日系自動車部品メーカーのメキシコ進出について

今回は、「日系自動車部品メーカーのメキシコ進出」をテーマとした以下のア
ンケート結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/?p=6810

メキシコ:いつまで続く日系自動車部品メーカーの現地進出

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スタートはメキシコシティから。高度 2400m、高原の大都市を後にして、高速
45 号線を北西にひたすら走る。約 3時間後、高度 1700m のなだらかな丘陵が
地平線まで広がる。「バヒオ」と呼ばれる地域。ここが、今、メキシコで最も
熱い視線を浴びている。セラヤ(ホンダ新工場)、サラマンカ(マツダ新工場)、
イラプアト(部品メーカー群)、シラオ(元から GM 工場在り)を、「自動車
街道」と名付けたい。地元グアナフアト州は、「メキシコのデトロイト」と自
称する。また更に 1時間半、州境をまたげば、アグアスカリエンテス、日産主
力工場の御膝元、目下、新工場も建設中。昨年 1年間でメキシコには自動車部
品メーカーが新規に 130 社程進出したといわれる。うち、100 社が日系、殆ど
がこのバヒオ地区を選んだ。そして、これら全ての工場が本年末から来年初め
にかけて一斉に稼働を始める。
 
【メキシコの自動車産業】

昨年、メキシコは 289 万台の乗用車(ピックアップを含む)を生産した。約
8 割が輸出。メキシコが世界 44 カ国と締結した自由貿易協定(FTA)がその基
盤となっている。
本年も既に 149 万台を生産した(1~ 6月)、前年同期比 5 %増、年間 330
万台を見込む。
来年は更に、先述の新工場が稼働する。マツダ 23 万台、ホンダ 20 万台、日
産第二 17.5 万台、欧米系他(Audi 等)の新工場を加えれば、2016年には国全
体で年産 465 万台の能力を備える。
これだけではない。BMW、現代、そしてトヨタ(乗用車)も新規進出を検討中で
ある。
 
【アンケート結果】

先月ご連絡のアンケートには、総数 177 件のご回答を賜りました。ご回答頂き
ました皆様には心から御礼を申し上げたく存じます。結果は以下のとおりでし
た。

設問: 日系自動車部品メーカーのメキシコへの進出ラッシュの今後は如何に?

1.既に出尽くしており、進出ラッシュは終わったと思う  25%

2.今後、特に日系自動車メーカー/ Tier1 の動向次第で引き続き新たな進出
が継続すると思う                               26 %

3.今後、特に非日系自動車メーカー/ Tier1 の動向次第で引き続き新たな進
出が継続すると思う                            12 %

4.今後、自動車メーカー/ Tier1 の動向を問わず、各社の生産戦略等の要件
に従い、引き続き新たな進出が継続すると思う。            26 %

5.その他       11%
 
概ね、「新規進出は今後とも続く」とのご意見が多勢と思われる。
 
【筆者見解】

設問の内容から、筆者の思惑が透けて見えてしまったかも知れない。筆者は、
2 か月前にメキシコ駐在を終えて帰国した。多分に想い込みもあろうが、「進
出は引き続き継続する」と予想している。その根拠として以下の 5 点を挙げた
い。

1.「メキシコの自動車産業構造」:

メキシコの自動車産業は 1925年にフォードが T 型を現地生産したことを皮
切りに、20年代に部品メーカーが出来、1960年代には 250 社余からなる自動車
産業の基盤が形成された。更に、当時メキシコは未だ「自動車後進国」、「貿
易収支改善」を課題に自動車産業の育成を試みた。1962年に自動車政令を発令
し、当初は、「外貨消費の削減」を焦点に、「国産化推進・輸入代替政策」を
採った。然し、その成果は芳しくなく、1982年に発生した外貨危機を契機に政
策路線を 180度転換、「外貨獲得の奨励」に焦点を据えた。結果、自動車・自
動車部品メーカーに対しては、従前からの課題であった技術力に加え、輸出市
場の開拓力が求められる様になり、国民資本の自動車メーカーは退場、産業自
体を外資が占拠する現在の形が出来上がった。なお、この外貨獲得奨励策はそ
の後 1994年の NAFTA 成立もあり、効力を発揮した。メキシコは「経済・貿易
の自由化」をより強化し、世界各国と自由貿易協定を結び、今日の FTA ネット
ワークを築くに至った。日本とも 2004年に EPA (経済連携協定)を締結し、
2010年までに殆どの品目について相互に関税を撤廃した。つまり、メキシコ自
動車産業が基盤とする市場は国内ではなく輸出市場であり、自由経済の枠組み
の中で、グローバルな「製造ハブ」となることを標榜している。
余談ではあるが、メキシコは 16 世紀初頭に、スペインがアステカ帝国を攻
略し、植民地化、居すわったスペイン系が 19 世紀に独立し今日に至っている。
何だか、そうした経緯は、上述の自動車産業の経緯とも相通じるものがある様
に筆者には思える。
 
2.「競争力上の課題」:

上述1の通り、1980年代の政策方針転換により、「国産化率」は政策的には
強化されず、自動車の国産化率とは、専ら、地場進出した Tier1 からの調達比
率を問うのみで、Tier2 以下部材については、未だ輸入品が多くを占めている。
例えば、メキシコ日産の現地調達比率(Tier1 からの調達比率)は 7 割を数
えるが、それら Tier1 の現地調達比率は 3 割程度と言われる。これまでのメ
キシコ製自動車部品の競争力の源泉は、偏に、「北米市場に近い」地位的優位
性にあった。また、昨今の中国での製造コスト増に伴い、メキシコの競争力の
比較優位性は多少改善されたと思う。然しながら、今後、メキシコ自動車産業
が抱える課題は、日本も目下加盟を目指す環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)
加盟を前提とした上で、自国の競争力を如何に保持し高めるか、にある。目下
の、「加工組立主体の国産化」体制は、本当の意味での競争力の構築から考え
ると決して芳しいものとは言えない。
 
3.「Tier2のメキシコ進出」:

そこで、自動車産業の基盤となる Tier2 以降についても強化する動きが近年
改めて強くなった。ここでも主役は外資である。昨年進出した 130 社の中には、
ボルト・ナットや、プラスチック部材、素形材を製造するメーカーも多数見受
けられる。これは、近年の自動車工場建設ラッシュにより、これら部材につい
ても採算が成り立つまで需要が拡大したことによる。つまり、外資による「フ
ルセット型」進出によって、今後、メキシコは産業基盤を強化していくものと
思われる。
 
4.「更なる自動車メーカー増強の兆し」:

既に、「メキシコ自動車進出、第二の波」の兆しは表れている。BMW はかつ
て 2003年迄メキシコで少量ながら乗用車の製造を行っていたが撤退、以後、メ
キシコからの部品調達は継続してきたが、この度、改めて3シリーズ製造の為、
メキシコ進出を検討、ほぼ決定段階にあると言われている。場所は未だ公表さ
れていない。現代は、メキシコと韓国との FTA 交渉が進まない中、メキシコ進
出のニーズあり、以前より検討中である。こちらはまだ決まっていない。更に、
注目のトヨタは、今でも、ピックアップトラックをメキシコ西海岸で製造して
いるが、改めて乗用車製造進出を検討中の模様である。各社ともに、北米向け
小型車の製造の為には、もはや米国内での製造コスト高より、メキシコ進出が
必須と考えている様だ。これら検討中の各社が、もし、今後、進出を本格化す
れば、また、メキシコでの部材需要が増え、それらの国産化の為、Tier2 以下
を中心に部品部材メーカー各社の進出が継続することになる。
 
5.「治安問題」:

前政権下の 6年間でメキシコ国内での犯罪関連での死者は累計7万人を超え
た。はたして、この状況が、昨年 12月の現政権発足後、どうなるか、まだ見極
めるには時間を要することと思われる。然し、多少改善の方向にあるのでは?、
と筆者は考える。著名なジャーナリスト、トマス・フリードマンが本年 2月 23
日に「How Mexico Got Back in the Game」と題した記事を書いた。彼は、「確
かに治安はメキシコにとって大きな問題、然し、今はそれに勝るビジネスのチ
ャンスがある」と力説している。筆者も全くこの記事と同意見である。
ということで、改めて、今、太平洋を跨ぎ、東京に戻って想う。メキシコは
世界の自動車産業にとって、今後とも注目すべき国の一つで在り続けると思う
し、そう願いたい。愛着の余り、ついつい長文となってしまったが、最後に締
め括りたい。「ビバ・メヒコ」。

<大森 真也>