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コラム

『若者の自動車離れ』現象の今

今回は、「『若者の自動車離れ』現象の今」と題した 5月 20日付メールマガジ
ンにおける以下アンケートの結果を踏まえたレポートです。
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=7065

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【はじめに】

 今回のアンケートはかれこれ 10年以上にわたって自動車販売の伸び悩みの一
因に挙げられ続けている「若者の自動車離れ」現象をいま一度概観し、彼ら /
彼女らの需要を喚起するための施策を探ってみようという目的で設定したもの
である。
 
 そもそも「若者の自動車離れ」という現象は存在するのかという点であるが、
これについては各種のデータや文献などでも少なくともその傾向は確認出来る
ほか、筆者自身が講演・研修の機会などに新社会人に接する際の会話や質疑応
答を通じても実感させられる現象である。また、そうした傾向に一石を投じよ
うという狙いであろうか、複数の完成車メーカーが自社製品にあえて強いスポ
ットライトを当てずに「クルマ」「運転」そのものの楽しさや、自動車のある
暮らしの素晴らしさを訴える広告を展開しているのは皆さんもご存じのことと
思う。

 また、実際に自動車離れが起きている / いないにかかわらず、少子化・人口
減少が現実のものとなってきている今、若年層の購買意欲・需要を引き出して
いくことは国内販売を支えていくために非常に有効な施策の一つであることは
間違いのないところである。

 それではワンクリックアンケートの結果をご覧いただき、それを参照しなが
ら論を進めていきたいと思う。

【ワンクリックアンケートの結果】

 本稿をまとめるのに先立って、読者の皆様には「若年層の需要掘り起こし実
現のために効果的と思われる施策」についてのアンケートにご協力をいただい
た。その結果は以下のとおり。

1. クルマ単体として魅力的なモデルの投入:25%
 (基本性能・コンセプト・デザイン等)
 ―やはりクルマ本体としての魅力がないと購入までには至らないのでは。
 ―地方部では足として使う最低限のニーズはあるので、商品にどのような付
加価値を組み入れていくかをセグメント分けして考えていくことも有効では。

2. 多機能化(ICT・ADAS等、新機能の付加):8%

3. 移動手段としての使い勝手の改善:10%
 ―「クルマ不要論」の先鋒であった都心在住の子女(ペーパードライバー)
が必要に迫られて運転の練習を始めたところ、思いのほか面白いと感じたよう
です。

4. 車両本体関連分を除く保有・利用コストの低減:43%
 ―ランニングコストが掛かり過ぎるという負担感が、所有する魅力・利便性
を年々上回りつつあると感じます。
 ―都市部と地方では明らかに状況が異なる。都市部ではカーシェアリングな
ど、地方部では日常の足、といった具合にそれぞれのマーケットを冷静に見た
施策が必要。

5. その他:14%

 質問に対する回答の選択肢は「その他」を除いて四つを設定したが、これを
あえて分類すると 1 と 2 が「商品」に、3 が「利用する環境・インフラ」に、
そして 4 が「保有・利用(使用)にかかるコスト」領域の施策に関するもので
あり、それぞれにクリックをくださったかたは、需要喚起にはそれらに関連す
る施策が最も必要・有効であろうというご意見をお持ちであることが、頂戴し
たコメントからも伺えた。

 数字をご覧になった皆さんのご感想はいかがだろうか。筆者はまず「保有・
利用(使用)コスト」を選ばれたかたの比率が半数近くに達し、他の選択肢を
圧倒していたことに目を奪われた。事前に予想していたよりはるかに多かった
のだ。また、コメント件数の多さ・具体性についても同選択肢が他を圧倒して
いた。このアンケートは複数回答を受けない設定になっていることを割り引い
て考えてもなお、コスト負担を軽くする施策が強く求められていることは事実
のようである。
 
 一方で、筆者の予想よりもクリック比率が少なかったのが「商品」関連、特
に「2.多機能化」である。昨今の自動車にみられる情報集積・通信技術の進歩
は目覚ましいものがあり、さまざまな利用法が検討・提案されていることに照
らせば、この分野の発展は自動車の商品としての新たな訴求点になるのではと
漠然と考えていたのだが、その活用方法がまだ模索段階にあり、可能性・利便
性が幅広く認知されるに至っていない現状を反映したとも思える結果となった。
この多機能化に関する将来性と可能性については別の機会に触れることにした
い。

【「若者の自動車離れ」の有無】

 本題に入ってきたい。冒頭にも述べたとおり、現在都市部に拠点をもつ筆者
はこの傾向を実感している次第であるが、その一方で頻繁に足を運ぶ機会のあ
る地方部においては少なからず様相が異なり、若者を含めた各世代の自動車利
用度は筆者が当該地域で暮らしていた当時(1990年代)に比較しても上がりこ
そすれ決して下がってはいないと感じている。
 従い、地域特性やエリアとの関係を考慮せずに「全体としての自動車離れの
有無」を論ずるわけにはいかないと思われるので、以下では大きく「自動車を
持たずとも暮らせる都市部」と「自動車が無いと生活が著しく不便になる地方
部(都市近郊に広がるいわゆる「郊外」も後者に近い状況にあるところが少な
くない)」の2つに分けて考えることとする。

【都市部における「自動車離れ」とその対策】

 まずは「都市部」の現状について概観してみたい。例えば運転免許保有率。30
歳未満の年齢層の保有率は過去 20年間、全国では微減に留まっているのに対し
て、例えば東京都では約 10 %も低下しているという看過出来ない動きがみら
れる(1991年の保有率 74.2 %が 2011年には 63.5 %にまで減少)(国土交通
白書 2012)。そして、ペーパードライバーや「年に数回運転する程度」という
‘準ペーパー’とでもいうべきグループが多いことにも驚かされる。さらに筆者
が’若者’であった当時に比較すると、自動車を保有している・早く保有したい
と考えている者は格段に少なくなっているという傾向も残念ながら定着してし
まっていると言わざるを得ない。これらそれぞれに程度の差こそあれ、押し並
べて自動車との関わりが明らかに薄くなっているのである。

 可処分所得の向かう先をみても、総額が 20年前とほぼ同水準であるにもかか
わらず、将来の成長期待低下による消費性向の低下(貯蓄率の上昇)、月額 5
千円にも満たなかった消費項目である通信費の約 3 倍への急増(もちろん主要
因は携帯電話・インターネット関連)、家賃地代の上昇(いわゆる給与住宅制
度の退潮が一因とされ、若年層に顕著な傾向)などが自動車関連支出額を押し
下げているという構図が明らかである(経済産業省統計などを要約)。ただ、
この消費構造の変化は都市部にのみ見られる現象ではなかろう(家賃・地代に
関しては都市部における影響が大きめであるとは思われるが)から、都市部に
おいてのみ自動車離れが顕著だという根拠には不十分である。

 都市部が地方部と大きく異なるのは「鉄道・バスなどの公共交通機関が充実
しているかどうか、住居や諸施設が(日常利用に堪える頻度で運転されている)
鉄道駅やバス停から徒歩圏内にあるかどうか」といった点にあろう。都市部に
おいては少なくとも若者の場合は、自動車が無くともこれといった不便を感じ
ることなく日常生活を送れるのである。限られた可処分所得の中で高めておき
たい貯蓄率、削るわけにはいかない通信費・家賃地代の前にあって「無くても
何とかなる」自動車関連の支出が削られてしまうという傾向が強まるのも無理
はないのかもしれない。

 ここで「だから都市部ではもう若者の自動車離れは仕方のない現象なのだ」
などというつもりは毛頭ない。都市部にあっても自動車の魅力・利便性、そし
て運転する楽しさは決して小さくはないし、道路網の充実によりクルマならで
はの行動範囲は近年一層広くなってきているという筆者の意見には既に自動車
を保有・利用してきているかたの多くに同感いただけるのではないかと思う。
問題は、上述のような「クルマにお金を掛けない消費性向」が定着して以降に
免許取得年齢になった若者は、時には多少経済的に無理をしたり、周囲の仲間
に誘われたりして自動車に触れるチャンス、魅力を感じる契機そのものが減っ
てしまっていることにあるのではないだろうか。

 読者のかたから頂戴した意見の中にも、冒頭に紹介したものを含めて何らか
の機会にクルマを保有あるいは利用することとなったご家族(子女)がその楽
しさ・利便性に目覚めて手放せなくなった、という趣旨のコメントが複数あっ
た。クルマはやはり魅力的なツールなのである。同時に、都市部に住む若者に
はペーパードライバーという「自動車保有・利用予備軍」が多数派であるとい
う事実がある。そして、潜在需要層として貴重な彼ら / 彼女らは「自動車から
離れて行く」以前の問題として「自動車とその魅力に接する機会を持てないま
までいる」のである。余暇の過ごし方や消費支出項目が多様化する中で起こっ
ている「自動車パッシング」状態とでも言おうか、筆者の若かった頃には考え
られない、クルマとの縁遠さである。

 ということは、この層にまずは実際の自動車「利用」層になってもらうこと
こそが、都市部での需要喚起の第一歩なのではなかろうか。
 そのための施策、、、もちろん業界側としては自動車を買っていただく、す
なわち「保有」してもらうことを狙いたいが、今回のアンケート結果にも強く
出ている保有コストの高さがネックとなっている中、いきなり保有に誘導する
にはいささかジャンプが大き過ぎると感じる。まずは、とにかくクルマに触れ
てもらう機会を増やすという方向に、狙いを切り替えてみてはいかがだろうか。
以下、いただいたコメントを参照・引用しつつ、いくつかのアイディアを挙げ
てみたい。

1) カ―シェアリング等で、気軽に低コストでクルマを使用出来るような仕組み
の普及
 ―大型スーパーでのまとめ買いなど、車利用ならではの利便性を具体的に謳
ってみる。

2) 利用シーン・コストを具体的に示したレンタカーの PR
 ― 3 列シート車での週末旅行、最新型車での週末都心観光といった具体的シー
ンを訴える。特に、多人数乗車の場合における鉄道など公共交通機関利用に対
するコストメリットの説明も有効では。

3) 車検・諸経費を含めたトータルのランニングコストを訴求点とした個人向け
リース
 ―「いったいいくらかかるのか?」という点をまず認識してもらう。毎月の
定額支払ポッキリというリース料の設定そのものの認知度すらまだ高くない。

4) 無料あるいは低廉な料金での長時間 (数時間~数日) にわたる試乗車の提供
 ―自動車に触れて、利用する機会の提供

 あれこれ述べてきたが、都市部では「クルマ無しでも不自由なく生活できる」
一方で「クルマを利用するメリットや楽しさ、持てばこその利便性は今も十分
にある」のだから、まずはクルマと接する機会を増やすことにマーケティング
の重点を置き「自動車パッシング」状態の解消に努めるのである。保有への誘
導は、その次のステップであると割り切って。

 クルマに触れないまま、すなわち「身分証明書」としてしか利用しない運転
免許証の取得に都市部の若者の多数が、いつまでも 30 万円前後もの大金を支
出し続けてくれるとは限らない。自動車離れ(自動車パッシング)が進んでい
るとはいえ、免許取得・保有率がまだ高水準に留まっている今ならまだ間に合
う。まずは自動車に触れて、その魅力を感じてもらう機会を設けていくことが
急務ではなかろうか。

【地方部における若者とクルマ】

 今回のアンケートに対するコメントではまた、地方部では自動車がないと生
活できない、それがゆえに若者の自動車離れ現象も見られない、という趣旨の
ご意見を多数頂戴した。既述のとおり、このご意見には筆者も同感であるし、
実感もしている。いわゆるモータリゼーションがかなりの段階に達したとされ
る 1990年代初頭と比較しても地方部での自動車依存度は高まり続けており、そ
れは過去 20年ほどの間の大規模ショッピングセンターの増加(=自動車でない
と行けない)・市街地商業地域の衰退、地方ローカル鉄道・公共バス路線網の
縮小および存続しているそれら路線における著しい利用者数減少などの現象か
らも伺える。過去 20年スパンでの公共交通利用者数の減少は、地域人口の減少
幅を大きく上回っている地域・路線が大半であり、そのギャップの大半は自家
用車利用に転移した、すなわち自家用車依存度が一層高まったと思われる。こ
のように都市部とは様相の異なる地方部での需要喚起策としてはどのようなも
のが考えられるであろうか。

 必需品であるから現在も保有率は高い。しかしながら駐車場代などを除くと
保有コストの負担は都市部と同様である。となると需要喚起の鍵は、数多くの
消費支出項目の中で自動車の比率をいかに上げてもらうか、あるいは支出に対
しての安心感を持ってもらうかという点になろう。具体的には以下のようなポ
イントが思い浮かんだのだが、いかがだろうか。

1)伸び続けている平均使用年数への対応(買い換え意欲の刺激)
2)「増車」需要の喚起(低下傾向にある「自分専用車」需要の発掘)
3)ダウンサイジングを喰い止め、更には上級移行も促す

 ―最新モデルの安全性・快適性などへの具体的な訴求
 ―「自分専用車」「新型車」のあるカーライフ・同地方在住オーナーの実例紹介
 ―トータルコストの明示、定額利用の提案(諸費用込み個人リースの PR 活動など)

 こちらの場合は都市部と異なり、やはり保有を前提とした施策が多く浮かん
では来るものの、その内容は単に全国共通の販促策の繰り返しだけではなく、
それぞれのエリア・販売店の特性に照らした、地域に根差した肌理細かく独自
性に富んだものであるべきだと考えている。

【地域に根差したマーケティングへの期待】

 以上のとおり「若者とクルマ」の関係も都市部と地方部では大きく異なって
いると筆者はみているが、いずれの場合も「自動車」という商品が引き続き魅
力的あるいは欠かせない存在であり、それぞれの潜在需要の特性に合わせた販
促策による需要喚起の余地は小さくないと考える。今回述べたように需要サイ
ドの環境・事情がより多様になっている中で、需要をしっかりと喚起するため
には、引き続きブランドやモデルを認知させるためのマス・マーケティングは
不可欠であろうが、それと並行・協働する形でこれまでにないレベルの細かさ
で各地域の事情に合わせた施策を打つことがより重要になってくるであろう。

 余談になるが、その意味では先日’トヨタの「地域に根差したトヨタであり続
けたい」という想いと合致する’ということで打ち出された「AKB48 Team 8」
(各都道府県 1 名ずつ 47 名が選出された由)・トヨタ・全国トヨタ販社の
3 者による今後のコラボレーション企画とその成果に注目するとともに、業界
活性化の契機の一つになることを期待している次第である。

<清水 祥史>

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