AYAの徒然草(59)  『「情けは人の為ならず」で生まれるもの』

仕事で成果を出すことにも自分を輝かせることにもアクティブなワーキングウーマンのオンとオフの切り替え方や日ごろ感じていることなど素直に綴って行きます。また、コンサルティング会社や総合商社での秘書業務やアシスタント業務を経て身に付けたマナー、職場での円滑なコミュニケーション方法等もお話していくコーナーです。
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第59回 『「情けは人の為ならず」で生まれるもの』

最近、友達への贈り物としてお花屋さんでお花束やアレンジメントを買う機会が多く、先日も、夜の閉店間際に駆け込んで、ギリギリセーフで買い物をしました。もう店じまいの準備をしている時に駆け込んで来た客に、イヤな顔 1つせずにきれいなアレンジメントを作ってくれる店員さんに感謝し、店の奥の方にある大きなガラス張りの冷蔵ケースの中に保存されているたくさんのお花を観賞しながら出来上がりを待っていました。その時に、ちょっとおもしろそうなビジネスアイデアがひらめいてしまったんです。

実は私、日頃から、「もしも私が起業するならこれをやりたいな、あれをやりたいな」と、色々と考えているんです。今までに誰もやったことがなく、且つ、女性の目線でしか思いつかないようなビジネスをやってみたいと思っているからです。また、そうやって常に新しいことを考えることは脳の活性化にもなりますし、それに、「自分が経営者だったら」という視点で日頃からビジネスを考えることは、大切な意識だとも思っているからです。

そんな意識の中で、私は「これは良さそう!」となにかアイデアがひらめくと、詳細なプランを練って、実際に起業して大成功している友達たちにそれを話し、私のビジネスプランの実現可能性と起業家としてのセンスを見てもらったりしているんです。私の周りには、そういう成功者が多いので感化されているのかもしれませんが、でも、クリエイティブな仕事が好きという私の元々の気質が影響しているのかもしれません。

さて、閉店間際のお花屋さんでアレンジメントの出来上がりを待っている間に思ったこと。それは、この大きなガラス張りの冷蔵ケースに収まっている大量のお花はこんなにきれいなのに、夜 8時に閉店した後は誰の目にも触れないなんてもったいないなぁと思ったのです。お花屋さんの開店時間中だけじゃなくて、閉店後の夜も、なにか別の形でたくさんの人に見せることができたらいいのに。そして、そうすることで、お花屋さんにとってもプラスになることってなにかないかなぁと考えてみたんです。

みなさん、ちょっと想像してみてください。売られる前(花束になる前)の陳列されたたくさんの種類の花々。まだ無駄な枝葉がたくさんついている切り花とは言え、それが大量にガラス張りの大きなケースに収まっていたら、とてもきれいだと思いませんか?豪邸にでも住んでいない限り、自分の家では花を飾れるスペースといったって、せいぜい花瓶に 5~ 6個ですよね。それが、家庭用の冷蔵庫の何倍もあるような大きさで、全面がガラス張りになっているケースの中にいっぱいの切り花が入っているんですから、それはもうそれだけでも 1 つの芸術となり、とても美しいものです。

また、花束やアレンジメントになる前の切り花は、無駄な枝や葉が切り取られていない分、少し野生的にも見え、なんとなく自然に帰った気分にもなれます。つまり、都会にいながらも、お花畑や草原にいる気分になれるのです。花は、人に「美」だけではなく「癒し」ももたらすのです。

私は、もっと多くの人がそのような自然に帰れる美しい花々を観賞することができるアイデアがひらめいたのです。夜間だけではなく、お花屋さんが開店している昼間も鑑賞できる方法なのです。それは、お花屋さんとレストランが一体となった「お花屋レストラン」です。

切り花を、少し特殊な冷蔵ケースで保存します。横に細長くて高さは天井まで届くくらいの高さがあり、全面ガラス張りのものに保存するのです。冷蔵ケースが、部屋の仕切りになるようなイメージです。それをお店の敷地の真ん中に設置し、大きな冷蔵ケースで仕切られた二つの空間を作るのです。一方の空間をお花屋さんの店舗として、そして反対側の空間はレストランやバーとして使うのです。これで、「花を売る場」と「花を観賞する場」を同時に提供できます。

最近のおしゃれなレストランやバーでは、店内を華やかにするために、店内に生花が飾られています。しかし、私の考えたレストランだと、その必要はなくなるのです。つまり、定期的に装飾用の花を買い花瓶に生けるという手間やその人件費等がなくなります。観葉植物などをリースしているようなお店だったら、その必要もなくなります。店内装飾の経費の節減になるのです。その上、お花屋さんの大量の生花を観賞しながらお食事ができるお店として、知る人ぞ知る隠れ家的なお店として評判になると思うのです。

一方、反対側のお花屋さんは、店舗の半分をレストランに提供することによって店舗の賃料が半分になり固定費が減ります。そして、反対側のレストランで食事をしたお客さんに、一般客よりも少し安くお花を買えるという割引サービスをつければ、レストランのお客さんは(特に女性は)、ついつい目の前にあるきれいな花を見て買いたくなる衝動に駆られるはずです。つまり、お花屋さんの客も増え売上も上がり、「お花屋レストラン」は、お花屋さんもレストランも、お互いがハッピーになれると思ったのです。

という、ひらめきが訪れた数日後に、驚きの出来事があったんです。朝、新聞を読んでいた時、「あ!!先にやられた!!」と思う記事をみつけてしまったのです。「これって・・・、私が思いついたビジネスアイデアと同じじゃない!!」と、少し悔しい思いをしてしまったのです。

その記事は、「お花屋さんと本格的なバーが同居する」という内容でした。最近、青山にできたお店で、お花屋さんの閉店後に同じ店内で開店するバーの紹介でした。鉢植えや冷蔵ケースに入った切り花の香りを楽しみながらお酒にも酔いしれることができるというお店で、まさに私が考えていた「お花屋レストラン」の発想とそっくりだったんです。そしてそのお店は、普段お花とは縁遠く日々仕事に追われて多忙な生活を送っている 30 代の男性でにぎわっているそうなんです。「繁盛している」と聞くと、私はなんだか嬉しいようなちょっと悔しいような複雑な心境になってしまったわけです。

ところで、みなさん、東京の地下鉄の駅のホームの柱によく貼ってある「地下鉄のりかえ便利マップ」という案内図を見たことはありませんか?東京の地下鉄ならどの駅でも、ホームの柱にたくさん貼ってあるので、東京にお住まいの方は一度は目にしたことがあると思います。あの便利な案内図、実は、ごく普通の専業主婦が発明したものなんですよ。

きっかけは、この女性がある夏の日、地下鉄の駅のホームで、子どもを乗せたベビーカーを押しながらエレベーターを探してホームの端から端まで行ったり来たりしていた時、「どうして駅のホームには駅構内の案内図がないんだろう?」と、とても不便に思ったことなんです。ホームのどの辺にエレベーターやエスカレーター、階段があるのか。お手洗いはどこにあるのか。こんな簡単な駅のホームの案内図さえあれば、ベビーカーを押している人はもちろん、重い荷物を持っている人なども苦労しなくて済みます。この女性は、そんなちょっとしたことがきっかけで、一人で地下鉄の駅の調査を始めたんです。週末に、旦那様に子どもを預けて、東京の地下鉄の全駅(当時 256 駅)の構造を一人で調べたそうなんです。全ての駅の調査が終わるまで、約半年もかかったそうなんですよ。すごいガッツですよね。

それは、「自分が駅のホームで経験した苦労は、自分と同じ子連れの主婦や、また、ご老人なども同じように不便を感じているはず。だから、自分のためのみならず、多くの困っている人のためになることなら頑張って調査してみよう!」という強い意思から生まれたガッツなんです。彼女の「人のためになることをやりたい」という気持ちが、結果的に「発明」を生んだのです。

というように、思いついたアイデアを基に計画を立てて実現させることは、ただ単に頭の中で考えるだけの何十倍、何百倍もの労力が必要で、そこまでの努力をした人の方が当然、素晴らしいと思います。「発明は、1 %のひらめきと 99 %の努力だ」という言葉を、以前読んだ本に書いてあったのを思い出しました。情けないことに、お花屋レストランの「アイデア」だけを持っていた私は、1 %分のことまでしかできていなかったんですね。新聞記事を見つけて「先にやられた!」と悔しく思うことは、とんでもないお門違いだったのです。

また、この発明主婦の話を聞いて、こんなことにも気づきました。人は、ついつい自分に有利なことだけを考えがちですが、「人のためになることをやりたい」と純粋に思ってそれを実現すると、巡り巡ってその志が何か自分にとって良いことに形を変えて自分のところに戻って来るような気がしてきました。「地下鉄のりかえ便利マップ」の発明のきっかけは「困っている人のため」でしたが、その後この女性は起業し、現在は、このほかに様々なナビゲーションソフトなども作成する IT ベンチャーの社長さんとしてご活躍中で、発明家から起業家の道を歩んでいるんです。

「発明」や「起業」の目的が、最初から「お金儲け」だと、それがいずれ消費者の目に映り、長続きせず衰退が早いと思うのです。「人のためになるようなこと」、すなわち、多くの人に長く愛され、多くの人に「良いもの(こと)」だと共感し続けてもらえるようなことを実現することが、結果として自分に良い報いをもたらすんですね。「情けは人の為ならず」は、ビジネスにも当てはまることわざなんだなぁと実感しました。

しかし、私のような器の小さな人間は、日常生活ですら「情けは人の為ならず」に当てはまるような行動ができていないのが実態です。ついつい、自分のことだけを考えて、自分にとって良いことだけを行動に移しがちです。でも、これからは、日常生活から少し心を入れ替えて、「多くの人のためになることをやりたい」という志を持ちながら、誰もやったことのない独自のビジネスを考えて行きたいなぁと思います。

「お花屋レストラン」のように街の「お花屋さん」や「レストラン」だけがハッピーになるようなことではなく、もっとスケールを大きくして、東京に住んでいる女性のために、いや、日本中の女性のために、いやいや、世界中の女性のために、いや、もっともっと大きく、「世界中の人々がハッピーになれるように」と念頭に置きながら「新しいこと」を考えていきたいと思います。そして、1 %分のひらめきの次のステップ「99 %の努力」がちゃんとできるような人間になりたいです。

さ~て、そんなことを考えているうちに、まだまだ開拓されていない潜在的な市場がたくさんあるように思えてきました。みなさんも、「情けは人の為ならず」精神でいろ~んなことを考えてみると、心の底に眠っている「発明魂」「起業魂」が目を覚ますかもしれませんよ。

<佐藤 彩子>