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コラム

国内自動車産業にとっての適当な為替水準について

今回は、「国内自動車産業にとっての適当な為替水準について」をテーマとし
た以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7185

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【ここ数年で大きく振れる為替水準と国内自動車産業への影響】

 ここ最近において為替レートが急激に円安に動いており、今後の動向に注目
が集まっている。

 かつては、リーマン・ショック等の外部環境の影響もあり、民主党政権時代
には為替レート(円/米ドル)が史上最高の 75.98 円(2011年 10月)となる
等、円高基調となった。
(出典: 為替は三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング公表の TTM レート)

 その後、2012年以降、日銀の金融緩和等アベノミクス効果もあり、為替は 100
円台にまで円高是正され、暫く同水準で推移していたが、ここ数ヵ月において
更に円安が進み、2014年 9月末には 109.45 円をつけた。

 更には 11月に入ると、黒田バズーカ 2 と称される日銀の追加量的・質的緩
和により、115 円台にまで円安が進み、金融市場では来年には 120 円を超え
るという推測も出てきている。

 黒田バズーカ 2 発動前(当時の為替水準は 107 円前後)に、本メールマガ
ジン読者の皆様に「製造から販売・流通までのバリューチェーン、及び周辺産
業も鑑みた場合に輸出・輸入両方の要素を併せ持っていると言える国内自動車
産業全体にとって現在の為替水準(円/米ドル)が適当なのか」伺ったたとこ
ろ、下記の通り分散しつつも「もう少し円高に振れて良い」と回答された方の
割合が 24 %で最多となった。

[国内自動車産業にとっての適当な為替水準について]

1. もっと大きく円安に振れて良い(121 円~ 130 円程度) : 18 %

2.もう少し円安に振れて良い(111 円~ 120 円程度) : 22 %

3.現行水準維持が望ましい(106 円~ 110 円程度) : 19 %
 
4.もう少し円高に振れて良い(100 円~ 105 円程度) : 24 %

5.もっと円高に振れて良い(~ 99 円)   : 12 %

6.その他      :  5 %
 
   ご協力頂いた回答者の属性別に見てみると、為替差益を享受し業績が好調と
言われている自動車メーカーや自動車部品メーカーの方々の中でも「もう少し
円高に振れて良い」とご回答頂いた割合が多かったのが印象的である。

 頂いたご意見の中でも「既に海外生産が進んでおり、日本からの輸出台数が
増えることはなく、寧ろ原材料等の輸入価格上昇による国内産業へのダメージ
の影響の方を危惧する」といった声が多い。

 実際に 2014年 1-9月累計の日本からの輸出台数は、330 万台強であり、前年
同期比で約 4.5 %減となっている。
(出典: 一般社団法人日本自動車工業会)

 また、最も売れる地域で集中生産したクルマが量産効果を発揮し、日本国内
生産車と比してコスト競争力を上回るケースもあり、円安基調でも国内回帰は
ないとの報道がある。同報道によれば、スズキが SX4 S クロスをハンガリーか
ら、三菱自がトライトンをタイから、ホンダが NSX を米国から、日産が e-NV200
をスペインから国内に輸入する等、日本市場向けに品揃えを拡充するという動
きも出ているようだ。

 また、中東情勢や、原子力発電の停止等の他の要因もあるものの、エネルギー
資源を輸入に頼る日本においては、円安による調達価格の上昇もあり、電気料
金や、クルマの燃料となるガソリン等の価格が高騰している。

 頂いたご意見の通り、国内供給を主な事業としている中小企業にとっては、
輸入原材料価格の高騰は看過できないものである。実際に、円安に起因する倒
産件数は 2014年 1-10月累計で 238 件に上り、前年同期比 2.2 倍の急増とな
っているとの発表がある。産業別にみると、高止まりする燃料価格の影響から、
自動車貨物運送業等の運輸業が最多となり、次に原材料高に悩む製造業が続く
ようである。
(出典: 株式会社東京商工リサーチ)

 経済産業省が、輸入原料や燃料価格上昇に直面する中小企業向けに、公的金
融を使った低利融資の制度を設ける検討に入ったとの報道がある。また、設備
投資に対する補助金も拡大し、円安の影響を受けやすい小売業等を優遇すると
のこと。金融的側面からの支援のみではなく、これまでも政府として中小企業
に対して取り組んでいるが、より一層の輸出支援、海外市場開拓といったとこ
ろにも注力して行く必要があるだろう。

 円安メリットを享受し、業績が好調なトヨタは、部品価格交渉で取引先への
値下げ要請を見送る、従業員への報酬を厚くする等、関係者にも恩恵をシェア
する動きがある。この動きはデンソー等の大手自動車部品メーカーにも広がっ
ており、更には Tier 2 以下も恩恵が受けられる可能性があると言われている。

 また企業業績好調による従業員の報酬への配慮に加えて、円安は株価上昇に
もつながっている為、個人の保有資産の上昇効果もあり、消費は回復するとの
見方がある。

 一方で、個人資産として株を保有している層はそもそも比較的裕福な層であ
り、預貯金が主な層にはこの恩恵は受けられず、消費は二極化するという見方
もある。仮に後者の見方をすれば、輸入価格高騰による物価上昇のみの影響を
受け、実質購買力が抑制され、消費支出にはネガティブな影響が働くというこ
とも考えられる。その場合には消費税増税等の影響もあり、国内市場がより一
層縮小する可能性があり注意が必要である。

 部品価格交渉で値下げ要請を見送られた部品メーカーにとって、個社毎に事
情が違うであろうが、値下げ回避額と、円安による原材料費や電気料金等製造
コスト上昇額等を天秤にかけた場合にはどうなのであろうか?

 更に、企業の迅速な成長や、事業多角化を図ることを目的とし、外資系企業
の M & A を積極的に推進していくに当たっては、円安は逆風となる可能性も
ある。

 このように既に産業構造が変わった国内自動車産業において、過度な円安へ
のシフトは必ずしも良いことばかりとは限らないと考える。

【長期的な視点に立った為替相場への対応】

 現在の為替は人為的に操作されている部分もあり、為替相場は長期的には対
象国の経済状況等を反映するものであり、長期に亘って人為的に調整を働かせ
るには限度がある。中長期的には円高基調に戻るかもしれないし、超長期的に
は日本の経済力が相対的に低下し、もっと円安水準となっているかもしれない。
事業戦略を考える上では、長期的に為替相場が安定していることが望ましいが、
こればかりは自国のみでどうにかできるものではない。また、世界的に通貨を
統一していくことができれば良いとも考えるが、各国同士で折り合いを付ける
のには相当手間が掛かるであろうし、また別の問題が生じることも否定できな
い。

 従い、現実的な路線としては、為替相場の変動に踊らされることのない、ブ
レない経営方針と体制、弛まないカイゼン努力と継続的な熱意が必要とされる
と考える。どの国で何をつくり、いつ、どの市場へ供給するかといった創造的
な供給網の戦略を描くチカラが問われていると考える。

 基本的には、地産地消を進め、その土地の消費者のニーズに適った製品をタ
イムリーに供給し、販売機会を増やしていく。その上で、現地調達比率を向上
させ、為替の影響を受けないという体制をより強化していくということであろ
う。更にはグローバルな供給体制が整えば、その状況に応じて最適な拠点から
供給を厚くするということも選択肢として採り得る。

 また、地産地消という観点では日本は高齢化と共に人口減となっていくこと
が予測されており、将来的には国内市場が縮小していくとの見方が太宗である。
これを少し明るい話題に切り替えるとしたら、違った視点で物事を見る必要が
ある。例えば、最近では、為替相場が円安にシフトした後、諸外国から日本に
来られる旅行者が増加しているとの話を聞く。また為替動向とは別に、介護士
等の外国人労働者の受入れに向けた準備も過去から話題になっている。こうし
た外国人に対して、新しい競争力のあるサービスや製品を提供していくことは、
縮小する国内市場を補完することにもなり、或る意味で新たなニーズを捉えた
地産地消の形とも言えるのではないであろうか。

 繰り返しになるが、為替動向に一喜一憂せず、ブレない経営を行っていくこ
と、及び昔から言われている通り、自身の置かれた環境を悲観的に捉えず「変
化をチャンスと捉える」目を養い、新産業・新市場を創出して行くことが今後
も継続的に求められると考える。

<横山 満久>

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