レアメタル代替技術の必要性

◆経産省、希少金属(レアメタル)代替品、官民で開発へ

7月にも非鉄金属メーカーなどと開発を始め、5年後の実用化を目指す。液晶テレビの材料に使われるインジウムや、超硬工具を作るタングステン、パソコンのハードディスクのモーターに使われるジスプロシウムなどの代替品。

高性能コンピューターでレアメタルの原子配列を解析して似た材料を探したり、強度を増したセラミックスで代替を目指す。

<2007年03月11日号掲載記事>

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【はじめに】

ご承知の通り、自動車を構成する原材料の中で、最も多いのは、鉄、銅、アルミなどの金属である。しかし、これらの金属は、鉄(Fe)、銅(Cu)、アルミ(Al)などの単一の金属元素からなる純金属として使用されることはほとんどなく、様々な元素と混ぜ合わせた合金の状態で使用されている。複数の金属元素を添加・混入することで、その特性を変えることができるため、用途に応じて最適な(※)合金を使用している。

※鋼に代表される合金には無数の種類があり、現時点で採用されているものが、より良い材料ではあっても、最高の材料かどうかは断言できないのが実態である。従って、技術開発による改善の可能性は無限にあるとも言える。

この合金を生産する上で、重要となるのが、レアメタル(希少金属)である。レアメタルとは、「地球上にその存在が稀であるか、又はその抽出が経済的・物理的に非常に困難な金属」(出典:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構ホームページ)と定義されている。具体的には、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)等がこれにあたる。自動車の原材料としても多く使われているステンレス鋼や高張力鋼も、鉄にこれらのレアメタルを混合・添加して作られている。つまり、自動車にとっても、レアメタルは重要な原材料の一つであると言える。

【レアメタルの備蓄制度】

昨今の資源価格高騰に伴い、こうしたレアメタルの価格相場も高騰している。技術の高度化が進む中、レアメタルの重要性も増してきている一方で、資源が少ない日本では、レアメタルもほとんど輸入に依存しているのが実態である。

こうした安定供給に対するリスクを軽減するために、石油同様、レアメタルも国家として備蓄制度が施行されている。ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、タングステン(W)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)の 7 種類については、国内基準消費量の 60日分が備蓄されている。この備蓄量の 7 割については前述の独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、残り 3 割については各民間企業が備蓄することとなっている。(※)備蓄自体は、茨城県高萩市にある国家備蓄倉庫で一元管理を行っており、緊急事態発生に伴う不足時や市場価格が急騰した時などに、必要に応じて売却を行っている。

※実際には、財政状況、供給リスク、経済リスク等も踏まえ、各金属とも 21~35日分程度の備蓄となっている。

【拡大するレアメタルの需要】

近年、技術の進化に伴い、需要が高まるレアメタルも多様化している。特に需要が急速に拡大しているのが、IT・電子系部品に使用されるレアメタルである。具体的には、液晶ディスプレイ(LCD)の導電膜に使用されるインジウム(In)、二次電池の電極・電解質に使用されるリチウム(Li)、発光ダイオード(LED)に使用されるガリウム(Ga)、高性能モーターの永久磁石に使用されるネオジム(Nd)等の希土類などである。

こうしたレアメタルは、自動車部品の原料として使われているものも少なくない。点火プラグに使用される白金(Pt)やイリジウム(Ir)、排ガス浄化のための触媒として使用される白金(Pt)、パラジウム(Pd)やロジウム(Rh)などがその代表例である。また、電子化・電動化の進展に伴い、前述のような電子系部品の搭載率も高まっている。特にハイブリッド車には、高性能駆動モーター、二次電池が搭載さており、こうしたレアメタルの使用量も多いと考えられる。将来的に普及が期待される燃料電池車についても、燃料電池の触媒に使用される白金(Pt)がコストダウンを難しくしている要因の一つと言われている。

これだけ多数の自動車部品にレアメタルが使用されているということは、これらのレアメタルの供給を確保できないと、自動車を製造できなくなるリスクを負っているということである。世界的に自動車市場は拡大を続けており、その需要がさらに逼迫する懸念が強まっている。

【レアメタル代替技術の必要性】

レアメタルの需要をほとんど輸入に頼っている日本において、レアメタルの使用量を削減できる技術やその機能を代替する技術の重要性は高まっている。供給リスクの低減や、省資源化による環境負荷の軽減に加え、製品のコスト低減につながる可能性もある。経済産業省の方針として、こうしたレアメタル代替技術の開発を推進することを打ち出したことの意義は大きい。

実際、民間企業の中では、こうしたレアメタル代替技術の開発が始まっている。化学品メーカーである東ソーは、液晶ディスプレイ(LCD)の導電膜に使用されるインジウム(In)の代わりに亜鉛を使用する代替技術の開発を進めているという。また、高性能モーターのネオジム磁石に使われるジスプロシウム(Dy)などの希土類の添加物を削減する技術を開発しているベンチャー企業もある。

自動車メーカーでも、こうした技術開発に取り組む事例がある。以前、このメールマガジンでも紹介した、ダイハツのスーパーインテリジェント触媒は、排ガス浄化用の触媒に使用されるパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)に自己再生機能を持たせることで、使用量の削減を実現している。この技術は、共同開発のパートナーである北興化学によって、医薬品・化学品分野にも展開されている。

『インテリジェント触媒から学ぶ「技術の流動性」』

自動車業界で環境問題対策というと、大気汚染防止、CO2 排出量削減による地球温暖化防止や、化石燃料資源の使用量削減に注目が集まりがちである。しかし、自動車業界が持続的に成長を続けるためには、こうしたレアメタルの使用量削減も大きな環境問題対策のテーマとして、改めて認識する必要がある。そのためにも、レアメタルを代替する新技術の開発に積極的に取り組むべきではなかろうか。

<本條 聡>