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コラム

脇道ナビ (56)  『カップの持ち手』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第56回 『カップの持ち手』

私は愛妻家だ。そのため、彼女へのプレゼントには気を遣っている。以前に海外出張へ行ったときもそうだ。ドイツの街中でおみやげを探したのだが、ブランド物のバッグなどは値段が高いばかりでありきたりだ。お菓子はカロリーが高そうで体重計に乗るたびにため息をついている妻には、いかがなものかと思う。第一、食べてしまうとカタチに残らない…と迷っているうちに時間がなくなり帰路についてしまった。それでも、おもちゃ屋さんで自分用のミニカーだけは買って飛行機に乗ったのはさすがに後ろめたかった。機中で言い訳を考えていると、機内販売でシルバー製のテディベアのペンダントを売っていた。すかさず財布に残っていた当時の通貨であったマルクをかき集めて買い求めた。そう、帰路のギリギリ最後まで厳選してプレゼントを選んだのだ。

先日も同じようなことがあった。クリスマスが近づいて、そろそろ妻へのプレゼントを買おうと思っていたが、なかなか気に入ったものが見つからず、困っていた。念のために言うが、忘れていたわけではない。そんなとき、近所のスーパーで妻がお気に入りのウサギの絵柄が入ったイギリス製のカップが一つだけ売られていた。どうやら、半端ものらしく、ブランド物なのだが普段よりずいぶんと安く売られていた。思わず、これならと思い買い求めてプレゼント用に包んでもらった。

家へ帰って安売り品だったことは黙って妻にプレゼントし、早速、私が淹れたコーヒーを飲み始めた。すると、妻が「このカップは使いやすいわ!」と言った。そこで、そのカップを見てみると、親指をかける持ち手の上の部分がほんの少しだけ平たくなっているのと、持ち手のコーナーがわずかにふくらんでいる。たった、それだけのことだが、親指で少しだけ押さえると安定して持っていることができるのだ。こんなことに気づいたのは、普段、妻が使っているカップを不満に思っていたからだ。このカップの持ち手は真横から見ると円のカタチになっており、カワイイのだが、指が一本しか入らないことや親指でいくら押さえても滑るのでカップが傾いてしまうからだ。

妻にプレゼントした英国製のカップの絵柄や大きさからすると子ども用のカップらしかったが、これなら、子どもに与えても安心だと感心した。こうした工夫が、子ども用だからなのか、あるいは持ち手のついたカップに長い歴史がある国のモノだからなのか、それともブランド物を作っているメーカーの知恵なのは分からない。しかし、少なくとも偶然にできた持ち手のデザインでないことだけは確かだと思いながら妻とコーヒーを飲んだ。

<岸田 能和>

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