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コラム

日本の多彩な次世代自動車技術

マツダ、次世代技術『SKYACTIV(スカイアクティブ)』を発表

<2010年 10月 20日号掲載記事>

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マツダが次世代技術「SKYACTIVE(スカイアクティブ)」を発表した。

エンジン、トランスミッション、ボディ、シャシーの各技術で大幅な性能向上を図り、新規に開発したガソリンエンジンを搭載した車では電気モーターのアシストなしでハイブリッド車並みの燃費 30km/L (10.15 モード)を実現するという。
世の中の耳目が電気自動車やハイブリッド車に集まっている中、敢えて内燃機関にこだわった今回の発表を聞いて新鮮な驚きを感じた方も多いのではないか。新技術の中身を見ても欧州や米国が取り組んでいるものと違いマツダの強い個性を感じる。日本の自動車産業の層の厚さを頼もしく思った。
 
 
【日欧のパワートレイン技術の変遷】

世界の自動車技術をリードする日本と欧州メーカーによるパワートレーンの開発競争は、お互いを意識しながらその技術を磨いてきた歴史のように感じる。
トヨタは 1980年代後半ファミリーカー向けの DOHC (ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト、若しくは、ツインカム) エンジンを発売し、高性能エンジンの大衆化を図った。当時の日本の旺盛な開発意欲が、それまで「高性能エンジンは値段が高くて当たり前」と何の疑いもなく考えていた欧州勢を大いに刺激することになる。
またこの頃、日産は世界に先駆けて 5 速自動変速機を搭載した車両を市場投入した。このユニットは、その技術的な先進性から欧州でも走りに特別なこだわりを持つ とされた BMW に OEM 供給されることになり、欧州自動車業界に大きな揺さぶりをかけることにもなった。
その後日本勢は、バブル崩壊後の 90年代、所謂「失われた 10年」の時代に研究開発部門の予算が縮小される中にあっても独自の発想と技術でハイブリッド車の量産化に成功。高性能 2 次電池の実用化を果たし、今日の電動化への大きな流れをつくることとなった。
他方、日本勢の相次ぐイノベーションに発奮した欧州勢は、過給機+ダウンサイジングエンジンやクリーンディーゼル、トランスミッションでは、高性能な多段変速機や DCT(ダブル・クラッチ・トランスミッション ) を次々に開発・量産投入し、独自の技術領域を構築してきた。
 
 
【マツダの独創性】

そこで今回のマツダの発表である。量産化されればパワートレイン開発のイノベーションの一つとして記録され、欧米の自動車メーカーにも影響を及ぼし、今後の内燃機関の方向性を変えるものになるかもしれない。キーワードは世界一の「低圧縮比」と「高圧縮比」である。

(1)ディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」

まず 2012年頃に日米欧で発売予定とされるディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」についてである。

今回の発表で驚いたのは、「SKYACTIV-D」は高価な NOx 後処理装置なしで厳しいグローバルの排出ガス規制をクリアしている点である。

欧州では 2014~ 5年を目途に Euro6 が導入される予定だが、新しい規制をクリアするには一般的に尿素 SCR(選択触媒還元 – 窒素酸化物を浄化する技術-、Selective Catalytic Reduction) や NOx 吸着触媒(白金触媒等)といった追加装置が必要とされている。こういった装置は高価で車の販売価格を大きく押し上げるため、新規制が導入されると現在約 50% を占める欧州のディーゼル比率も今後低下傾向を強めていく可能性もあるとされていた。
マツダはこれをどうやって実現したのか?

点火プラグによる強制着火を行わないディーゼルエンジンは、通常 16~ 17倍程度に空気を圧縮してそこに燃料を噴射することで自己着火させる。寒冷地でのエンジンの始動性を確かなものにするためにはこの程度の高い圧縮比が必要なのだ。しかし、マツダは冷寒対策の 1 つとして排気側に可変バルブリフトを採用し吸気工程の際に排気バルブを開け排気温をうまく活用することでエンジン内の温度を燃焼に必要な程度に保つ新たな方策をとったという。こういった対策等によりディーゼルエンジンとしては非常に低い 14 対 1 の圧縮比を実現したとのことである。
「低圧縮比」による効能は大きい。

シリンダー内の混合気が均質化することで NOx や煤の排出が少なくなり後処理装置の大幅削減に繋がった (DPF は装着される)。また、エンジン部品の小型・軽量化が可能となり、結果として機械抵抗による損失も下がり、試作車では 5200rpm というディーゼルとしては異例の回転限界 (レブリミット) をもつエンジンとなっているという。
欧州でディーゼルエンジンが人気である背景の一つに低速域でのトルクの厚みがある。低速でのトルクを維持しながら高速回転域での運動性能が上がればディーゼルエンジンの魅力が増す事にも繋がる。
欧州勢が高価な後処理装置の対策に苦労する中で、視点を変え理想の内燃機関を原点から見つめ直すことでコスト削減と環境対策、更には運動性能の向上の可能性まで示した今回のソリューションは高く評価されるものと思う。
 
(2)ガソリンエンジン 「SKYACTIV-G」

次に来年前半、デミオに搭載予定である「SKYACTIV-G」についてである。

「SKYACTIV-G」の独創性は「高圧縮比」化による自然吸気エンジンにある。

ドイツ勢を中心とした欧州の内燃機関の時流は過給機+ダウンサイジングエンジンである。排気量は減らすが過給機を用いてパワーは維持し、それまでと同じ大きさの車を走らせるやり方である。結果として CO2 排出量の削減に寄与する。
これに対してマツダは過給機を使わず、圧縮比を 14 対 1 程度にまで高めることでトルクを向上させ、排気量を維持したエンジンで回転数の方を下げ、言わばダウンスピードによりハイブリッド並みの低燃費を実現したという。
エネルギーの冷却損失や機械損失を考えねなければ、圧縮比は高めれば高めるほどエネルギー効率は良くなる。最近の自然吸気ガソリンエンジンでは 12 対 1 程度にまで高めることは珍しくないという。しかし、実際にはそれ以上高めていくとプラグで点火する前に自己着火してしまいノッキングが発生してしまう。
ノッキングは主にシリンダー内で混合気を圧縮した際の温度上昇で起こるとされている。エンジン内でその前の爆発によって発生した高温のガスがシリンダ内に残ってしまうため温度が上昇してしまうのだ。したがって、この残留ガスをできるだけ除去できればノッキング対策となるという。
残留ガスをできるだけ減らす方法として長い排気管を使い、4 気筒であればまず二つの排気管を1つに束ね更にそれを一つに集約する 4-2-1 の排気システムが採用された。こうすることで一度排出したガスが排気バルブ側から押し込まれるのを極力防ぐという。
ただ、長い排気システムを使うと排ガスの温度が下がり、排ガスを浄化する触媒が活性化しにくくなる。これを解消するためエンジンの点火時期を遅らせて排ガス温度を上昇させているという。触媒活性化のために排ガスの温度は高くするが、ノッキング対策のためその排ガスは出来るだけ除去し残留しない方策がとられているということだ。(燃焼の安定化のための混合気を集める独特の方策も取られている。)
高圧縮化は排気損失の低減に繋がる。マツダではこれに加え冷却損失や機械抵抗損失の改善も併行して実施したとのことである。

これにより「SKYACTIV-G」では現行エンジンに比べて 15% のトルク・アップが見込めるという。
 
 
【中規模自動車メーカーの戦略】

環境対策には膨大な開発費用が求められる。マツダのような中堅の自動車メーカーがすべての領域で単独開発していくには負担が大きすぎる。

一方で、内燃機関の技術が既に完璧で燃費を向上させるためにもう何もやることがないか、というとそうとは言えない。 未だに燃料が燃焼して発生するエネルギーの 凡そ 70 パーセントは動力としてタイヤに伝わる前に失われるという。マツダは内燃機関における「理想燃費の追求」に軸足をおきながら開発を進める道を選び、今回の発表に至った。
マツダの戦略は独創的なものであると同時に強かなものでもある。

2020年においても内燃機関の市場に占める割合は 9 割程度と言われている。そこでマツダはまだ改善の余地のある内燃機関の「ベース技術」を優先的に改良し、段階的に電気デバイスを導入する戦略を採用したという。今回発表された技術は将来のハイブリッド化に際しモーターや電池などの電気デバイスを小型化することにも貢献するとの由である。
巨大自動車メーカーが先導する電動化を受けて最先端の電気デバイスが量産化・汎用化していけば相対的にコスト負担が先々軽減されるメリットを期待できるかもしれない。

マツダの今回のプロジェクトの本質は上記した二つのエンジンに完結するものではなく、これに加え自動車という一つの製品を有機的に構成するトランスミッション、ボディー、シャシーといった各々の部品を総合的に最適化、最善化するプロジェクトであったようだ。その手法は正に摺りあわせ型モデルの真骨頂と言えよう。
 

【日本の多彩な次世代自動車技術】

自動車という製品は、パソコンやテレビと違ってハードそのものを楽しむ側面が大きい。用途に合わせて多様性を求めるユーザーも多く、一握りの種類の自動車だけしか売れないということはない。環境対策という厳しい条件はあるが、それをクリアした上で多くのソリューションが期待されている産業である。
今回、独創的な視点による新たな提案が国内メーカーから出てきたことは日本の自動車産業にとって大変喜ばしいことである。

先週はいよいよ日産からリーフの発売が発表された。時代は内燃機関、ハイブリッド、電気自動車の三役そろい踏みの様相でますます日本の自動車産業の技術領域は個性的で賑やかになる。この勢いで部品メーカーも含めたグローバル戦略を加速し、そして何よりも業界全体で明るく前向きな雰囲気を醸し出していくことで日本のトップランナーの地位を揺るぎなくしたいものである。

<櫻木 徹>

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