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コラム

Microsoftは自動車業界でもデファクトスタンダードになれるのか?

◆米Fordと米Microsoft、車載機器用システム「Sync」を発表

デトロイトショーで公開。『Microsoft Auto』ソフトウェアをベースに構築したシステムで、iPodなどのデジタル音楽プレーヤーをUSBポート経由で接続し、音量などの調整をハンドルや声で行えるようになる。また、ブルートゥース対応の携帯電話や携帯端末と接続することもでき、将来的にはノートパソコンとの接続や、車の状態診断などの機能も盛り込まれる予定。今年中に「Focus」や「Lincoln」ブランド車など全12車種に搭載する予定。

<2007年01月09日号掲載記事>

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【車載機器用システム「Sync」の概要】

今月、米国でデトロイトモーターショーが開催されたこともあり、年明け早々に自動車メーカー各社の新型車・新技術の情報が一気に発表となった。トヨタや GM など各社がプラグインハイブリッドに代表される次世代環境技術を搭載したコンセプトカーや新型車を発表し、注目を集めている。

そんな中、少し毛色の違ったニュースがあった。Ford と Microsoft が共同開発した車載機器用システム「Sync」である。今回はこれを取り上げてみたいと思う。

この「Sync」と名づけられたシステムは、音声認識・合成技術や Bluetooth・ USB ポートを備えた車載機プラットフォームと各種機器を接続することで実現する総合情報通信・エンターテイメントシステムである。

具体的には、携帯電話と Bluetooth で接続してハンズフリー通話機能や音声認識による自動ダイヤル機能、電子メールの読み上げ機能が備わる。また、iPodなどの携帯音楽プレイヤーと接続して音楽再生が可能になる他、システム自身のプログラムもアップグレード対応可能にすることで、最新機種への対応もフォローしていくという。将来的には PDA やノート PC との接続も可能となり、車両の自己診断機能も備わるという高い拡張性が特徴として謳われているが、現時点では使用するソフトウェアやプラットフォームの詳細等は公表されていない。

Ford は、年内に投入する 08年モデル 12 車種にこのシステムを搭載すると発表している。Ford は、このシステムを 1年間独占的に販売する契約を Microsoft と締結しており、契約期間終了後、Microsoft は他社向けにも販売を開始する見込みである。

【Microsoftの自動車事業の推移】

ご存知の方も多いと思うが、Microsoft が自動車事業に参入するのは今回が初めてではない。最早 PC 市場においては絶対的なシェアを誇る同社が、次に狙うべき市場としてクルマ社会を考えるのも、当然の方向性とも思える。

同社は、PDA 用の OS 「WindowsCE」をベースに、クラリオンと車載 PC を共同開発している。1998年にクラリオンは、世界初の Windows 搭載車載機となる「AutoPC」を北米市場に投入している。当時の AutoPC は、CD プレイヤー+ラジオに、音声合成・音声認識機能も持たせて受信メールの読み上げ等も可能にした高度なものであったが、1DIN サイズであり、用途に限界もあった。その後、クラリオンは、2002年に国内市場向けの AutoPC (2DIN サイズに DVD ナビ、TV、メール、ウェブブラウザ等を搭載したもの)も投入している。当時のカーナビのハイエンド機種に相当するものであったが、競合製品よりも高かったこともあり、そこまで普及には至らなかった。

一方、同社は、日本市場向けの商品として「WindowsCE」をクルマ用に進化させた車載端末向け組み込み OS 「Windows Automotive」を自動車メーカーやカーナビメーカーに供給している。2003年に発表された「Windows Automotive 4.2」は、ユーザーインタフェースをデザインするツール等も用意し、製品の高度化に伴い、膨大な開発工数が大きな負担となっていたカーナビメーカーの開発をサポートしている。2005年には、「Windows Automotive 5.0」の提供を開始している。これについては、当時のメルマガ(↓)でも取り上げたので記憶している方もいらっしゃるかもしれない。
『Windows Automotiveに見る製品アーキテクチャ』

つまり、Microsoft の戦略は、(1)車載機本体(ハード)から(2)組み込み OS (ソフト)に移行し、そして今回、(3)拡張性を備えた車載システム(ハード+ソフト)への発展を打ち出しているということになる。

【Microsoftの事業上の戦略】

ここで、前述のように推移する Microsoft の事業上の戦略について考えてみる。

(1)車載機本体(ハード)
1998年は、国内でカーナビが右肩上がりで普及し始め、年間出荷台数も 1 百万台を超えた年にあたる。DVD カーナビが登場したのもこの頃である。国内では着実に市場を拡大していた(TV チューナーも備える)カーナビが車載エンターテイメントの中心となりつつあったが、北米においては、カーナビはまだまだ「不要」な存在と考えられていた。

そこで、北米市場において、CD+ラジオのカーオーディオの一歩先を行く存在として、メール機能等も備えた車載 PC を提唱し、市場投入したと考えられる。

しかしながら、北米では根強い PDA 人気もあったからか、もしくはクルマを運転中にそこまでするニーズがなかったからか、定かではないが、期待以上に普及せずに生産を中止することとなる。

(2)組み込みOS(ソフト)
国内カーナビ市場は 2002年に累計 10 百万台を超え、製品開発競争も激化してきた。クルマと異なり、半年程度で新製品が投入となり、ボーナス商戦ごとに、他社製品との差別化を図る性能・機能が求められるようになっていた。自動車メーカーが主体となり「G-Book」に代表されるテレマティクスサービスが本格化したのもこの頃である。

そこで、自社の強みである OS に特化し、車載端末用の組み込み OS を各メーカーに提供することで、自動車業界でのシェア拡大、将来的にはデファクト化を狙ったものであろう。組み込み OS という表に見えない製品であり、正確なシェアは不明であるが、アルパイン、パイオニア、デンソー他多数のメーカーが同社の組み込み OS を採用していると言われている。

(3)拡張性を備えた車載システム(ハード+ソフト)
一方、カーナビの普及が遅れていた米国市場でも、徐々に市場が形成されつつある。純正カーナビを標準搭載する高級車も増えてきたが、特に市場を牽引しているのが、PND (Portable Navigation Device、いわゆる携帯カーナビ)である。米国でもカーナビの利便性が着実に認知されており、価格や取り付けも手軽な PND が着実に販売台数を伸ばしている。今回のデトロイトモーターショーでも、多数のメーカーが新製品を発表しており、この勢いは当面続きそうに思われる。

PND がカーナビとしての主流となれば、国内市場のように、カーナビから音楽・動画までカバーする多機能マルチメディア端末として高性能カーナビが市場を席巻することはなくなる。つまり、その機能を補う車載機が不在の状態といえる。

一方で、iPod に代表される携帯音楽プレイヤーはここ数年で一気に普及しており、最早、iPod 対応がカーオーディオにも必須の機能となりつつある。Microsoft も iPod に対抗する Zune を市場に投入したが、先行する iPod を巻き返すのはそう簡単なことではない。

そこで、PND や iPod を前提にした車載システムとして、エアポケットとなっているハブ機能を狙ったものが、今回の「Sync」であろう。PND、iPod、そして携帯電話等、それぞれの機能を構成する商品は普及しているものの、これらを「つなぐ」機能を狙うものである。「Sync」=「Synchronize」(同期化する)という名前も、これを想像させるものとなっている。現時点において競合が不在であり、かつ普及している他社の製品の機能を補完するこの商品は、その利便性を消費者に理解させることができれば、今後シェアを拡大させることができ、デファクトスタンダードとなる可能性も秘めていると考えられる。

Microsoft は自動車業界でもデファクトスタンダードの地位を得ることができるのであろうか。まずは、年内に登場するという製品版の「Sync」の登場を楽しみに期待したい。願わくは、単に iPod や携帯電話とつながるというだけではなく、そうした先進性を十分に具現した斬新な車種自体を Ford に開発してもらい、投入してもらいたいところである。

<本條 聡>

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