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コラム

脇道ナビ (48)  『ドライクリーニング』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第48回 『ドライクリーニング』

ある朝、カミさんに尋ねた。「このトックリのセーターはうちで洗濯できるの?」カミさんは「今どきはトックリなんて言わないわよ。ハイネックセーター。」と言いながら、セーターの裾にある絵表示を探していた。絵表示を見つけると、大きな声をあげた「エー、ドライクリーニングなの?」そして、鼻で笑いながら「何を生意気なことを」と、そのセーターを洗濯機に放り込んだ。

カミさんにしてみれば、そのセーターは所詮カジュアルチェーンで売っている安物だという。そんなセーターを絵表示どおりにドライクリーニングに数回も出せば、そのお金で新しいセーターが買えてしまう。ならば、多少傷みが速くとも、うちで洗濯すれば良いという理屈だ。こうなると、せっかくの絵表示もかたなしとなる。

タテマエ論で言えば、たとえ安物であっても、ていねいに手入れして、長く使うほうがうるわしい。しかし、このセーターはともかくとして、普通、価格を安くすることを目標に作られた商品は素材やつくりがよくないため、手入れをするかいがないことは多い。例えば、以前に携帯電話がメッキだと思って磨いていたら、プラスチックの素地が出てきたことがある。これは、メッキのように見えるが、実は蒸着という技術である。これだと、安くて、見ばえも良いが、メッキほどの強さはない。気に入った手帳を温風ヒーターの近く置いていたら、フニャフニャになってしまったこともある。これも一見、本革風だが、実はビニールだったために熱で伸びてしまったものだ。

これまで、多くの商品の開発目標に「価格の安さ」が掲げられてきた。そろそろ、景気も上向き始めている。ならば、「いかに価格を高くするか」に切り替える時期に来ているのではないだろうか?もちろん、単に価格を高くするのではない。素材やつくりがしっかりしており、心に響く工夫があるモノ。また、手入れの費用がかかっても永く使いたいと思うようなモノである。そのために価格が高くなっていても納得できる、そんな価値を持った商品を作り上げることであることは言うまでもない。

ちなみに、この原稿を途中で、カミさんに見せたところ、「洗濯機に放り込んだ」のではなく、「ウールも洗えるおしゃれ洗いコースで、それも 1枚だけで洗ったのよ」との厳重注意を受けた。

<岸田 能和>

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