複雑さを増す自動車メーカーの提携関係

『複雑さを増す自動車メーカーの提携関係』

◆米 GM、仏プジョーに 7 %出資し第 2 位株主に。 車台や部品を共通化

                         <2012年03月01日号掲載記事>

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【GMとPSAの提携】

 GM とプジョーシトロエングループ(PSA)が包括的な提携に向けて合意した
ことを発表した。両社での取り組みとして、部品の共通化や共同調達、プラッ
トフォームの共同開発などが挙げられている。

 GM 側の足元の目的は欧州事業の立て直しである。オペルのストラッケ社長は、
年間新車販売台数 100 万台規模のオペルに対し 350 万台の規模を持つ PSA と
の共同調達と、PSA が展開する自動車物流事業の活用によるコスト削減効果に
期待を寄せている。

 一方、PSA 側の目的 はグローバル展開の強化であろう。PSA は欧州域外の販
売比率を 11年の 42 %から 15年には 50 %まで高める目標を掲げている。欧
州市場の落ち込みによりリソースが逼迫する中で、GM との提携効果に期待を寄
せていると思われる。

 今回の提携は大括りで見て、地域軸を中心とした調達網や開発・生産拠点な
どのビジネス基盤の相互補完を目的としたものであり、一部 GM からの出資は
含まれるが、実質的な効果を重視した、いわゆる緩やかな提携と捉えられるだ
ろう。
  
【提携関係の全般的な傾向】

 こうした緩やかな提携が主流の時代であるが、吸収合併やマジョリティ出資
による規模追求型の合従連衡が起きるという声もある。自動車メーカーが生き
残るためには、90年代後半に 400 万台が必要と言い、現在では 800 万台が必
要と言う声である。

 たしかに、新興国を中心に今後も台数が伸長していくことを考えると、台当
たりの限界利益は低下することも想定できるし、固定費は工場投資や環境技術
開発投資などにより増加していくことも想定される。結果として損益分岐点台
数が上昇することは考えられる。

 ただ、ボーダーラインが 800 万台というのは検証の余地があると思うし、各
自動車メーカーに対して一律の台数でボーダーラインを引けるものでもないと
思う。また、「400 万台クラブ」と言われた当時から現在まで、400 万台の規
模がなくとも生き残っている自動車メーカーがあるのも事実である。

 そうした自動車メーカーに限った話しではないが、まず自社内で部品共通化
や生産拠点の再編などボーダーラインを下げる工夫・変数はある。

 加えて、OEM 供給や合弁生産など緩やかな提携であったとしても規模の経済
性を享受することは可能と考えられる。例えば、今回の GM と PSA の提携でも
規模の経済性による効果への期待が含まれていると思われる。

 規模の経済性と吸収合併やマジョリティ出資は必ずしもセットではないであ
ろう。また、規模拡大や資本関係は、それ自体が目的ではなく、実質的な効果
を求めた結果としてあるべきものではないだろうか。

 今後も、吸収合併やマジョリティ出資による自動車メーカーの再編が起きる
可能性はあるが、それは前述したように規模追求を目的としたものではなく、
実質的な効果を求めた結果としてのものであるべきだろうし、提携関係全体数
の中では、そういった再編よりも、緩やかな提携を基調として進んでいくもの
と思われる。
  
【提携戦略が重要となる】

 各自動車メーカー間での緩やかな提携は、今後、更に複雑さを増していくこ
とも考えられる。

 自動車メーカーの取り組み範囲は拡大してきており、多種のプレイヤーも登
場してきているからである。

 取り組み範囲の例を挙げれば、技術開発面では多様化する環境対応車や新興
国向け車両の開発、インフラ及びビッグデータと車両の繋がり、生産面では新
興国での拠点新設や先進国での再編、販売面では高級車から超低価格車の取り
扱いなど枚挙に暇がない。

 また、プレイヤーという面でも、従来から提携関係の主役である日米欧の自
動車メーカーに加え、韓国メーカー、中国を始めとする新興国の自動車メーカ
ー、EV 専業メーカーなども加わる可能性がある。

 更に、各自動車メーカーが複雑に絡み合う緩やかな提携関係は、時に結び直
さなければいけない事態も発生するだろう。

 今回の例でも、PSA は一時は資本提携も検討された三菱自動車を始め、トヨ
タや BMW などとも提携関係があり、GM との提携で、それらに影響がでる可能
性も報道されている。また、スズキと VW の関係でもフィアットとの関係が議
論の一つとして取り沙汰された。

 各種の取り組み課題を全て自前で対応していくのは困難であり、上記のよう
な中で、どのような提携関係を構築していくかが重要な戦略となるだろう。

 提携にあたり、その目的や取り組み内容、効果、或いはリスクを出来るだけ
具体化しておくことが必要だと考える。

 その前提として、リーダーになる領域やフォロワーになる領域など自社の事
業領域を定義することが重要になると思う。逆に言えば、自社ではやらない領
域、提携により外部を活用する領域を明確にしておくことが重要なのではない
だろうか。

<宝来(加藤) 啓>