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コラム

日本自動車産業を取り巻く三重苦と、本当の脅威

◆トヨタ、9年ぶり減益に。2009年 3月期の営業利益が前期推定より 2 割減に

円高や米国景気の減速により、連結営業利益が 1 兆 7000 億~ 1 兆 8000  億円程度にとどまる公算が大きくなった。売上高は販売台数が新興国を中心 に増加することなどから前年並みの 26 兆円を確保する模様。一方、2008年 3月期連結の営業利益は 2 兆 3000 億円と過去最高を更新する見通し。

<2008年 4月 17日号掲載記事>
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トヨタの今期(09年 3月期)営業利益が前期推定額を 約 5~ 6 千億円(約20%)下回る可能性があることが 4月 17日の自動車ニュース&コラムで取り上げられている。

複数の報道でも指摘されている通り、日本の自動車産業を取り巻く逆風の環境は、大きく以下の 3 つに分けられる

1.資源高
2.円高
3.米国の景気冷え込み

1.を除けば、2008年に入ってから急激に顕在化したマクロ環境の変化であり、確かに今期の自動車業界は厳しい局面を迎えていると言える。

しかし筆者はこれら 3 つの環境は飽くまでも急激な変化であるが故の問題であり、1.、2.については業界・産業として克服が可能であると考えるし、3.については回復に楽観的である。調整局面がどの程度の期間続くかの予想は難しい為、業績へ累積で与えるインパクトの予測も困難であるものの、これまで投資をし続けてきた環境や代替エネルギー、安全性や快適性の向上といった領域で力を抜かなければ中期的には継続した顧客への大きな付加価値を提供し続けることが出来ると考える。

【資源高への対応→付加価値の向上と代替資源の模索】

一部では、戦後日本経済の得意技であった加工貿易が逆流する、即ち資源を有する国が高い値段でこれを売って加工品を安く買うのが 21 世紀型であるという説も聞かれる。ハイテク製品は設計図次第でどこでも安く作れる一方で、資源は新興国の消費者が市場に加わったことにより需要が大幅に増加していることから価格が上昇するのは当然、というのがこの説を支える論拠となっている。

端的に言えば、資源を売ることの粗利(率)がその資源をベースに加工することで得られる粗利(率)を上回り、しかも資源を有して販売する人口が加工を行う人口よりも圧倒的に少ないことから、粗利の絶対額でも一人当たりの粗利でも前者が圧倒的なパワーを持ちつつあるということである。

しかも、知的財産保護という、そもそも他人の知識やノウハウを盗むことについて国内では法律で裁けるものの、国家間では別の話となる。窃盗と模倣は根本的に異なるものの線引きが難しい場合もあり、特に後者については経済と歴史の必然である。否、これが行われなければ新たな価値創造やイノベーションは起こらないとさえ考えられている。

こうした背景から、資源を持たない日本の加工貿易を代表する自動車産業が取り組まないといけないのが、以下の 2 つである。

1) 加工に伴う付加価値を徹底的に向上させること2) 既存の資源(鉄鉱石であり原油であり)を代替する素材・燃料を開発すること

資本主義経済においては基本的に「余っているもの」を活用して「足りないもの」に変えることが出来る場合に利潤が発生するが、これまで豊富に「余っている」と思われていた資源は(嘗てから指摘はされてきたものの)「不足している」ことがいよいよ明確になってきた。

筆者は今後数年以内に、資源を鍵とする自動車業界の再編熱が再度吹くと考えている。具体的には、以下の 2 つがその要因として挙げられる。

1.資源消費量抑制商品の開発や代替エネルギー開発をキーワードとした協業2.単位当りの粗利減少が継続する結果としての規模の経済の模索

1.については、一時期の「400 万台クラブ」に通じるコンセプトであり、所謂、資本面での提携が本当に必要か?という疑問に対して、少なくとも過去 10年間の歴史は否定的な意見を我々に提示している。とはいえ、莫大に嵩む開発費を応分に負担する形での提携が止まることは無い。

一方、2 については正に資源が加工品よりも付加価値が高くなることによる新しい再編の形である。即ち、資源を用いて加工を行う製造業の付加価値が資源そのものと比して相対的に低下することにより、企業単位での利潤幅の低下を経営者が予測すれば、必然として規模を求めることにより企業単位の利潤を確保しようとする動きが生じる。

また、この再編の動きに資源そのものの輸出を通じて蓄積した富を用いて、資源国(の企業)が絡んでくる。資源国から見た場合、所謂バリューチェーンにおける川下への展開ということになるが、戦略的に考えると、埋蔵量に限界がある地下資源が枯渇する前に蓄積した富を活用して M&A を仕掛けることで自らの優位を保つという動きとも説明できる。

しかし、人間は資源そのものを現物として消費することは無い。新たに市場に加わった新興国の消費者も資源国の消費者も、原材料を加工した結果としての商品を求めているのである。

こうした再編の熱は巻き込まれると中々冷静な判断が難しいが、やはり実業をベースとした付加価値向上と代替素材・燃料開発という基本に忠実な形で、如何に消費者に受け入れられる加工品を創りだすか、そのために必要なアライアンスを組む、というスタンスを忘れてはならないだろう。

【円高への対応→特効薬は無いが、資源価格高騰は減殺させる】

トヨタは円ドル相場が 1 円変動すれば営業利益に 350 億円の影響が出ると言われている。円高の影響とは大きく以下の 2 つに分けられる。

1) ドル建て輸出で手取り邦貨換算額が直接減少する
おさらいだが、例えばある車を 1 万ドルで輸出していて、1年間で 1 ドル120 円が 100 円まで円高になった場合、ドル建てでの輸出価格が据え置かれたと仮定すると、手元に残る金額は 1年前は 120 万円であったものが今は 100 万円になってしまう、ということである。

2) 邦貨換算額を確保するために値上げをすることによる販売減
一方、上記邦貨の額を確保しようとした場合、1年前に 1 万ドルで輸出していた商品を今は 1 万 2 千ドルにすれば、邦貨換算額は 1年前と同じく 120万円となる。しかし、値上げ→消費者が価格優位性のある競合商品への乗り換えといったことに繋がれば、販売数量そのものが減少することになり、結果利益は減少することになる。

因みに、先週複数の自動車メーカーの方から各社の輸出価格値上げ検討状況について聞かれた。筆者は独自にこれを調査したが、各社現状としてはまだ具体的な動きとしては出ていないようである(詳細をコラムで紹介することは控えさせて戴く)。

円高への対応に特効薬は残念ながら存在しないものの、既に各社が実施している通り、多様化しつつある供給ソースである海外生産車輌を活用する形により、為替リスクをパリティに持っていく方法がある。

一方、円高は上記資源高とトレードオフの関係にある *。そもそも日本の自動車産業は原材料を海外に依存しているわけで、円が高くなれば結果的に邦貨換算額ではこれまでより価格を下げる効果が見込める。

* 特に原油のようにドル建てのものの場合は顕著であるが、原材料の場合必ずしも全てがドル建てというわけではないことは要注意。

【米国景気の冷え込み→ボラティリティは高いが回復も思ったより早い】

筆者は米国経済については、基軸通貨としてのドルがその座をユーロなど他の通貨に譲るという事態が発生しない限りは 、現在のサブプライムローンを発端とする景気冷え込みは比較的短期で回復すると考えている。

サブプライムの問題は、住宅価格が上昇することを前提としてローンを組み、これを消費に回していたところ、住宅価格が下落→消費減退に繋がったことにある(勿論、信用度の低い債権を優良格付け債権との組み合わせで証券化し、これを購入した金融機関などが痛手を被っているという構造も大きな問題であるが)。

しかし、米国そのものが全世界にとっての巨大なファンドになっている以上、常に値上がりすると思われる商品(株式を初めとした金融商品など)が模索される。

以下は筆者の過去コラムからの引用だが、米国に関する私見である。

1) 米国はそもそも新世界である
もともと、欧州を中心に拡大しつつあった西洋文明は既存の枠組みで行き詰まりつつある中、新大陸発見にフロンティアを求めた。米国は旧世界に対する新世界である。土着の人間が自然に集い組織化し、政府や軍隊をはじめとする諸制度を整備していったという旧世界と異なり、正に人工的に(嘗ては)志を基に創造された実験国家の中では最も成功したモデルである米国は、少なくとも 20 世紀を通じて世界のフロンティアであり続けたといっても過言でない。

2) 経営資源の多様性
こうした歴史的背景に基づき、今でも米国には世界中の人材(人種)、モノ、カネといった経営資源などが集まり、人種的多様性に裏づけされた各経営資源の多様性(人材の価値観も含めて)が存在する。

3) 優勝劣敗の仕組み
新しい産業・ビジネスが産み出されては、不要なものは滅びていくといった優勝劣敗が、直接金融のもとダイナミックに行われてきた仕組みは米国式資本主義の特徴である。多くの挑戦に基づく一握りの勝者と、弱者に対する複数回数の再挑戦権の付与(最近、こうした辺りが難しくなるという方向性ではあるが)により、最適解(2ND WORST かもしれないが)が市場を通じて導かれる仕組みである。

こうしたダイナミックなマーケット構造では需給バランスの崩壊やスペキュレーションなどによりマーケットのボラティリティは高くなりがちであり、今回の住宅価格も、嘗てのエンロン事件や IT 株バブルも全てここに端を発している。

国家レベルで言っても、現在も日本や中国などからのリスクマネーが米国企業の株式・政府の債券といった形で米貿易赤字でばら撒かれたドルが還流するという仕組みが出来上がっている。この米国のやり方が未来永劫続くか否かという議論をするつもりはない。昨今の同国の状況からすると間違いなくどこかで行き詰まるとは思われるものの *、投資家たる他国が他のどこにファイナンス先を見出すかという質問への明確な答えも無い。

* 一国の大統領選挙がこれだけ注目されるのも、巨大になったベンチャー企業(米国)の株式や社債を大量に保有する企業(日本など)が、次期 CEO (米大統領) が誰になるかを固唾を呑んで見守っていると考えると分かりやすい。

積極的な理由でないとしても、結果的に世界中の国々の優秀な人たちがアメリカに集まり、世界中の富の多くがアメリカで運用されている仕組みがある限り、アメリカの強さは継続すると考える。

よって、米国自動車販売市場が 1,500 万台という一つのベンチマークを守れるか否かという短期的且つ具体的な予測をするつもりはないが、上記米国という国の特徴から考えると寧ろスピードとダイナミズムは今回も発揮され、結果思ったよりも早く復活すると考えるのは安易だろうか。

【日本自動車産業が持つべき危機意識】

日本自動車産業を取り巻く三重苦については、急激な変化であることが問題であるだけで、これまで幾度と無く同様の危機を乗り越えてきた経験と、構造的に国内(外)における自動車関連企業群を代表して長期の景気変動リスクを負ってきたことにより平時に蓄積してきた利潤があることから、必ず乗り越えられる。

また、自動車の付加価値は下がらない、何故ながら部品ごとの組み合わせで製品が構成されるエレクトロニクス商品と異なり擦りあわせ技術を必要とする。安易なコモディティ化は困難である、という主張もある程度までは正しい。

しかし今後はどのような商品・サービスであっても模倣は可能であるという認識を持ちながら、正解と手本の無い新たな次元に到達しつつある「世界のフロントランナー」である日本の自動車産業が、先行者がいない状態で、得意の品質や効率の改善の延長線でない「走るべき方向性の設定」を自ら行うことが出来るか、というのが一つのポイントとなる。

また、前述の資源 vs 加工品の絶対的な付加価値(率)の相対的変化が生じつつあるということを念頭に置いた対応も大切である。具体的な変化の形を予測することは出来ないものの、今後発生する可能性のある資源をキーワードとしたパラダイムシフトによる新たな挑戦者の登場は十二分に考えられる *。

* 例えば、全く新たな手段を以ってして、顧客が自由に移動する喜びと安全性といった現在の自動車が提供しているサービスを提供するプレーヤーの台頭など。

本当の脅威は、産業として進むべき方向性の模索を、新たなイノベーションへの対応をも含めて愚直に継続出来るか、というところにあるだろう。

<長谷川 博史>

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