い。日本の特許法第1条によれば、特許とは「有用な発明をなした発明者また
はその承継人に対し、その発明の公開の代償として、一定期間、その発明を独
占的に使用しうる権利(特許権)を国が付与するもの」であり、その存在目的
は「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達
に寄与する」ことである。

 利益の追求を使命とする企業が、有している特許によって利益を得るやり方
は、以下の(A)(B)に分類することができると考える。

 (A)自社商品に対し、競合他社の商品には無い付加価値を与えることがで
    きる
 (B)特許の使用権を他社に供与し、特許料を得ることができる

 例えば、トヨタがハイブリッドシステムの特許技術を適用した『プリウス』
や『アクア』などが販売好調であることは上記(A)に該当し、その特許技術を
マツダに有償で供与したことは上記(B)に該当すると言える。このような利益
につながるため、企業は有用な技術の発明に励み、もしくは対価を払って特許
を取得することにより間接的に有用な技術の発明を奨励している。

 ところが、今回のトヨタのように特許を無償で解放するということは、上記
(A)(B)のいずれにも当てはまらない。このような開放の意味を考えるに
あたって参考になる前例は、自動車業界であまり無いが、電機業界や IT 業界
には前例を見ることができる。

 例えば、Google はスマートフォン用 OS 『Android』の技術内容を一般公開
(オープンソース化)し、それを基礎として動作するアプリケーションを販売
する他社の市場参入を促すことにより、現在の『Android』のポジションを獲得
することに成功した。またそれ以前の、ビデオテープ市場において VHS が特許
開放によって規格争いを制したことなども、同じ類の前例として挙げることが
できるだろう。

 このような特許の使われ方を前述の(A)(B)に加えるならば、以下のよ
うになろうか。

 (C)特許を無償で開放し他社の参入を促すことにより市場全体を拡大し、
    またその市場の標準や規格を構築する主導権を握ることができる

 前述の(A)(B)が一定の市場内での競合他社に対して相対的に利益をあ
げていることに対し、(C)は市場そのものの拡大によって利益を拡大する手
法と言える。
【自動車業界における特許の供与・公開の今後について】

 このような、商品力の優位性構築や特許料収入のためだけでなく市場全体の
拡大や標準・規格の主導のために特許が使用されるケースの出現は、今後の自
動車業界に新しい変化を齎すのだろうか。

 先月のメールマガジンにて、今後の自動車業界における特許の供与や公開に
ついて、読者の皆様にご意見を募ったところ、以下のような結果となった。

 1.市場導入初期段階で、無償で公開される特許が増える:34%
 2.市場導入初期段階で、有償で供与される特許が増える:15%
 3.ある程度市場に普及してから、無償で公開される特許が増える:14%
 4.ある程度市場に普及してから、有償で供与される特許が増える:15%
 5.特許の公開・供与はいずれも増えない:22%

 回答数のみを見ると、1.と答えた方が最も多いという結果となったが、そ
の他の選択肢にも回答が分散する結果となった。ただし、回答とともに寄せら
れたコメントに目を向けると、今回のトヨタ FCV 特許開放のような「市場導入
初期段階で、無償で公開される特許」は、以下の条件に該当したからこそ成立
した珍しいケースであるという声が少なからずあった。

 (1)市場全体が拡大するか否かの岐路に立っており、拡大した場合にはその技
   術の標準規格を主導するメリットが大きい
 (2)普及に向けて、他社や関連する他業界(インフラなど)の参入を促す必要
   がある

 翻せば、上記 (1)(2) の条件に該当する技術に限っていれば、1.を選ぶ方
は増えていたということであろうか。一方、3.4.5.を選択された方は、
共に寄せられたコメントから察するに、既に形成されている市場の中で有用性
を発揮する類の特許を想定されている方が多いようであった。
(筆者が設定した選択肢が、特許技術の特性についての指定が曖昧であったた
め、読者諸氏は選択に悩まれたようで恐縮です。)

 ここで、10年後や 20年後の自動車が持つ新しい価値として注目されている各
領域を思い浮かべてみると、いずれも多かれ少なかれ、前述の (1)(2) の条件
に該当するものであるように見受けられる。

 ・FCV/EVなど次世代パワートレイン
 ・自動運転
 ・テレマティクス、コネクテッドカー
 ・カーシェアなど新しいモビリティサービスの形態

 これらの価値について、先行する一部の企業が特許の開放に踏み切り、市場
全体を拡大させるとともに市場のデファクトスタンダードを握るのだろうか。
それとも各社が独自の特許を守り、市場の中で差別化によって競争を繰り広げ
ていくのだろうか。今回の特許開放を機に、今後の自動車業界においても、特
許の供与や開放の戦略的活用がより重要な鍵を握ることになりそうである。

<宋 太賢>

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