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コラム

部品共通化と新興国戦略

◆自動車部品 メーカー超えて共通化。調達態勢を強化

経済産業省と自動車、素材メーカー首脳らが参加する「自動車戦略研究会」が、
メーカーの垣根を超えた自動車部品の共通化を進める報告書を公表する。東日
本大震災で、自動車部品のサプライチェーン(供給網)が寸断された反省から、
共通化で災害に強い国内生産体制の構築を目指す。

                     <2011年06月10日号掲載記事>

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【従来の「部品共通化」の概念 -自社グループ内の共通化-】

 これまで、弊社のコラムでも度々取り上げてきたが、「部品共通化」は自動
車業界にとっての永遠のテーマなのかもしれない。主だった過去のコラムを以
下の通り紹介する。

 『フレキシビリティについての再考』(2009年9月)↓
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=1410

 『コスト削減を進めるVWグループ』(2006年5月)↓
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=736

 『カヤバ工業、タイに4輪車メーカーなど向け
  エンジニアリングサービス拠点』(2004年6月)↓
http://www.sc-abeam.com/sc/?p=1743

 
 これまでの自動車業界における「部品共通化」は、一部のソフト領域におけ
る規格化・標準化などを除けば、そのほとんどが自社乃至は自社グループ内の
車両モデルで部品の共通化を進める形のものであり、その目的はコスト競争力
を強化することに主眼を置いたものとなっていた。

 実際 1990年台後半の「400 万台クラブ」の潮流以降、グループ企業の大量発
注による Buying Power と車両プラットフォームの共通化等によるコスト削減
効果は大きなコストメリットをグループ内の企業にもたらしたことも事実であ
る。そもそも、この「400 万台クラブ」という潮流も、一義的には将来の安全
技術と環境技術に要する膨大な開発費を捻出するための方策として始まったと
いう側面もあった。「400 万台クラブ」そのものについては賛否両論あるだろ
うが、コスト削減のための部品共通化推進の流れを加速させたという観点では、
一定の成果があったとも考えている。

 直近の自動車業界の動向を鑑みれば、「400 万台クラブ」時代の成功・失敗
も踏まえ、「緩やかな提携」による技術流通が進みつつある。この潮流の中で、
資本関係だけに捉われずに、相互に合意した 1 対 1 の関係の中での「部品共
通化」という形も進みつつある。自社から自社グループ、そして社外へ、と
「部品共通化」の対象も拡大傾向にあるといえるだろう。

 
【今回の「部品共通化」の趣旨 -競合や系列の枠を超えた共通化-】 

 今回取り立たされている部品共通化の趣旨は災害時のリスク分散であり、サ
プライチェーンの強化にある。

 これまでコスト競争力を高めるために集中してきた生産拠点をわざわざ分散
化する傍ら、これによって生じるコスト面での不利益を低減するために競合や
系列の枠を超えて、広く業界全体で部品の共通化を図っていこうというもので
ある。

 したがって、今までの自社グループ内での共通化や、1 対 1 での提携という
形という枠組みから、競合メーカーを含めた業界全体で部品や材料の仕様を摺
り合せ、統一していくという、ある意味「画期的」な取り組みが生まれる可能
性がある。

 
【今回の「部品共通化」がもたらし得るもの -新興国市場戦略-】

 振り返ってみればこれまで日本の自動車産業は主に欧米・日本市場を意識し
て切磋琢磨してきたように思う。先端技術で他社に一歩先んずることで企業の
競争力を維持してきた「Engineering Forward」なビジネスモデルと言えよう。

 日本では「その会社でしか作れない製品がないと立ち行かなくなる」と不安
を持つ経営者が多いという話を聞いたことがある。ある意味日本の自動車産業
の特徴を良く表しているように思う。

 一方で、今後の成長の一端を支える新興国市場は技術的優位性だけでは攻略
できないとされる。BRICs と言ってもひと括りにできない市場の多様なニーズ
にスピード感をもって対応していかなければならない。企業の勝ち残りのため
には技術一辺倒ではない「Marketing Forward」な戦略が重要な位置を占めるよ
うになってこよう。

 こういった新興国市場での潮流は一見今回の震災対応やリスク分散とは全く
関係がないように思える。しかし震災を発端とするグループ企業の垣根を超え
た部品の共通化の動きは新興国市場の攻略にも大変有効なように感じる。

 一部の自動車メーカーや地域を除いて、日系自動車メーカーは新興国市場で
苦戦を強いられている。

 他国の競合に対してコスト面で不利な立場にあることも理由の一つとして挙
げられよう。

 今回の系列を超えた共通化の動きをきっかけに、ボルトやナットの類だけで
なく、「技術的優位性」が車両の受注に直結しそうにない部分では、幅広く共
通化や標準化を進めていくことでコスト競争力が高まるように思う。

 新興国市場における量産車種向けの鋼板や鋼材、樹脂・ゴム製品の材料仕様
の統一化が進めば、日系自動車産業の全体としてのコスト競争力の強化に繋が
るであろう。また、例えばシートやドアノブ、カーペットやステアリングホィー
ル、各種メーター、シフトレバーといった内装部品も新興国市場ではメーカー
を超えた部品共通化が可能かもしれない。

 もちろん共通化の前提として日系部品・材料メーカーが協力して新興国での
供給体制を充実させ、高いレベルでの世界同一品質、世界同時生産に対応して
いく必要があろう。

 片や、仕様の共通化を進めると海外のサプライヤーとの競争が激化するとの
考えもある。しかし「一個流し生産」に象徴される日系サプライヤーならでは
の柔軟で顧客重視の供給体制を海外のメーカーが中・長期的に継続するのは容
易ではないはずだ。

 サプライヤーにとっては、こういった共通化や標準化を進めることで、企業
の競争力を高める新たな技術の開発やイノベーションのための時間と予算を捻
出できるメリットも期待できよう。

 
【日産の提案】

 日産は自社のプラットホームの外販に乗り出すという。(2011年 6月 13日号
日経ビジネス)

 プラットホームは自動車の競争力の基本を決する重要な部品である。それを
提携関係にないメーカーにも販売するとされており、これまでにない異例な戦
略と受けとめられている。 

 しかし一方で、プラットホームの開発には膨大な予算が必要とされ、新興国
のメーカーが技術力のある日産から購入するメリットは明白であろう。

 「ものづくり」というよりは「ビジネス」として捉える傾向の強い新興国の
自動車産業で、メーカーとしての基本技術を抑えながら市場攻略を進めていこ
うという日産の強かさが窺えるような気がする。

 こういった日産の戦略は同じ「共通化」の概念であっても冒頭の取り組みと
は異なったものだ。しかし、新興国の事情とニーズを敏感に汲み取ったもので、
今後の日系メーカーの競争力向上に直結するものと思う。

 
【新興国市場の本格的攻略はこれから】

 2002年、BRICs 市場の世界市場に占める割合はたかだか 10 %であった(BRICs
市場:5.6 百万台、世界市場:54 百万台 -住商アビームが各種統計より算出
-)。

 当時日系自動車メーカーは市場のマジョリティである先進国市場で成功を納
めていた。一方、欧米メーカーは他に活路を求め、新興国市場の攻略に注力し
た。現在の新興国市場における欧米自動車メーカーの勢いはこういった歴史的
な背景を考えると、ある意味自然な展開だったとも考えられよう。

 急速な発展が故に既に佳境に入った感があるが、長期的視点で見れば新興国
市場における競争は始まったばかりとも言える。日本のコア・コンピタンスは
今後も最先端の技術と品質であることは変わりないが、これに加えもうひとつ、
「Marketing Forward」な視点で従来の戦略に捉われない斬新で柔軟な取り組み
を追求してしていくことが重要であると思う。

 震災に端を発した「メーカーの垣根を越えた共通化」の動きであるが、日本
の自動車業界にとってグローバルな競争力向上に繋がる良い流れに変えていき
たいものである。

<櫻木 徹>

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