大規模モジュール化について

 今回は、「大規模モジュール化について」をテーマとした以下 2 問のアンケー
ト結果を踏まえてレポートを配信致します。

https://www.sc-abeam.com/sc/library_s/enquete/6339.html

 ・「大規模モジュール化推進に対する懸念事項について」
 ・「「共通化領域」の大幅な拡大を進める背景」

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 「モジュール」と聞いて、皆様はどのような「モジュール」を思い浮かべる
だろうか?

 インパネモジュール、シートモジュール、ドアモジュール、ステアリングモ
ジュールにブレーキモジュール等々、基軸とする機能に付随する構成部品群を
「モジュール」として思い浮かべる方は多いだろう。
※本レポート内ではこれを「機能別モジュール」と呼ぶ。

 このような考え方は、モノづくりの根幹を成す概念の一つとして従来より一
般的に定着/採用されてきており、複数車両における個別部品の共通化や、生
産/物流の効率化など、本概念がもたらした功績は大きい。

 しかし最近発表された、フォルクスワーゲンの「MQB (モジュラー・トラン
スバース・マトリックス)構想」や日産の「コモン・モジュール・ファミリー
」、トヨタの「トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー」で定義され
る「モジュール」は、上述した「機能別モジュール」概念とは異なる。

 個別車両の各機能軸を基に「モジュール化」するのではなく、複数の「機能
別モジュール」が組み合わさって構成されるエンジンコンパートメントやアン
ダーボディ等を、複数車両(プラットフォームやセグメント)間でどのように
共通化していくのか、を大命題として「モジュール化」概念を定義している。

 今回の大規模モジュール化は、各部品群をベースとする「ボトムアップ的な」
共通化議論とは異なり、自社の商品ラインナップが将来的にどうあるべきか、
をも考慮しながら共通化を考える「トップダウン的な」共通化議論と言えよう。
  
【共通化領域の拡大を進める背景】

 このように各グローバルメーカーが、「機能別モジュール」の上位概念であ
る「大規模モジュール化」構想に着手し、共通化領域の拡大を進めている背景
にはどのようなことが考えられるであろうか。皆様にお聞きした結果は以下の
ようになった。

 ・「更なる原価低減を目指していること」   :47 %
 ・「開発リソースが逼迫してきていること」   :22 %
 ・「電子制御の進化により、同一構造でも車両毎の「味付け」が
   柔軟にできるようになってきていること」   :14 %
 ・「リスク管理の観点からも、同一車両の複数拠点生産を可能にすること」
        :10 %
 ・「消費者のクルマへのこだわりが低下傾向にあること」  :6 % 
 ・「その他」       :1 %

 「更なる原価低減」を選択された方が最も多く半数近くを占めた。製造業の
大命題である「原価低減」の有効な手段として「大規模モジュール化」に期待
するところは大きい。

 現在全世界で 7 千万台以上生産されている車両は、2020年には 1 億台を超
えると予想されている。それに伴い、現在 800 万台規模の生産台数があるグロー
バルメーカーは、1 千万台以上まで生産台数を引き上げることが予想される。

 グローバルにニーズの異なる車両を供給する為の「車両の多様化」と、各車
両における「原価管理」はこれまで以上に重要になってくる。車両毎の原価の
積上げは即ち会社レベルでの「原価管理」とも密接に結びつく。

 「車両の多様化」と「原価」の最適なバランス構築は、1 千万台規模のメー
カーでなくとも、今後の勝ち残りの為の必須条件となろう。
  
【更なる原価低減を目指して】

 それでは、製品を産み出すプロセスを大きく「開発/評価プロセス」と「製
造プロセス」に分けて考えた場合、「大規模モジュール化」がもたらす原価低
減として、どのようなことが期待出来るのであろうか。

<開発/評価プロセスにおける原価低減>

 このプロセスで最も原価低減を期待出来るとすれば、やはり「開発工数」と
いうことになろう。

 コンポーネント/部品の上位概念である「大規模モジュール」を複数車両で
共通化することにより、結果的にコンポーネントレベルや個別部品レベルでの
開発工数削減につながる。部品種類削減にもつながる為、付随する管理費削減
も期待出来る。

 また、評価工数の削減も期待出来よう。複数車両に同一構造を採用すること
になる為、評価項目の実施条件や評価基準の設定などについては慎重な見極め
が必要だが、最も条件の厳しい車両で評価すれば、それよりも条件の「ゆるい」
車両では評価工数の低減が可能となるケースもあろう。

 但し、プラットフォームやセグメントの枠を超えて同一モジュールを採用す
る際には、最も条件の厳しい車両とは何かを車両横断的にチェックする必要が
あると共に、一部車両では過剰スペックとなる場合も想定される。

 大規模モジュールに付随する下位レベル(個別コンポーネント/部品レベル)
での VA (Value Analysis)や VE (Value Engineering)は、このような過剰
スペックに対する原価低減活動の一環として、継続的に実施されることになろ
う。

<製造プロセスにおける原価低減>

 本プロセスの中で最も原価低減を期待出来る領域としては、コンポーネント
/部品種類数削減に伴う、型費や段取り費用など工程(運用)設計に関わるコ
ストであろう。

 震災後に大々的に取り上げられた「部品の共通化」に伴う種類削減とも密接
につながっており、開発費も含めて、部品サプライヤーにおけるコスト低減が
見込まれる。

 また、フォルクスワーゲンの「MQB 構想」で、同一構造をアウディやセアト、
シュコダなど他ブランドにまで展開して、幅広い車種の同一ライン生産を理論
上可能としているように、生産ラインのフレキシビリティ向上も狙う事が出来
る。

 他ブランドでの同一部品採用による原価低減と共に、将来的に各地域での生
産台数に変化が生じた場合に、いかに低コストで生産車両を移管出来るか、と
いう戦略も「MQB 構想」には織り込まれている。

 このように、「大規模モジュール化」が進む背景として「更なる原価低減」
が大きな要素であることは間違いないが、20 % 以上の方が選択した「開発リ
ソースが逼迫していること」も見逃せない。

 コンベンショナルなガソリン/ディーゼルエンジン車も含め、各メーカーは
多様な環境対応車をどのようなバランスで市場投入するのかを見極めている最
中である。限られたリソースをどの車両に投入するのかを適切に見極め判断す
る為にも、各車両に対する開発工数を減らす事は至上命題とも言えよう。
  
【大規模モジュール化に対する懸念事項】

 それでは、このような大規模モジュール化を推し進めるにあたり、どのよう
な懸念事項があるのだろうか。皆様にお聞きした結果は以下のようになった。

 ・「不具合時の影響が、広範囲に及ぶこと」   :32 %
 ・「設計自由度が減少し、商品ラインナップが限定されること」 :20 %
 ・「モデルチェンジ時等に、単独車両での構造切替えが難しくなること」
        :13 %
 ・「様々な車格へ同一構造を適用すると、異なる車格間での
   品質コントロールが難しくなること」   :12 %
 ・「対応可能な部品メーカーが、限定されてしまう可能性があること」
        :13 %
 ・「懸念事項はない」      :6 %
 ・「その他」       :4 %

 最も票を集めたのは、「不具合時の影響が、広範囲へ及ぶこと」であった。
部品の共通化議論と同じく、一つの構造不具合がそれを採用している他車種へ
も影響を及ぼしてしまうことは容易に想像できる。

 大規模モジュール化といっても、個別車両で変更しなければならない適合要
素は、同一モジュール内でも「シリーズ化」され細分化される。ある不具合が、
車両横断的に影響を及ぼしてしまうのか、限定車両のみに影響を及ぼしている
のか、瞬時に判断する必要がある。

 その為にも、一つの「大規模モジュール」をどのような車両に適用するのか、
車両毎で細分化しなければならない適合要素は何か、を明確化した上での設計
開発・生産準備がこれまで以上に求められることになる。
  
【複数車両へ同一構造を適用する際の評価基準について】

 同一モジュールを複数車両に適用させる事は、品質のカバーレンジ設定が非
常に難しい。前述のように、最も評価基準の厳しい車両に品質を合わせこむ必
要があるからだ。各国で異なる使われ方をするような世界戦略車では、同一
(類似)車両であったとしても、基準設定が難しくなる。

 筆者も過去、同一プラットフォーム内での複数車両開発(同一機能モジュー
ルで)に携わったことがある。基本的な部品構成(点数)や要求性能は同一と
しながらも、車両重量バランスの違いにより、どの構成要素を変更させる必要
があるのか、慎重に見極めて部品設定を行う必要があった。その際には、将来
的なマイナーチェンジ時の想定重量増加も含めて車両や部品の設計や評価を行
った。

 今回の大規模モジュール化における頭出し車両においては特に、今後同一モ
ジュールが採用される他車両の条件や周辺部品状況までをも思い巡らした開発
が必要になるケースもあろう。
  
【大規模モジュール化時代に要求される設計能力】

 「大規模モジュール化」の中で今後開発されていく車両においては、既存部
品がどの(部品構成)レベルまで流用可能なのか、を適切に見極める能力が必
要となってくる。

 その為には、一つ一つの機能の深い理解が必要であると共に、自担当部品/
コンポーネント/機能モジュールが、他車両とどのような関連性を持っている
のかを、しっかりと理解しておく必要がある。

 1 つの機能部品の担当者であったとしても、大規模モジュール観点からの
「トップダウン的な」視点と、車両最適面からの「ボトムアップ的な」視点の
双方から、自部品を語れる人材がより一層求められる。

 勿論、生産台数的に大規模モジュール化までの対応を必要としないメーカー
もあろう。但しそのようなメーカーにおいても、「機能モジュール/コンポー
ネント/部品」の共通化は粛々と進められており、他車両との流用性や類似性
などについては、しっかりと掌握しておく技量が求められる。

 またグローバルに車両を展開しているような世界戦略車では、海外に開発を
任せることも多くなることが予想される。同一の「大規模モジュール」構想の
もと、各国毎の思想の違いをどのように部品に反映して差別化を図ったのか、
中央集権的に管理しておくことも非常に重要なファクターとなろう。

 T 型フォードが誕生して以来、量産車の歴史は 100年を超える。その間に産
み出されてきた様々な車両は、ターゲットの違いや様々なニーズに応えるため、
「車両最適」を合言葉に、設計思想の異なる部品群を無数に産み出してきた。

 それらをボトムアップで共通化していくというより、トップダウン的にこれ
からの自社製品はどうあるべきかを考える「大規模モジュール化」のような構
想は、台数規模や共通化レベルの違いこそあれ、どの車両メーカーにも必要な
重要な考え方であろう。

 「モデルチェンジ」ではなく、「モジュールチェンジ」という言葉が将来的
に産まれてくるかもしれない。

                                        

<川本 剛司>