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コラム

「鉄」の代替として、将来のクルマに最も期待する軽量化手法とは

   「進むクルマの軽量化」をテーマとした以下のアンケート結果を踏ま
えてレポートを配信致します。

http://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/6610.html

 ・「鉄」の代替として、将来のクルマに最も期待する軽量化手法とは

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 昨今、自動車業界に限らず様々な業界で地球環境への配慮が進んでいること
はご周知のとおりである。自動車業界においては、車両や部品の「素材選定」
から「廃棄」に至る全てのプロセスで環境負荷低減の動きが進められている。

 本レポートでは、車両使用時の燃費/電費向上に向けた取り組みの一環とし
て、昨今急速にクローズアップされている「クルマの軽量化」について考察す
る。
 
【厳格化する燃費規制と対応策】

 まずは、日米欧の 3 地域における乗用自動車の燃費規制動向について整理し
てみたい。

 日本では昨年、経済産業省/国土交通省により「乗用自動車の新しい燃費基
準に関する最終とりまとめ」が発表された。これによると、2020年度における
乗用自動車の燃費目標値は 20.3km / L (JC08 モード)と設定しており、2009
年度の実績値 16.3km / L に対し 20 %以上向上させた値を目標としている。

 欧州では今年 7月、欧州委員会により新たな CO2 排出規制の原案が公表され
た。軽商用車も含め、台当たり平均 CO2 排出量を 2020年までに 95g / km
(ガソリン燃費換算値で約 24.3km / L)と設定しており、現行の欧州規制
( 2015年に 130g / km (ガソリン燃費換算値で約 17.8km / L))より 30
%以上も厳しい規制となる。

 米国では現在、 2016年までに 1台当たりの平均燃費を 35.5 マイル/ガロン
(約 15.1km / L)とする基準が適用されている。またその後 2025年までに、
乗用自動車と小型トラックの燃費規制を 54.5 マイル/ガロン(約 23.2km /
L)相当に引き上げることを、今年 8月にオバマ政権が最終決定している。

 車両メーカにとって、このような厳格化される燃費規制への対応は急務であ
る。ご存知の通り、EV や HEV など様々な動力源を有する車両の登場や、アイ
ドリングストップ/回生ブレーキ等、燃費向上アイテムの採用拡大など、燃費
規制への対応策は種々多様である。

 中でも、全車両に共通して効果のある対応策が「クルマの軽量化」であろう。
ベース車両重量やベース燃費によって勿論異なるが、動力源を同一とした場合、
約 100kg の軽量化により数%の燃費向上が見込まれると言われている。
 
【軽量化へのアプローチ】

 車両/部品の軽量化(質量低減活動)は今に始まったことではない。車両開
発において、重心高や前後/左右配分を含む「車両重量」は多くの車両特性に
影響を与える為、開発初期段階から管理を行う最も重要な項目の一つである。

 各部品においては、質量低減手段に対して様々な項目が検討され採用されて
きた。但し、短縮化の一途を辿る開発期間への対応もあり、「根本的な構造見
直し」というより「既存部品の改良」という側面が強かった。

 しかし、上述のような燃費規制への対応として「根本的な軽量化検討」が必
要となってきている。検討/変更規模の大きさから「根本的な構造見直し」と
も言うべき材料置換は、以前にも増して注目度が高まっている。特に、車両の
約 6~ 7 割を占めると言われる「鉄」に対する材料置換の検討/実用化が進め
られている。

 「鉄」からの材料置換手段として、最も期待する材料を皆様にお聞きした結
果は以下のようになった。

 ・「鉄から鉄への材料置換」     :32 %
 ・「鉄から非鉄金属への材料置換」    :22 %
 ・「鉄から非金属への材料置換」    :36 %
 ・「その他」       :10 %

 最も票を集めたのは、「鉄から非金属への材料置換」で 1 / 3 以上の方が
選択された。クルマで使用される非金属の代表として、樹脂やゴムなどが挙げ
られるが、その特性や軽量化への寄与度という観点から「樹脂」に対する期待
度は高い。
 
【進む「鉄」から「樹脂」への材料置換】

 一言で樹脂といっても様々な樹脂材料が存在する。大きくは天然樹脂と合成
樹脂に分類されるが、特にガラス繊維などで強度を向上させた「繊維強化樹脂」
の採用が進んでいる。

 具体的な部品としてはバンパーやバックドアなどが挙げられる。特に樹脂製
のバックドアは、2000年代中盤より日産「ラフェスタ」やマツダ「プレマシー」、
スバル「R1」などから実用化が進められてきている。

 トヨタも、今年 5月に発売された新型「カローラフィールダー」に、同社と
して初めて樹脂製バックドアを設定した。既存の鋼板性に比べて部品点数の削
減も可能としており、補強部の鉄使用量は増加するものの、バックドア全体と
して 10 %以上の質量低減を達成したとのことだ。

 鋼板より低下する強度に対しては各社とも、樹脂(ポリプロピレン等)にガ
ラス繊維を添加するなどして強度を確保している。「カローラフィールダー」
のケースでは、ガラス繊維添加ではなく鋼性の補強材を多用することで強度を
確保している。

 また、強化材として炭素繊維を使用した CFRP (炭素繊維強化樹脂)の開発
も加速度的に進められている。成形性やコストなど課題はあるものの、鉄より
も強度が高く、軽量化も可能とする材料として、欧州メーカでも積極的に採用
検討が進められている。

 日本の炭素繊維メーカも、量産車への採用を視野に入れて海外メーカとの共
同開発を進めている。帝人はゼネラルモーターズ、東レはダイムラー、三菱レ
イヨンも独 SGL と共同開発を進めているように、今後の採用車種拡大が見込ま
れる材料である。

 このような強化材に対する環境への配慮も研究開発が進められている。トヨ
タが「レクサス GS250」で採用しているエンジンカバーは、天然繊維(サトウ
キビ)を使って強化した樹脂「バガスコンポジット」を用いており、軽量化だ
けでなく環境にもやさしい素材となっている。

 勿論、コストとの兼ね合いや衝突安全性能への影響など、部位によって「鉄
からの代替可能性」は異なる。また、代替候補となる部品であっても、強化材
の種類/補強材の構造など、様々な検討/選択が進んでいくだろう。

 これはまさに「根本的な構造見直し」と言える。昨今検討が加速している
「大規模モジュール化」や「部品共通化」への取り込み方も含めて、中長期的
な目で代替部位の検討が進むと思われる。
 
【進む「鉄」の高強度化/薄肉化】

 また、「鉄から鉄への材料置換」を選択された方も 30 %を超えた。

 既存部品からの代替という事を考えれば、「鉄」から「樹脂」よりも「鉄」
から「鉄」の方が、性能変化の予測はしやすいであろう。最近特に、代替先の
「鉄」として実用化が進んでいるのは、「高張力鋼板」と「ホットプレス材」
だ。

 国やメーカによって定義が異なるが、一般的に引張強度 490MPa 以上が「高
張力鋼(ハイテン)」と呼ばれ、1GPa 以上のものは「超高張力鋼(ウルトラハ
イテン)」と呼ばれている。また冷間プレスではなく、熱間プレス後冷却する
ことで強度を更に 1.5GPa 級まで高めた材料が「ホットプレス材」である。

 冷間プレス技術で先行していた日本では特に「ハイテン/ウルトラハイテン」
の採用が進んでいる。既存設備に大きな変更なく、高強度/薄肉化を達成し軽
量化を図るこれらの材料は、今後も採用拡大が見込まれる。

 一方、炉や冷却設備など大規模設備が必要となる「ホットプレス材」も、昨
今注目度が上がっている。設備投資で先行していた欧州メーカでは既に VW グ
ループや BMW、Volvo などで実用化が進んでいる。

 また日本でもホンダが、先日発売された NBOX の B ピラーの一部に「ホット
プレス材」を採用した。製造設備を含めた大規模な開発を伴いながらも、今後
の採用拡大が期待される材料である。

 上記アンケートで約 20 %の方が選択された、アルミニウムやマグネシウム
など非鉄金属への代替も含め、今後のクルマでは、部位によって求められる性
能/コストと照らし合わせながら、様々な材料置換の検討/実用化が進んでい
くものと思われる。
 
【材料置換により変わる「工法/工程」】

 前述したような材料置換はどれも、後述する開発/評価への影響のみならず、
車両/部品の製造工程に与える影響が非常に大きい。樹脂やホットプレス材な
どを使用した部品そのものの製造設備は、当然のことながら既存設備に比べて
大きな変更が必要となる。

 また、特に樹脂化することによる「根本的な構造見直し」で、部品構成が大
きく変更する可能性がある。モジュール部品のケースでは、アッセンブリ工程
などの大幅な変更も必要となろう。場合によっては、車両メーカへの納入(最
終アッセンブリ)サプライヤが変わる可能性も出てくる。

 周辺部品との関係性という事であれば、「接合方法の変更」も大きな工程変
更と言えよう。異種材接合部が多くなることが予想され、溶接や接着・締結な
ど、隣接部位材質(経年劣化や脆性などの特性差異)をしっかりと把握した上
での接合方法選択が必要不可欠だ。

 また接合方法の変更による、同一ライン混流車両への作業者インパクトも見
逃せない。混流車両の場合には、他車両の製造工程(即ち使用されている材質
/接合方法等)も深く認識しておくことが重要になろう。

 このように「工法/工程」という側面からも非常に大きな変更を必要とする
材料置換は、まさに「根本的な構造見直し」と言う事が出来よう。将来的な燃
費規制はそれ程までに厳しい、ということの裏返しである。
 
【大規模な軽量化に伴う留意点】

 最後に、材料置換のような「根本的な構造見直し」を伴う大規模軽量化への
留意点を纏めてみたい。

 様々な部位での材料置換の検討がまさに過渡期であることは前述した。基本
的には頭出し車両(或いはプラットフォーム)で検討されている材料置換も、
今後は複数車両(複数プラットフォーム)に展開されていくことが予想される。

 中長期的な視点で推進されている材料置換は、「モジュール/部品共通化」
への対応も合わせて検討が開始されているものと思われる。

 但し、総重量で何十 kg 以上にものぼる軽量化は、燃費/電費以外の車両運
動性能に与える影響も大きい。既存の類似車両に対する重量バランス変更は、
特に車両制御に与える影響が大きい。その為、材料置換の過渡期においては、
様々な重量バランスのクルマが創出されることを予め見越した、個部品の開発
(制御含む)が肝要となってくる。

 近年の自動車開発は、一部の高級車を除けば単独車両で開発/設計を行う要
素は徐々に減少してきていると思われる。他グレードや、同一プラットフォー
ムの他車両、更にはプラットフォームを超えた他車両に至るまで、このような
材料置換に伴う重量変更をどこまで読み切り、個部品の共通化を図っていくこ
とが出来るのか、難しいところではある。

 わずかな重量バランス変更に対する検討漏れが、不具合の要因となるケース
がある。モデルチェンジだけではなく、マイナーチェンジや改良によって一部
品の材質が大規模に変更され、周辺部位ではなくとも車両性能面で再検討が必
要となるケース(部品)は増加するであろう。

 その為、車両トータルとして考えた場合に、闇雲に個部品/モジュールの軽
量化を推し進めるのではなく、類似車両など複数車両にまたがる重量バランス
がどう変わっていくのか、をしっかりと見極めて開発を進めて行くことが重要
となろう。

 少し前までは、「FF / FR /ミッドシップ」などエンジン搭載位置により、
異なる重量バランスでの車両開発が進められてきた。今後は、エンジン/バッ
テリの搭載位置や、大規模な軽量化材料使用箇所など、様々な要素により異な
る重量バランスへの対応が車両開発面では重要となりそうだ。

                          

<川本 剛司>

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