顧客の立場で自動車ディーラー・業販店に期待したいこと

今回は、「顧客の立場で自動車ディーラー・業販店に期待したいこと」をテー
マとした以下のアンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=7138

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 自動車の流通形態については、家電製品において実際に起こったことや、 
近年のインターネットの急速な普及に代表される環境変化を引き合いに出す形
で「変わる、変わる」と言われて久しいですが、依然として大きな構造変化は
起きていないように映ります。その一方で、ユーザーが販売店に求める商品や
サービスは間違いなく変化してきており、それらを的確に汲み上げることによ
る差別化そして収益維持・拡大のチャンスはあるはずです。 

 今回のアンケートは上記のような認識のもと、いつもとは少し視点を変えて
「顧客の立場からディーラー・業販店に期待したい分野」につき、皆さまのお
考え・ご意見をお聞きしましたところ、数多くのご回答・コメントをいただく
ことが出来ました、ありがとうございます。まずはワンクリック・アンケート
の結果をご覧ください。
  
1. 新車に関する情報・アドバイスの提供等      :30 %
2. 中古車部門の強化(買い取り・品揃え等)  :17 %
3. 新車・中古車購入に際してのファイナンス商品の提案   :14 %
4. 点検・修理等メンテナンスサービスの充実  :27 %
5. その他                    :12 % 
  
 上記のとおり大半のディーラー・業販店のコア部門となっていると思われる
「新車販売」と「メンテナンス」に過半数のクリックが集まる結果となりまし
た。しかしながらその他の選択肢も全て 2 桁以上の数字となっており、また
頂戴したコメントについては「その他」の回答に添えて頂いた件数が最も多く、
且つ具体的で参考になりました。

 以下、私が業界の方々とのお付き合いを通じて感じていること そして今回
お寄せ頂いたコメントなどを参照しながら、今後ディーラー・業販店がこれま
で以上の顧客獲得・リテンションを実現して業績を一層伸ばしていくためのヒ
ントを探ってみたいと思います。

 まずは新車販売について見てみましょう。新車を購入するに際して「顧客と
の間で売買契約を結び、クルマを受け渡しする」という販売店としての機能こ
そ長年不変ですが、契約に至るまでのプロセスは様変わりしたというのが実情
かと思います。1970年代までの新車販売は「訪問販売」が主体であり、ショー
ルーム最大の機能は文字通り憧れの新車の展示スペースでした。当時、人気モ
デルに新型車が出たとなるとテレビなどでも派手に「今度の土日は、お近くの
 xyz のお店へ!」という CM が頻繁に流れ、2日間で 100 万人を超える訪問者
 数を叩き出した車種があったという報道を見掛けた記憶があります。実際
 に、販売員さんが小旗を振って誘客・誘導をしておられた「新車発表会」に向
 かった経験は一度や二度ではありません。もちろん、販売店はショールーム内
 外とも人が一杯で、熱気にあふれていました。翻って昨今はどうかと考えてみ
 ますと、商品についてはインターネットで事前に情報収集をすることが当たり
 前になり、また新規顧客開拓のための訪問販売は過去のものとなりました。そ
 れを反映して、ショールームは商談スペースとしての接客テーブルが目立つよ
 うになり、更には携帯電話販売ブースの設置やサービスカウンターの拡張など
 により、新車が展示されていないというケースも珍しくなくなりました。また、
 バブル崩壊以降の販売体制見直しにより、多くのメーカーでは販売チャネル毎
 に専売モデルを設定するのではなく、全チャネルが全ての車種を取り扱うとい
 う体制に移行しました。言い換えますと、商談の場が店頭に移り、そして同一
 車種が近隣の販売店(もともとは同メーカーの販売店であっても取り扱い車種
 で棲み分けが図れていた店舗)でも購入出来るという時代になりました。今や、
 プリウスはトヨタの全4チャネル販売店で扱われていますし、日産のどのお店
 に出向いてもスカイラインが買えます。軽自動車においては予て重要な販売チ
 ャネルとなっている業販店での複数メーカー製品併売に加えて覚え切れないほ
 どに OEM 供給例が増えましたので、いずれの場合も単に特定の人気車種を取
 扱っているというわけで顧客を獲得できる時代ではなくなっています。

 次に、修理・点検等サービス・メンテナンス分野についてはどうでしょうか。
この分野では 1970年代後半以降、大型カー用品店チェーン、車検・軽修理フラ
ンチャイズ網、タイヤメーカーによるタイヤ関連サービスネットワークなどが、
販売店の新たな競合相手としてそれぞれに勢力を増してきました。新車とは違
う形ではありますが、自店ならではのセールスポイントを持ち合わせない限り
顧客リテンションが容易でなくなった点は共通すると感じています。その一方
で自動車の電子制御化・高機能化・ HV 車の普及などにより、ユーザー自身に
よるメンテナンスはもとより、専用/汎用スキャンツールなどの設備を保有・
活用する体制を整えている事業者が競合他社に対してアドバンテージを訴求・
発揮する余地が大きくなっているということも事実ではありますが。 

 また、新車・中古車・アフターサービスといった分野を問わず、既存客・潜
在顧客のニーズや属性も間違いなく多様化していると思います。情報の提供ひ
とつをとっても過去は「自家用車を初めて購入する層を開拓し、その後は数年
ごとの買い換え・アップグレードを促す」ために「新聞・テレビでの告知と、
折込チラシ・ DM ・戸別訪問による情報提供でリテンションを図る」といった
典型的な流れがありましたが、今ではパターンも多種多様になり、そのような
云わば「単線型」の営業では効果が上がりにくくなりました。私の周囲を見回
しても、そのような流れで販売店との関係を持ち自動車と付き合っているとい
うユーザーはもはや少数派となっています。

 さて、こうして各分野の動きを俯瞰してみますと、ある共通項が浮かび上が
ってきます。それは、いずれの分野においても過去のやりかたではもはや優位
性の維持は難しいが、その一方で取り込みを狙えるフィールドはより拡がって
いるのではないか、という点です。チャネルを跨いで併売される新車が増えた
ことや、保有期間の長期化に伴ってメンテナンス需要が増加したこと、あるい
は高齢者や女性のドライバーが飛躍的に増えたことなどは、いずれも十分な差
別化を実現している販売店にとっては顧客層を拡げるチャンスでもある、と思
うのです。

 そして、その差別化は専ら、それぞれの販売店がそれぞれの商圏・顧客層を
踏まえて、どこまで創意工夫を凝らすことが出来るかに掛かっていると思われ
ます。潜在顧客の掘り起こし・取り込みを図るのであれば店舗内の会議室や空
きスペースを計画的に確保して地域のカルチャースクールやサークルにスペー
スを貸与したり、更にもし常時提供出来るスペースがあれば地域の公民館・コ
ミュニティセンター的な活用を促したりして「クルマのことならいつも出向い
ているあの場所が、確か自動車販売店だったので相談してみようか」とでも言
ってもらえるような敷居の低さを感じていただくことも中長期的には有効かと
思います。一方で、日々の生活に自動車が不可欠な高齢の顧客にはトラディシ
ョナルな訪問販売のスコープを拡充した「御用聞き」的なカーライフ全般にわ
たってのサービスも歓迎されるでしょうし、そうした任務は長年に亘って訪問
販売のスキルを積み上げて来ておられ、十分な気配りの出来るシニア層の販売
員の方に担って頂ければ雇用延長時代の人材有効活用という効果もあり一石二
鳥かもしれません。同時に、自動車販売店の王道として自動車好きの購買欲を
刺激するような取り組みも考えてみたいものです。必ずしも直接的な販促を目
的とせずに店舗敷地を活用して自治会や近隣店舗・商業施設などと合同でイベ
ントを開催し、その場で近年メーカーによって盛んに設定されているオリジナ
ル化・カスタマイズパーツを装着した特装車や旧車のエキシビションや、経年
の高い中古車に甘んじている層に対する個人リースなど金融商品の具体的な提
案を添えた新車のプロモーションなどを展開してみても面白いかもしれません。
また、そうした機会を通じてお得感のあるオイル交換+主要ポイント点検を提
供し、少なからずあるディーラー整備の割高感の払拭や入庫促進を図るのも有
効でしょう(私自身、このような機会を経て「ディーラー整備派」に戻った経
験を有しています)。

 申すまでもなく、既に多くの販売店でこのような取り組みは展開されてきて
おり、私がここに書いた例もこれまでに顧客として経験し印象に残っていたり、
喜んで参加・利用したようなサービスも参考にしています。また、そうした取
り組みをなさっている販売店の Web-Site を拝見しますと、実に積極的に多彩
な取り組み、及び情報発信をしておられ、それらを眺めているだけで訪問して
みようかという気持ちになってくる実例も少なからずあります。

 今回は研究成果の発表とは少し違う形で、今後のディーラー・業販店に期待
したいことを思いつくままにあれこれと書き綴ってみました。自動車業界に身
を置いているとはいえ、日本国内で小売店事業そのものに従事した経験を持ち
合わせない者が書いておりますので、ディーラーや業販店のかたがたがご覧に
なると当たり前の事象や現実離れしたアイディア、あるいは収益性の観点で容
易には着手出来ないプランなどもあろうかと思いますが、もし日々のご活動の
ヒントや今後の施策をお考えになる契機にしていただけたり、少しでも 「面白
いかもしれない」 とか「長い目で見ればやってみる価値があるかもしれない」
とお感じになってくださるポイントがあれば幸いです。

 最後に、今回のアンケートに添えられていたコメントの中から2点、自動車
をつくる側から小売店に対する大きな期待が感じられるものを引用しつつ、本
稿を締め括りたいと思います。

(引用)
―「ディーラーは直接ユーザーと接する最も重要な組織であり、そこでの対応
は自動車メーカーの評価に直接影響します。特に、販売した後のフォローはユ
ーザー評価に大きく影響するのでメンテナンスやサービス部門を充実させてお
客様からの信頼・評価を得ることは不可欠です。」

―「顧客との直接の接点がメーカーではなく、販売店である。いくら素晴らし
い車をメーカーが作っても、販売店のセールスマン・サービスマンの対応が悪
ければブランドそのものの価値は半減する。」
(引用 了)

 新車という商品そのものによる差別化が以前ほど容易でなくなった今日、販
売店それぞれの事業環境を踏まえた創意工夫こそが、顧客を惹き付けそしてリ
テインするために、ますます重要になっているのではないでしょうか。私も顧
客の一人として、地域のニーズに合った施策によって活気に溢れた販売店が増
え、そうしたお店にお世話になれることを楽しみにしています。

<清水 祥史>