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コラム

クリーンディーゼル車ブームは到来するのか?

『クリーンディーゼル車ブームは到来するのか?』
  
◆マツダ、「CX-5」の国内受注は目標の8倍。7割がディーゼルタイプ

 マツダは15日、新型スポーツ用多目的車(SUV)「CX-5」の国内受注台数が、2
 月16日の発売から1カ月で約8000台になったと発表した。月間販売目標(1000
 台)の8倍に当たる。受注台数のうち73%がディーゼルエンジン搭載車、27%が…

                   <2012年03月17日号掲載記事>

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【7割のユーザーがディーゼルエンジンを選択】

 先月発売となったマツダの新型 SUV 「CX-5」の受注が好調に積み上がってい
るようだ。発売後 1 カ月で、約 8 千台の受注と発表されている。「CX-5」に
は、ガソリンエンジン車とディーゼルエンジン車が存在するが、前述の 8 千台
の受注台数のうち、73 %のユーザーがディーゼルエンジン車を選択していると
いう。

 「CX-5」は、マツダが提唱する「スカイアクティブ・テクノロジー」をパワー
トレインからボディまで全面的に採用し、「フルスカイ」とも呼ばれている。
その中でも、今回初搭載となった「SKYACTIV-D」と呼ばれる 2.2L ディーゼル
エンジンの注目は高い。世界一の低圧縮比(14.0)を実現したことにより、ク
ラストップレベルの環境性能と走行性能を両立させているという。

 このディーゼルエンジン仕様は、ガソリンエンジン仕様よりも車両価格で約
50 万円高いにも関わらず、約 7 割のユーザーが選択している状況にある。

 昨今のハイブリッド車ブーム、電気自動車の登場に続き、既存のガソリン車
の中でも「第三のエコカー」として環境性能をアピールする車種も増えつつあ
る。エネルギー問題を議論する中で、水素エネルギーを活用する燃料電池車や
天然ガス車も再び注目を集めつつある。こうした次世代エネルギー車の有力な
選択肢の一つとして、クリーンディーゼル車も候補にあげられている。

 それぞれ、長所短所があり、用途・地域・ユーザーの事情に合わせて、最適
なものを使い分ける状態が、自動車業界の将来像として語られている。それぞ
れの長所を活かす環境を作っていくことが、こうした次世代エネルギー車の普
及につながると筆者も考えている。

 ハイブリッド車ブームに続き、今後、クリーンディーゼル車ブームは到来す
るのだろうか。筆者は、これらの車両が大きく普及に踏み出すために越えなけ
ればならないハードルが三つあると考えている。「コスト」「イメージ」「利
用環境」の三つである。この三つに沿って、今回のクリーンディーゼル車につ
いて考えてみたい。
  
【クリーンディーゼル車のコスト】

 まず「コスト」について考えてみる。

 現在、国産車で正規販売されている、いわゆるクリーンディーゼルエンジン
乗用車は、日産「エクストレイル」と三菱「パジェロ」ぐらいであり、今回の
「CX-5」が 3 車種目となる。3 車種とも SUV であり、同等グレードのガソリ
ンエンジン車との価格差は、約 50 万円前後である。

 現行「エクストレイル」は 2007年 8月に国内投入されたが、ディーゼルエン
ジン仕様自体は、発売後 1年過ぎた 2008年 9月に市場投入となった。この時点
では、ディーゼルエンジン仕様は MT 車しか設定がなかったが、2010年 7月の
マイナーチェンジの際に、AT 車も設定された。このマイナーチェンジ後 1 ヶ
月間で受注を約 9 千台積み上げ、そのうちの 35 %程度がディーゼルエンジン
車であったと報道されている。

 現行「パジェロ」は 2006年 10月に国内投入され、 2008年 10月からディー
ゼルエンジン仕様が設定されているが、ポスト新長期規制対応のいわゆるクリー
ンディーゼルエンジン車となったのは、2010年 9月のマイナーチェンジからで
ある。このマイナーチェンジから 1年間の販売の中でも、約 7 割がディーゼル
エンジン車を選択していると発表している。

 減税・免税・補助金で得られるメリットがディーゼルエンジン仕様の方が大
きいことや、(軽油を使うため)燃料代が安いこともあるが、それらを考慮し
てもこの 50 万円の価格差を埋めるのは簡単ではない。現在、ディーゼルエン
ジン仕様を選択しているユーザーは、単純にコストメリットだけで選択してい
るのではなく、前述のような高い環境性能や走行性能を評価して選択している
と考えられる。

 ハイブリッド車についても、過去同様の議論が問われてきた。二代目「プリ
ウス」や「シビックハイブリッド」が主流だった 2000年代中盤では、ハイブリ
ッド車は同等のガソリン車よりも約 40 万円程度高額であった。短期間・短距
離の利用ではなかなかコストメリットを見出しにくかったものの、三代目「プ
リウス」や「インサイト」が登場し、戦略的な価格付けや減税・補助金の後押
しもあり、実質的な価格差が縮まったこととハイブリッド車=環境性能に優れ
たクルマという高いイメージの確立が、空前のハイブリッド車ブームへとつな
がった。

 現時点では国内でのディーゼル乗用車の選択肢が少ないことも、今回のディー
ゼルエンジン仕様の「CX-5」人気につながっているとも考えられる。現状の価
格差、モデル数を考えれば、ブーム到来前のハイブリッド車と似たような状況
にあるとも言える。今後、このガソリン車との価格差がもう一段階縮まり、車
種ラインナップが拡充すれば、大きく普及することも期待できるはずである。
  
【クリーンディーゼル車のイメージ】

 続いて、「イメージ」について考えてみる。

 かつてのディーゼルエンジン車は、「黒煙をまきちらす」「エンジン音がう
るさい」といった悪いイメージが付きまとっていた。しかしながら、現在は、
高い環境性能を実現している上に、遮音対策も整っており、実態的にはこうし
たイメージとは異なる製品となっている。数年前にディーゼル車の黒煙問題を
大きく取り上げ、規制強化に乗り出した都知事でさえ、最近ディーゼル車の進
化を認める発言をしているぐらいである。

 国内のポスト新長期規制は、世界トップレベルの排ガス規制であり、都知事
が日本よりも排ガスがキレイだと発言した欧州よりも厳しい。その結果、国内
に投入されているクリーンディーゼル車の環境性能は世界トップレベルにある。
携わるメーカーの皆様の努力の成果として高まってきた環境性能が、市場にも
徐々に浸透し、過去の悪いイメージの払拭はできつつあるということであろう。

 一方、依然としてハイブリッド車人気は継続中ではあるが、最近その傾向に
も変化が始まっていると感じている。見た目よりも中身が問われるようになっ
てきているという点である。

 昨年 1年間の国内販売台数ランキングでも、トヨタ「プリウス」がトップで
あった。今年 1、2月では、トヨタ「プリウス」「アクア」、ホンダ「フィット」
「フリード」とハイブリッド車(及びハイブリッド仕様がある車種)が上位を
占める形となっており、エコカー減税延長・補助金復活も考えると、当面この
傾向は続きそうだ。

 かつて、ハイブリッド車は、ユーザー自身がハイブリッド車に乗っているこ
とを実感・アピールできる専用車種にしないと売れないと言われてきた。「シ
ビックハイブリッド」で苦戦していたホンダも、専用車である現行「インサイ
ト」登場により、トヨタ「プリウス」と共にハイブリッド車ブームを引き起こ
したことは記憶に新しい。

 しかし、現在、トヨタは専用車種である「プリウス」シリーズと「アクア」
で販売台数を積み上げているのに対し、ホンダは専用車種ではない「フィット」
と「フリード」にハイブリッド仕様を用意することで販売台数を伸ばしている。
ハイブリッド車が十分普及した現在、ハイブリッド車であることを実感・アピー
ルしたい先進的なユーザー層だけでなく、純粋に環境・走行性能や価格競争力
を評価してハイブリッド車を選択しているユーザー層も増えてきている、とい
うことであろう。

 新型車が投入されると、ユーザーの流れが極度に集中するのも、こうした性
能・価格面での本質が問われることになった結果、より優れた性能と魅力的な
価格をアピールする新型車を求めるニーズが大きいことによるものであろう。
環境意識が高いことをアピールする専用車ではなくても、本質的な魅力を高め
ることができれば、販売拡大につながる時代になってきたと考える。

 クリーンディーゼル車についても、専用車を一から設計する必要はなく、こ
れまで以上に性能を高め、価格を押さえたパワートレインを開発し、投入する
ことができるかが、普及のカギとなろう。
  
【クリーンディーゼル車の利用環境】

 最後に、「利用環境」について考える。

 他の次世代エネルギー車に比べ、ハイブリッド車やクリーンディーゼル車は、
既存のガソリンスタンドというインフラを活用できるというのが大きなメリッ
トとなっている。

 電気自動車や燃料電池車、もしくは天然ガス車等は、新たなインフラを整備
していく必要があり、現実的には、地域・用途を限定する形での普及を考えて
いくことになる。一方で、ガソリンを利用するハイブリッド車同様、軽油を利
用するクリーンディーゼル車は、全国 4 万拠点近く存在するガソリンスタンド
を活用できるため、利便性を担保する上でも圧倒的な優位にある。

 昨今、原油高に伴い、燃料価格も上昇傾向にあるが、中長期的に見ても、大
きく燃料代が下がることは考えにくい。燃費に優れるディーゼルエンジンの特
性も考慮すれば、ランニングコストで優位性を持つクリーンディーゼル車への
注目は更に高まる可能性も高い。

 国内については、ディーゼル比率をもう少し引き上げるべき、というのが弊
社の持論である。原油輸入国である日本は、精製後に創出される軽油が国内需
要よりも大きく、輸出している状態にある。ディーゼル車の普及比率を高め、
ガソリンから軽油へのシフトをある程度進めることで、エネルギーの最適利用
状態に近づくのではないかと考えているからである。

 これまで、利用環境面で最大のハードルとなってきたのは、前述の世界トッ
プレベルの排ガス規制である。技術的にはこれをクリアするエンジンも登場し
てきた。あとは、これをどこまでコストダウンできるか、ということが今後の
課題となろう。

 いずれにしても、クリーンディーゼル車が普及していく上で、利用環境上の
ハードルは低いことには間違いない。
  
【クリーンディーゼル車ブームは到来するのか?】

 こうして改めてみると、クリーンディーゼル車が、一定割合普及するのは時
間の問題にも思え、わずか 3 車種にしか投入されていないのが不思議なぐらい
である。

 新たなパワートレインの開発には、膨大なリソースが求められる。例えば、
各社、ハイブリッド車のラインナップを拡充すれば、販売拡大につながること
は当然理解している。しかしながら、逼迫するリソースの問題から、やみくも
に自前で手出しできない状況もあり、他社との技術提携も含めて、対応を進め
ているのが現状であろう。

 ディーゼルエンジン車についても同様である。特に、日本車が苦戦している
欧州市場での展開を考えれば、ディーゼルエンジン車のラインナップを拡充す
ることによる販売拡大の効果は少なくない。

 そうした背景から、各社が改めてディーゼルエンジン車の準備を進めている。
トヨタは BMW と提携し、同社のディーゼルエンジンを搭載した車両を 2014年
から欧州市場に投入するという。ホンダも、新型 1.6L ディーゼルエンジンを
搭載した「シビック」を欧州市場向けモデルとして 2012年中に生産開始する予
定だという。

 前述のクリーンディーゼル車 3 車種も、個別の車種ラインナップとしては一
定割合の販売台数を確保できるかもしれないが、エンジンラインナップという
観点で見れば、搭載車種が 1 車種ではなかなか採算には乗せにくいのが正直な
ところだと思う。欧州市場等への展開も見据え、対象エンジンを搭載するライ
ンナップを拡充し、販売台数を確保していく必要があろう。

 現在、クリーンディーゼル車は、5、6年前、ブーム到来前のハイブリッド車
と同じような状況にある。あと一歩を踏み出し、大きく普及に進むことを期待
したい。

<本條 聡>

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