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コラム

新・業界ニュース温故知新 『震災後の業界の姿はどうなる』

 過去の自動車業界のニュースを振り返り、新たな気づきの機会として紹介し
ていたこのコーナーですが、新たな形態にリニューアルします。

 過去の記事で取り上げた内容を振り返り、現在の自動車業界と照らし合わせ、
新たな視点で見直していきます。

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『震災後の業界の姿はどうなる』

【参照記事】

『金融危機後の業界の姿はどうなる』

◆日産、主力車「マーチ」生産をタイに全面移管

                              <日本経済新聞2009年01月16日号掲載記事>

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【参照記事の概要】

 当時、自動車業界はリーマンショック後の世界同時不況の渦中にあった。需
給バランスの調整や人員削減など短期的な対策を進める一方で、中長期的な観
点では、金融危機以前から認識されていた課題は引き続き存在し、その対応が
早期化される可能性も考えられた。

 製品面の課題は環境対応車の導入である。石油資源の問題は金融危機以前か
ら早期の対応が求められており、各自動車メーカーは経営が悪化していた当時
の環境下でも、環境技術への開発投資は維持することを表明していた。

 事業構造面では世界最適生産体制の構築である。当時、業績悪化の主要因の
一つとして、積極的な海外展開により、固定費が増加し損益分岐点が上昇した
ことが挙げられていた。それを受け、各自動車メーカーは海外設備投資の凍結、
もしくは延期を相次いで発表すると共に、工場の閉鎖といった固定費の削減策
も検討されていた。

 また、金融危機以前に継続してきた円安傾向が円高傾向に転換した時期であ
り、国内と海外での生産のすみ分け、及び国内生産の役割をより明確にするこ
とも求められた。

 人材面では、特に日本においては、マザーカントリーとして新しい技術、製
品、工法の発信基地という役割が更に鮮明になり、新しいものを生み出す独創
性のある人材、新しいものに対して柔軟な姿勢を持つ人材、新しいものを世界
に伝えられる伝達力のある人材が求められるのではないかと考えられた。

(参照記事のコラムはこちら)
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=1455
  
【金融危機後から現在までの動向】

 製品面では、金融危機以前から導入されていたハイブリッド車の普及が加速
し、電気自動車や低燃費ガソリン車など様々なタイプの環境対応車の導入も進
んでいる。

 国内では、「プリウス」が 10年の車名別新車販売台数で過去最多だった「カ
ローラ」を抜き歴代トップになるなど、ハイブリッド車ブームと言われる程で
ある。電気自動車も国内保有台数が 1 万台を超え、低燃費ガソリン車も「デミ
オ 13-SKYACTIV」など導入が始まっている。今後も、市場や地域、用途によっ
て環境対応車の多様化が進んでいくと思われる。

 製品面の変化としてもう一つ挙げたいのが、低価格車の導入である。トヨタ
の「エティオス」やホンダの「ブリオ」など各自動車メーカーは新興国向けの
車種を拡充しつつある。

 また、日産の「ダットサン」や「ヴェヌーシア」、ホンダの「理念」など低
価格車ブランドを立ち上げる動きもある。自動車の品質基準や販売品質、価格
政策など従来とは異なるブランド・マネジメントが求められるだろう。

 事業構造面では、海外投資は増加傾向にあり、需要の新興国シフトに伴い、
海外の中でも新興国への投資が増加している。例えば、日産がロシアのアフト
ワズを買収したりブラジルに新工場を建設したりと各自動車メーカーの動きが
活発になっている。

 一方で、国内生産は「六重苦」とも言われる状況で、更なる合理化に向けた
活動が行われている。トヨタでは、トヨタ車体と関東自動車を完全子会社化し、
関東自動車についてはセントラル自動車とトヨタ自動車東北と合併するといっ
た、国内生産体制の大規模な再編も発表している。

 世界最適生産体制の構築は、まだ途上であり、国内空洞化問題との兼ね合い
を取りながら国内と海外生産のすみ分けや、海外生産の中でも新興国シフトは
検討が進むであろう。
  
【東日本大震災の影響】

 加えて、東日本大震災により顕在化した事業構造面の課題として、リスク対
応力の強化が挙げられる。

 サプライチェーンに関しては、設計面で経済産業省主導で自動車メーカーの
枠を超えた部品共通化の検討などが進んでおり、調達面で供給網全体の可視化
や生産拠点の分散などの取り組みが進んでいくと思われる。

 一方で、リスク管理を優先しすぎると、コストや性能・機能に関する競争力
の低下を招きかねない。リスク管理と競争力確保の両立が求められている。

 そのためには、部品共通化や供給網全体の可視化といった対応を全ての部品
に対して一様に行うのは現実的ではないだろう。生産拠点の分散に関しても、
東京大学ものづくり経営研究センターが提唱している「仮想的なデュアル・ソー
シング(常時から複数拠点で生産するのではなく、不測の事態が起きた時に別
の工場でも生産できるように準備しておく)」が進んでいく可能性も考えられ
る。

 異業種であるが例えば富士通は、設計面では、専用品の搭載率を下げ、調達
先の分散を容易にするため、従来より早い段階から調達部門が関わるようにす
る。調達面では、汎用部品は調達先の分散を徹底する、専用部品は調達先に BCM
(事業継続マネジメント)の強化を促す、これらでは対応できない部品は適切
な量の在庫を持つようにするといった方針を打ち出している(日経エレクトロ
ニクス 2011年 8月 22日号)。こうした他業界の事例が参考になることもある
のではないだろうか。

 東日本大震災が与えた影響として製品面での変化も挙げておきたい。電気自
動車が被災地での家電製品等への非常電源確保に一役買ったという事例が報告
されている。

 弊社の 1 クリックアンケートでは、電気自動車/プラグインハイブリッド車
が移動手段という役割だけでなく電力供給者としての役割も有すべきと回答し
た方が半数を超えた。また、震災の影響を受け、同車の普及時期が早まると回
答した方が 4 割を超えた。実際、トヨタや三菱自が、同車への非常電源機能導
入を発表するなど対応を進めており、移動手段以上の付加価値を提供すること
で普及が早期化する可能性はあるのではないだろうか。

(上記 1 クリックアンケートの詳細はこちら)
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=5478

 最後に人材面であるが、特に震災の影響を受けリスク管理と競争力確保の両
立が求められるという観点からは、全体感を持って判断できる人材が求められ
ているのではないだろうか。

 例えば、部品共通化の検討過程で、従来は専用部品であったものが共通化の
対象として検討されることもあろう。もちろん個々の部品からみれば競争力を
高めることに繋がるであろうし、設計者の本分として自身が設計した独自のも
のを世に送り出したいということもあるのではないだろうか。しかしながら、
車両全体、ひいては企業や業界全体の競争力という観点からの判断が求められ
るのではないかと考える。

 過去を振り返ってみれば、日本の自動車業界の強みの一つとして認識されて
きた混流生産に代表されるフレキシブルな生産工程も、そもそもは限られた国
内市場に比較的多くの自動車メーカーが存在する環境下で、細分化した市場に
適応するために、(米国の少品種大量生産による成長が頭にありながら)やむ
を得ず培われていったという面があるようだ。

 東日本大震災の影響によるリスク対応力の強化も、コスト増という観点から
はやむを得ずと捉えられるかもしれないが、だからこそ(対応のレベル感にも
よるが)海外勢が真似し難い領域とも考えられる。震災の経験を将来的な競争
力の向上に繋げていきたい。

<宝来(加藤) 啓>

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