地球に優しいエアコン

◆独ボッシュ、車室内のCO2濃度を測る空調制御センサを開発したと発表

「CCS (Climate Control Sensor)」は、赤外線分光器で空中のCO2濃度を測り、0.02%以下の濃度でも測定できる。エアコン冷房時に、外気を冷やして室内に送るより室内気を循環させるほうが効率よく温度まで下げられ、車内の空気を良好に保ちながら、最大で燃費を10%程度低減できるという。

<2007年04月01日号掲載記事>

◆米デュポンと米ハネウェル、自動車エアコン向けに次世代冷媒を共同開発へ

地球温暖化係数(GWP)の低い次世代の冷媒を製品化する為、世界規模の共同開発契約に合意したと発表。各社で開発が進むCO2ベースでなく、従来のHFC-134aを使う技術と互換性があるフッ素系冷媒の開発に力を注ぐ。

<2007年04月02日号掲載記事>

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【はじめに】

現在の国内自動車市場において、カーエアコンは、必須の快適装備となっている。かつては「エアコン付き」とアピールポイントになっていた時代もあったが、現在では、カーエアコンが付いていないクルマを探す方が難しいぐらいである。実際、国内のカーエアコンの出荷台数は約 10 百万台であり、国内の自動車生産台数とほぼ同じ規模である。

最近の主流は、車外温度、室内温度、日射量などを検知し、空調温度、風量配分を巧みに制御し、乗員が設定した温度に車室内を保持するオートエアコンである。高級車やミニバン等には、運転席側と助手席側、前席側と後部座席側で独立して温度設定ができるタイプのエアコンの採用も増えている。

昨年発売となったレクサス LS460 では、乗員自身の表面温度を赤外線センサで検知し、それぞれの乗員の状態に合わせて自動的に空調温度、風量を調節する機能が搭載(※)されている。電子化技術の高度化に伴い、カーエアコンの分野にも新技術が導入されており、機能・性能の進化により快適性は確実に向上し続けている。

※一部の海外仕様車のみに搭載されており、国内仕様車には搭載されていない。

普段クルマを使用する際に意識されている方がどれぐらいいるか不明だが、この快適装備の恩恵を受けるために、払っている環境負荷は意外に大きい。その要因の一つは燃費に対する負荷、もう一つはエアコンの冷媒自体の地球温暖化に対する影響である。

今回のコラムでは、カーエアコンに関する技術開発の動向とその意義について考えてみたい。

【省燃費に関する技術開発】

まず、燃費に対する負荷についてであるが、文字通り、カーエアコンを稼動させると、燃費が悪化してしまうということである。

いわゆる 10 ・ 15 モードに基づくカタログ燃費と実際の走行時の燃費との値の乖離は、走り方(アクセルの踏み方等)や平均車速、走行距離など様々な条件によって生じるが、その中でもエアコンのオン/オフは大きな要因の一つとなっている。夏場の燃費が悪化するのもエアコンの影響が大きいと言われている。

その原因は、冷媒の吸引・圧縮を行うコンプレッサによる負荷が大きい。一般的に、カーエアコンのコンプレッサは、エンジンの動力によって駆動しているため、エアコンを作動させるためには、エアコンをオフにした状態よりもエンジン回転数を高める必要があるからである。特に排気量の小さいクルマでは燃費の悪化や出力の低下を招きやすい。

最近では、コンプレッサの稼動頻度を最低限に下げる制御技術や、バルブ等を制御することによってコンプレッサ自体の容量を連続的に変化させることで必要最低限の負荷にする制御技術が実用化されている。

また、エンジンを動力源としないコンプレッサも実用化が進められている。2003年に発売となったトヨタプリウスには、モーターによって駆動する電動コンプレッサが搭載され、注目を集めた。これにより、アイドリングストップ時(エンジン停止時)にもエアコンの作動を可能にした。内蔵モーターを駆動するインバータも一体化することで、既存の電動コンプレッサよりも大幅に小型・軽量化を実現している。

省燃費に対するエアコン技術開発は、コンプレッサだけに限られたものではない。今回ボッシュが発表した技術は、車室内の CO2 濃度を検知し、車室内の空気を良好な状態に保ちながら、可能な限り内気循環に切り替えることで、エアコンに必要なエネルギー量を低減し、コンプレッサの駆動を低下させることで、燃費向上を実現するというものである。同社の実験によると、最大 10 %の燃料消費量の削減が確認されたという。

エアコン自体が燃費に大きな負荷を与える存在であることは明白であり、環境問題への注目が高まる昨今、エアコン周りの省燃費化技術の開発意義は重要性を増している。

【冷媒に関する技術開発】

カーエアコンが抱えるもう一つの環境負荷は、冷媒の存在である。1990年代以降、オゾン層破壊が問題となった特定フロン(CFC-12)から世界的なエアコン用冷媒の転換が進み、現在では代替フロン(HFC-134a)が主流となっている。しかし、この代替フロンも、地球温暖化に対する影響が大きいことがわかっており、現在、代替技術の確立が求められている。

地球温暖化係数(※)を見ると、特定フロンは 8,100、代替フロンでは 1,300である。これを、地球温暖化係数が低い冷媒、自然界に存在する冷媒(自然冷媒)で代替することができれば、より環境に優しいエアコン(クルマ)を実現することができるというわけである。

※地球温暖化に対する効果を示す相対的な指標。
(CO2 を 1 として、その何倍かを示す。)

現在、その代替冷媒として最も有力視されているのが、CO2 である。地球温暖化係数が低く(1 である)オゾン層も破壊しない、不燃性ガスで無害のため安全性も高い、冷媒としての性能に優れる、化学工場等で二次的に発生するものを利用可能、などの特徴から、CO2 エアコンの開発が進められてきた。

単に冷媒を置き換えるだけではすまない。フロン系の冷媒は、10 気圧程度で気化・液化を繰り返して冷暖房を行うが、CO2 の場合、100 気圧に圧縮して温度を上げたり、急速に減圧して温度を下げたりするため、各構成部品はこの高圧に耐えられるものである必要があるからである。家庭用のヒートポンプ式給湯器の世界では既に実用化されているが、カーエアコンにおいて実用化するためには、使用環境・重量・コストの面でも制約が多く、ハードルは高い。

しかし、既にデンソーは、2003年に CO2 を冷媒にしたカーエアコンを実用化し、トヨタの燃料電池自動車 FCHV に搭載している。今後、更なる性能向上やコスト・重量の削減を進め、量産車への実用化が期待されている。

こうした中、今回の米デュポンと米ハネウェルの取り組みは、冷媒自体の開発という別のアプローチを進めているものである。現在普及している代替フロン(HFC-134a)と互換性のあるフッ素系冷媒を開発するというものである。新たな機器やシステムの構築を最低限に留めることで、実現性の高い代替技術を普及させていくという。

将来的には、地球温暖化係数の低い冷媒の使用を義務付ける法規制が欧州で施行されるという話もある。こうした流れが世界的に拡大する可能性も十分にある。こうした冷媒に関する技術開発に、時間的な余裕は少ない。

【地球に優しいエアコンの登場を期待して】

こうしたカーエアコンの技術開発において、今後鍵を握ると考えられるのが、異業種からの技術導入ではなかろうか。省燃費技術の開発や代替冷媒技術の開発において、自動車メーカーや関連部品メーカーの開発はかなり進められており、実用化の目途が立ちつつある技術も多い。そこに、新たなセンサ・制御技術や耐圧・封止技術、新材料技術などが加わることで、実用化が加速するものも少なくないのではなかろうか。

エアコン市場全体において、カーエアコン市場は一つの巨大なマーケットとなっている。しかし、近年住宅・ビル用のエアコンも市場を拡大させており、アジアだけでも年間 30 百万台を超える規模となっている。エアコンに関する環境技術の開発は、自動車業界だけの問題ではなく、社会全体としても存在感を増しているはずである。つまり、エアコン関連の新技術に成功すれば、それだけの巨大市場への展開が期待できる可能性があるとも言える。

だからこそ、自動車業界単独の取り組みではなく、電気、機械、化学品、建築など様々な分野の技術を結集して、地球に優しいエアコンの開発に取り組むべきだと考える。

もっとも、ユーザーにおいては、指をくわえて地球に優しいエアコンの開発を待っていれば良いというわけではない。京都議定書以降、地球温暖化対策については、国民の認知度も高まっており、家庭・オフィスではエアコンの温度設定を制限する文化も広がりつつあるが、こうした取り組みは、強制力を持ったものではなく、個人・企業側の自主性に委ねられているからである。

エアコンのないクルマに戻れない現在、エアコンの使用頻度を下げ、窓を開けて走ってみたり、設定温度を緩めに調節するのも有効であろう。こうしたちょっとした気遣いをしながら、地球に優しいエアコン技術の登場を期待したい。

<本條 聡>