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コラム

LS600hにみるトヨタ型新技術開発

◆「自動車技術展 人とくるまのテクノロジー展2007」、パシフィコ横浜で開催

自動車技術会の主催で、ことしは過去最多の388社が出展。24日16時15分からは、豊田章一郎トヨタ名誉会長の特別講演「ものつくり・人つくり」も。

<2007年05月23日号掲載記事>

◆小糸製作所が実用化した「LEDヘッドランプ」、開発には多くの苦労

<2007年05月22日号掲載記事>

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【今年の「人とくるまのテクノロジー展」】

先週、パシフィコ横浜にて、「人とくるまのテクノロジー展」が開催された。今年で 16 回目を迎えるこの展示会は、自動車に搭載される部品や素材、測定・解析設備等の最新技術を展示しており、毎年自動車業界関係者を中心に賑わっている。388 社(昨年比 10 %増)が出展した今年、3日間で 65 千人(同 13%増)が来場したという。読者の方でも足を運ばれた方が多数いらっしゃるのではないかと思う。

自動車メーカーを中心に、いくつかのブースでは自動車そのものも展示されていたが、この展示会の主役は自動車部品である。大小多数の部品メーカーが、最近実用化した新技術を中心に、デモンストレーションも交えながら自社商品を紹介しており、業界の技術動向を把握する上でも有効な機会である。

今回の展示の中で、目に付いたことの一つは、トヨタの大きな影響力である。トヨタ自身のブースは、高性能なシミュレータ、LS460 に搭載する V8 エンジン、プリクラッシュセーフティ技術を盛り込んだシートとシンプルな内容であった。しかし、各部品メーカーのブースには、トヨタに採用された部品が多数展示されており、中でも今月発売となったレクサス LS600h に搭載されている先進技術に関する展示を数多く見かけた。レクサスの国内投入からもうすぐ 2年が経とうとする中、トヨタが満を持して投入したフラッグシップモデル LS600hには、多数の先進技術が搭載されており、そうした技術が至るところで注目を集めていた。

今回は、この LS600h に搭載されている新技術から、トヨタの技術開発の進め方を推察してみたい。

【LS600hの開発にあたって】

V8 エンジンとフルタイム AWD システムを組み合せた世界初のハイブリッドシステムを搭載する LS600h は、レクサスのフラッグシップにふさわしい走行性能と環境性能を両立し、高級車の世界に「新たな価値観」を提示する、と謳われている。新開発の V8、5.0L エンジンに高出力モーターを組み合せることで、6L 車に匹敵する動力性能と 3L 車クラスの環境性能を実現する、というこのクルマの開発への意気込みは相当であったことが伺える。

高級車の「新たな価値観」を実現するために、装備面でもコストに糸目をつけない(?)ような新技術が搭載されている。例えば、世界一の明るさを実現していると言われる世界初の LED ヘッドランプや、最高のおもてなしを提供する独立式のリアシート、乗員の衣服やシートの温度を検知して最適な室内環境を提供するエアコンなどである。

しかし、こうした革新的な技術も、突然投入に踏み切ったわけではなく、緻密な計算に基づき、入念な開発と熟成期間を経て、今回の実用化に至ったものと考えられる。

【世界初の明るさを実現する】

まず、LED ヘッドランプであるが、このコンセプト自体は既にモーターショーなどでもお馴染みであり、世界初というほどの目新しさを感じないかもしれない。しかし、横一線に並べたような先進的な LED ヘッドランプを持つコンセプトカーをモーターショーに出展するのと、輝度、寿命等の性能を十分に確保して実際に市場投入するのでは、大きな隔たりがあるのではないかと考える。

今回の LS600h の LED ヘッドライトは、小糸製作所が開発し、供給している。LED 素子は、日亜化学工業と共同開発したものを採用しているが、小糸と日亜の両社が共同開発に向けて協議を始めたのは 5年前だという。それだけ、技術開発に熟成を重ねて、市場に投入しているということである。

通常、LED の色温度は 6,000~ 8,000K 程度が最も効率が高いというが、今回の LED は、運転者の目の疲れを考慮し、発光効率は 2~ 3 割程度犠牲にしながらも、4,300K 程度にまで色温度を落としているという。

LED 素子の開発だけではない。既存の HID に対抗する光束を得るために、片側 18個の LED 素子を使用しており、新機構の三連高効率プロジェクタとあわせて最適な配置を計算している。熱で劣化する LED を保護するために、ヒートシンクの開発にも工夫をこらしている。

こうして実現したのが、今回の LED ヘッドライトである。開発現場の苦労も相当のものであったと思われる。世界初を実現するというのは、まさにこういうことを求められるのであろう。

【最適な車室環境を提供する】

もう一つ例を挙げたい。最高級グレードに設定されている、独立式のリアシートである。ゆとりのリクライニング角やオットマンを備えた飛行機のファーストクラスのようなこのシートには、マッサージ機能、冷蔵庫、専用 DVD &ディスプレイも搭載されており、まさに最高のおもてなしを実現している。その中でも、最適な車室環境を提供するエアコンに注目したい。

シート内のファンを通じて、シート表面から暖気・冷気を送るなどの機能もあるが、注目したいのは、IR マトリックスセンサーと呼ばれる温度検知装置である。遠赤外線を利用し、乗員の衣服やシートの温度を検知することで、最適な空調制御を行うというものである。車両天井部に設置されたセンサーが、後部座席の二人の上半身・下半身と、基準点となる中央スペースの上下の 6 ヶ所の温度を測定するという。

デンソーが開発したこの IR センサをトヨタが搭載したのは、この LS600h が初めてではない。既に 2003年 5月に発売したラウムで実用化していたものを、測定点を増やすなどの改良を加えたものである。つまり、最初に実用化してから、今回の導入までに 4年かけているということになる。

【トヨタ型新技術開発】

自動車という製品の特性上、新技術の開発には入念な試験評価と改善が必須であることは間違いない。しかし、どこまで改善させてから投入するかは、各社の判断に依るところが大きい。少なくても、LED ヘッドランプと IR マトリックスセンサー付エアコンという二つの新技術の事例を見る限り、トヨタが興味を持った新技術をすぐに導入するのではなく、長い期間をかけて改善を重ね、熟成した上で投入していることが伺える。その長期に渡る技術開発を、小糸製作所やデンソーを始めとする系列サプライヤと連携して進めることで実現しているのである。

これだけに限らない。今回の LS600h のハイブリッドシステムも、それ自体は世界初のものであることは間違いないが、基幹となるハイブリッド技術自体は初代プリウスの投入から 10年かけて改善を重ねてきたものである。このシステム自体は昨年 3月に投入した GS450h で実用化した乗用車用 FR ハイブリッドシステムをベースに進化を加え、AWD 機構に仕立てたものである。勿論、ただ AWD 機構を加えただけではない。モーターの高出力化、パワーコントロールユニットの大電力化など、様々な改良を加えた上で今回のシステムが実現している。

ここから、突発的に飛躍した技術開発を行っているというわけではなく、既に確立した技術を着実に進化させていくことで、新しい技術を実現していくというトヨタの開発姿勢が伺える。王道ではあるものの、車種ラインナップが充実しており、常時新型車を投入する計画があるトヨタだからこそ実現できる形かもしれない。勿論、そうした背景には、系列サプライヤの絶え間ない努力があることを忘れてはならない。

他のメーカーからすれば、「そんな手があったのか!」と驚きを与えるようなものは少ないかもしれない。「トヨタなら、そうするだろうね。」と思わせると同時に、「わかっているけど、なかなかできないよね。」と思わせる技術開発がトヨタの強みなのではないだろうか。こうした観点からすれば、今回のLS600h は、トヨタ型新技術開発の究極の形を具現化したものだと考えられる。

<本條 聡>

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