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コラム

エンジン部品で勝ち残るためには

◆トヨタの「バルブマチック」、低コスト化に成功

同様の技術は、独BMWが2002年に実用化しているが、トヨタは独自の制御部品を組み込むなど大幅に小型・低コスト化に成功。排気量やボディーサイズの大小を問わず、すべての車種のガソリンエンジンに搭載可能とした。

<2007年06月13日号掲載記事>

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【エンジン開発の重要性】

今月、ドイツ・ハイリンゲンダムで開催されたサミットでも大きな議題となった地球温暖化問題であるが、自動車業界でも、その対応に向けた技術開発が活発化している。「ポスト京都議定書」の合意にはまだ時間がかかりそうであるが、自動車業界における燃費規制は、既に待ったなしの状況になりつつある。

欧州では、2012年までに車両 1台あたりの CO2 排出量をメーカー平均で 130g/km に押さえる(現在の各メーカーの実力値は約 160g/km 前後)方針が発表されている。日本で導入されることになっている 2015年度新燃費基準では、2004年度の実績値と比べ 23.5 %の燃費向上や、JC08 モードと呼ばれる(現在の 10 ・ 15 モードよりも実燃費に近い=厳しい)新燃費試験モードなどが定められている。こうした規制は、あくまでも 2050年の CO2 排出量を 7~ 8 割削減するという長期的な目標に向けた第一歩であり、今後も燃費規制の強化とその対応を継続して取り組むことが求められている。

そうした状況を受け、燃費改善に関する技術開発が活発化している。今月だけでも日本が世界的にリードするハイブリッド技術だけでなく、欧州メーカーの先行を許しているディーゼルエンジン技術に関する取り組みも多数発表されている。

トヨタは、低公害型ディーゼルエンジンの生産をいすゞに委託し、いすゞが新設する工場で、2012年を目途に年産 20 万基のエンジンを生産し、欧州向け小型車に搭載することを発表した。また、昨年ガソリン車と同等レベルの米国排出ガス規制に対応する低公害型ディーゼルエンジンの開発を発表していたホンダは、当該エンジンを搭載する乗用車を 2009年を目途に国内市場に投入することを発表した。

しかし、世の中の全てのクルマをハイブリッド車やディーゼルエンジンにするには、技術的な観点からもコスト的な観点からも、課題は多く残る。そこで、ガソリンエンジンに関する燃費改善技術も、実効性の高い技術として重要になってくる。

ガソリンエンジンに関する燃費改善技術は、最近になって取り組み始めたものではなく、自動車の歴史の中で着実に進化が進んできたものであると言える。実際、1993年には、日本のガソリン乗用車の平均燃費は 12.4km/L であったが、2004年には 15.4km/L に伸びている。つまり、国内で販売されているガソリン車の燃費は 10年で 2 割以上改善していることになる。勿論、この燃費改善は、エンジン技術によるものだけでなく、駆動系の改良や電子化の進展など車両トータルでの取り組みで実現されているものである。しかし、エンジン技術の改善が最も大きな効果を果たしているものの一つであることは間違いないだろう。

【エンジン開発の難しさ】

近年、燃費向上に寄与するエンジン技術として、ピストンやピストンリングの摩擦低減、可変バルブタイミング機構などの導入が積極的に進められてきた。加え、今回のニュースにある可変バルブリフト機構や直噴筒内噴射、アイドリングストップ機構、ターボチャージャー等の過給機構の採用も広がりつつある。

こうした新技術の導入判断は、経営判断そのものとも言えるかもしれない。どのエンジンにどの技術を導入し、コストや重量を勘案して最終的に得られる出力性能と燃費性能のバランスを求めるエンジン開発は、どの市場にどの商品を投入し、製造原価や販管費を勘案して最終的に得られる収益性と社会貢献性のバランスを求める経営と類似する点も多いと考える。技術的に可能なことは大量にあっても、実際に投入できるかどうかは、別次元の判断が求められており、ここに一つの壁があるのではないかと考える。

したがって、経営にも効率性が求められるのと同様に、エンジン開発にも生産性・実効性が問われるのではなかろうか。つまり、いかにコストや重量の増加を出来る限り抑えた形で、出力・燃費性能を向上させられるかが重要となる。

例えば、可変バルブリフト機構であるが、既に BMW は 2001年から「バルブトロニック」として実用化してきており、現在では、PSA グループと共同開発した 1.6L エンジンにも搭載し、BMW Mini や Peugeot207 などの小型車にも採用を拡大させている。これまでの開発の過程で、技術的な問題もクリアしながら、生産規模を拡大することで低コスト化を進めてきたのであろう。今年、日産も次期スカイラインクーペに「VVEL」として同様の機構を搭載予定だといわれている。V6-3.5L エンジンが対象となること、レスポンスの向上を謳っていることも考慮すれば、コスト面での熟成はこれからなのかもしれない。

一方、今回のニュースの通り、トヨタが開発した「バルブマチック」は、独自の制御技術により、他社よりも小型化・低コストを進めたものとなっており、近々発売予定の新型車に搭載し、順次採用を拡大するという。トヨタとしては、前述の生産性・実効性にも注力した上で汎用性が高い 2L クラスから投入という方針が伺え、トヨタがそれに見合う技術開発を重ねていることが想像できる。

【エンジン部品メーカーへの影響】

こうした高度化する技術要件に伴い、エンジンの開発リソースは確実に増大している。自動車メーカーとしても、開発リソースの効率的な配分のために、エンジンの共通化や相互供給なども活発化している。海外自動車メーカーの間でも、系列内での共同開発や相互供給だけではなく、系列外でも活発化しつつある。

燃費規制や排ガス規制が強化されていく中、こうした傾向はさらに加速すると考えられ、エンジン自体の生産規模は着実に増大する傾向にある。電子制御の高度化に伴い、同じハードでも制御ソフトを変えることで特性を変えることが可能になっており、こうした傾向がさらに加速しているとも考えられる。VWや BMW は、既に同じハードのエンジンで、制御ソフトを入れ替えることで、出力特性を変え、幅広いグレードをカバーする施策を実行している。

エンジン部品メーカーの立場から考えると、このことは大きな岐路になる可能性を秘めている。車両自体のモジュール化以上に、一つの部品の生産規模や採用車種数が拡大する可能性があるからである。

自動車メーカーの開発リソース不足の支援や、出力・燃費性能向上に寄与する新技術の提案ができれば、採用が拡大する可能性があると同時に、開発の主体を自動車メーカーに依存し、指定された部品を製造・供給しているだけでは、新たな技術を持ち込む他社にビジネスをごっそりと持っていかれてしまう可能性もあるからである。エンジン部品分野においては、サプライヤ間の格差が広がる傾向にあることは間違いないだろう。

【エンジン部品で勝ち残るためには】

では、エンジン部品メーカーは、どうすればこの機会を活かし、勝ち組となることができるのであろうか。

公表されている内容からの推論ではあるが、今回のトヨタの「バルブマチック」の場合、これまでの連続可変バルブタイミング機構に追加する形で、バルブのリフト量を調整するためにアクチュエータやシャフトが追加されている。こういった新たな部品技術や、高度化する電子制御ソフトを開発する上で、当然部品メーカーも参画し、低コスト・省スペースで最大限の性能を発揮させるための工夫を提案していると思われる。そうすることで、追加となる部品のコスト・重量以上の性能向上を生み出せれば、今回の 1 モデルだけではなく、今後の適用車種拡大も期待できるからである。

今後 10年で、HCCI (予混合圧縮自己着火)エンジン、可変圧縮比制御機構、電磁バルブ機構などの新技術の実用化が期待されている。勿論、それ以外にも、電子技術や素材技術の高度化などにより、現時点でアイデアも出ていない技術も実用化される可能性もある。これらの新技術を積極的に研究し、提案することで、ビジネスの維持拡大を目指すことが、勝ち残るために求められるのではなかろうか。

<本條 聡>

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