CRMの課題(4)

弊社親会社であるアビームコンサルティング(旧デロイトトーマツコンサルティング)が、自動車業界におけるモノづくりから実際のチャネル戦略に至るまで、さまざまな角度から提案していく。

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第 2 弾は、アビームコンサルティング戦略ビジネス事業部の松村芳道マネージャー/荒木甲和マネージャーが、CRM を 4 週に渡って紹介する。今回はその最終回にあたる。

第2弾『CRMの課題(4)』

(日刊工業新聞 2004年07月01日掲載記事)
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我々がこれまで数々の CRM (顧客情報管理)コンサルティング経験から得た教訓が 2 点ある。1 つは、マルチチャンネルを活用したインバウンド(顧客からの電話を受信するテレマーケティング)機能の回帰、もう 1 つはウェブを利用した顧客行動の管理強化である。

これまでも担当者はアウトバウンドコール(顧客に対するテレマーケティング)や電子メールによる販売促進を実施してきた。しかし、効果は時間とともに薄れることも多く、顧客に聞く耳をもってもらえない状況も見受けられる。いつ顧客にコンタクトすべきかは大きな課題だ。

アビームコンサルティングの分析の結果、効果的な訴求の機会として顧客が接触してきたタイミングが非常に重要であることが判明した。実際、この考え方を利用した金融業者は、これまでのダイレクトメール(DM)に加えコールセンター、ウェブなどすべての手段を駆使。顧客からのアプローチに対し、自社側から効率的で実効性のある仕組みを構築し、キャンペーン反応率を格段に向上させている例もある。

顧客はいつ、何を買いたいと思っているのか。買い換えるタイミングはいつなのか。供給側にとって永遠のテーマともいえるが、これはウェブ上での顧客の行動履歴を分析することで明確になった。一部のウェブ主体の流通業では、ウェブ上に顧客のアカウントを作ってもらい、顧客の個人属性と購買傾向、キャンペーンに対する行動履歴をデータとして落とし込み、より高い精度で個別提案をかけて顧客を囲い込んでいる。

この 2 つのポイントを自動車業界の CRM にどう生かせるだろうか。ある米国の自動車関連企業はコールセンター機能を強化し、ここに各ディーラー単位で閉じがちなユーザー情報を一元管理した。そして電話を通じ、ディーラーでは聞き流してしまう顧客の要望をコンタクト履歴に記録した。この顧客との対話で具体的な案件に繋がりそうになった時点で、コールセンターからディーラーに顧客の要望を伝達し、ディーラーから営業をかけてもらう仕組みを採ったのである。ディーラーも顧客データベースを検索し、顧客の接触を待たずに積極的な販売提案を実施することができる。

別の自動車関連企業は、顧客情報に基づいた分析とウェブ上で顧客がどのような反応をしたのかを把握し、顧客がいつ購買決定をしたか、どのようなキャンペーンに対して反応するのかを常時記録し、システムが自律的に顧客に適した情報をプッシュ提案するシステムを導入した。

顧客に送った電子メールの反応が増え、提案のヒット率が高まったことは必然だ。

効率的な顧客提案を実現するには、ウェブの役割が大きく、頻繁にサイトを見に来てもらう工夫が必要。成功例をみると、従来 DM でやりとりしていたローンの返済状況、車のメンテナンス記録などの提供を徐々にウェブに切り替えている。顧客情報が一元管理されることで、顧客が引越ししてもメーカーと連絡が途切れることはない。

CRM による収益拡大を目指すためには、他業界での取り組みを学んだり、自動車業界における IT 活用の先進事例の分析が重要となるほか、より顧客側に近づいていくために、メーカーとディーラーの役割の見直しといった業界内部の変革努力も必要となっていく。

<荒木/ 松村>