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コラム

think drive (4)  『ライフスタイルと持続可能なモビリティ』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

【筆者紹介】

環境負荷低減と走りの両立するクルマを理想とする根っからのクルマ好き。国内カーメーカーで排ガス低減技術の研究開発に従事した後、低公害自動車開発を行う会社の立ち上げに参画した後、独立。現在は水素自動車開発プロジェクトやバイオマス発電プロジェクトに技術コンサルタントとして関与する、モータージャーナリスト兼研究者。

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第4回 『ライフスタイルと持続可能なモビリティ』

昨今の環境負荷低減に関する社会の盛り上がりの中で、「クルマに乗らない事が第一歩」などの意見が多く、モビリティの価値が正当に評価されていないと感じる機会が多い。今回はクルマが及ぼす環境負荷の評価法について再考してみる。

【燃費と CO2 排出量とTTW(Tank to Wheel)】

燃費は技術者のみならず一般ユーザーにも広く知られていて馴染み深いクルマの性能の一つだ。燃費といえば km/L が一般的。クルマの燃料としてガソリンと軽油が大多数を占めるので km/L という単位でほとんどのクルマの燃費性能が評価できる。ちなみに CNG は搭載状態がガス状態なので km/Nm3 が使われる。 同じガス体でも水素燃料電池車は km/kg がよく使われる。このように、燃費を表す単位は様々だが、ユーザーにとって直接接する単位、つまり分子にはトリップメーターで読み取れる距離(km, mile)を用いて、分母には燃料補充時に読み取れる単位(L, Nm3, Kg)が用いられている。

一方、CO2 排出量の単位には、単位距離を走行するのに排出する CO2 の量(g/km)が用いられる。つまり燃費を逆数にして、燃料により異なる各単位量当りの CO2 排出量(※)を掛ける事で計算できる。例えば、ガソリン車の場合、燃費 10km/L のクルマであれば、CO2 排出量は 250g/km となり、これが 20km/Lに改善すると、CO2 排出量は 125g/km になる。

※CO2 排出原単位といい、算出法によって差があるので厳密には表記できないが、ガソリンで約 2.5kg/L, 軽油で約 2.6kg/L, 天然ガスで約 2.2kg/Nm3である。ちなみに電気と水素の CO2 排出原単位はゼロである。

これらクルマから排出される過程のみの評価を TTW ( Tank to Wheel ) という。

【WTT(Well to Tank)とWTW(Well to Wheel)】

以上のような考え方 (TTW) によると、電気自動車や水素燃料電池車、水素エンジン車は CO2 排出量がゼロになる。本当か?本当だ!ただし、クルマを走らせて排出する CO2 がゼロなだけで、クルマへ充填する前、つまり、燃料製造時には多くの場合発生する。電気を例にとれば、原子力や、風力、水力、地熱などの自然エネルギー、そして、バイオマス燃料による発電からは CO2 が排出されないとされるが、石油、石炭、天然ガスなどからは発電時に CO2 が排出される。水素を例にとっても、その製造プロセス毎に CO2 は排出される。

もっとも、ご存知のように水の電気分解というプロセスで、原子量や自然エネルギーによる発電電力を使った場合のみ、水素製造過程においても、CO2は発生しない。しかし、その場合であっても、貯蔵のために、圧縮したり、液化したりする過程での CO2排出を忘れてはならない。このように 1 次エネルギーから車両充填までの燃料製造効率を WTT(Well to Tank) として、TTW を加味した車両で使われるまでを考慮する考え方を WTW ( Well to Wheel ) という。つまり、

WTT+TTW=WTW

という考え方である。この概念はアルゴンヌ国立研究所の Delucchi が、ガソリン車と各種再生可能燃料を同時に評価する指標として提唱したもので、その後 GM や Exxon、Mobil、BP、Shell が共同で、GHG 排出量について整理をした経緯もあり、よく使われている。

【エネルギー効率】

CO2 排出量については WTW という概念で評価されていると説明したが、効率の評価もこの WTW という評価手法がよく使われている。そこで、WTW においての効率評価法は妥当であるか?という疑問点について話を進める。

現時点での WTW における効率評価は、「ある走行モードにおいて」、「ある乗車定員(あるいは積載重量)を含んだ車両」、という特定された場合における効率評価となる。現在の WTW 評価法(特に TTW での評価法)においては、評価対象となる走行モードを走行するに相応しいサイズ、パワートレインのクルマの評価がおのずと高くなる。同じ目的で作られているクルマ同士の比較にはよいが、同じ乗用車でも、一人で都内を移動する場合に相応しいクルマと、高速道路を 4 人で移動するのに相応しいクルマが同じ評価指標で比較されるのは必ずしも妥当とは言えない。そこで、真の意味での効率評価に少しでも近づけようとする評価法をトヨタの渡辺技監が提唱しているのを知ったので紹介してみたい。

【WTM(Well to Mover)】

それは「Toward the Realization of Sustainable Mobility」と題された、ある学会での発表論文にある。クルマ本来の目的とは、移動体の重量×移動速度だと定義している点が新しい。その移動体を Mover として、いままでの Wheelの先に Mover を置き、WTM ( Well to Mover)という評価手法を提案している。誤解を恐れず私の解釈を言うと、今までの WTW との違いは主に 2 点。

ひとつは、WTW には移動距離の概念しか入っていない(同一速度での比較)ものに移動速度を変数として加え考慮している点で、モビリティの基本的概念は移動そのものだけでなく、移動速度も重要だとしている点。

もうひとつは、移動体そのものの重量(車両ではない)に着目している点。これらの相違点を考慮することで、よりリアルワールドでのクルマの使われ方に評価法が近づく。燃費を例にとれば、走り方で大きく変わるということは皆さん実感されていることだと思うが、つまりは効率も走り方で大きく変わるという事である。

高速モビリティに対する評価が必ずしも高くないといわざるを得ない日本では、このような考え方に反論があるかもしれないが、新幹線や飛行機へのニーズをみれば明らかにモビリティは高速移動を目指している事は明らかで、速度の価値は十分認められていると考えられる。なによりも、実際の使われ方に相応しい評価法を提案することで、クルマの多様化、適材適所なクルマの使われ方が進み、真の効率向上を目指すモビリティ社会の構築へ繋がればより、という思いが背景にあるという事に多いに賛同したい。

【ライフスタイルによる環境負荷低減】

持続可能なモビリティ社会の実現へ様々な提案や検討がなされているが、多くは局所的な見方が多い。もっとも、WTW で1次エネルギー~車両までのというシステム評価が行えるようになり、WTM では、ITS や道路インフラ、クルマの多様性まで評価範囲を広げることが可能となる。しかし、如何に WTM で評価の高いシステムが存在しても、世の中へ普及しなければ意味がない。さらに付け加えると、今まではクルマ単独での性能向上ばかりにしわ寄せがきていて、個人的には十分な性能向上がされてきていると思えるのに、さらに要求は高まる一方だと思う。

もちろん、今後も驚くような技術開発による性能向上を期待し続けるが、社会インフラや新しいライフスタイルの提案などによる、社会システムとしての貢献が必須となってきていると強く感じている。数百人のエンジニア達が物凄い知恵と労力を絞って得られる燃費向上でも 5 %と言えばよい結果だ。しかしながら、アクセルの踏み方一つで 5 %の燃費向上などごく簡単に出来ることを考えても、社会インフラやライフスタイルが及ぼすことが出来る効果というのは計り知れないのは解って頂けるであろう。LOHAS (Lifestyle Of Health AndSustainable)という言葉が市民権を得ているが、どちらかというとクルマ利用には否定的な意見が多く残念である。これからは、クルマ利用を犠牲にしない
LOHAS が存在することを模索して提案していきたいと考えている。

<長沼 要>

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