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コラム

脇道ナビ (43)  『3つの月』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第43回 『3つの月』

高層ビルが建ち並ぶ上海の夜景を見ながら「月が 3 つくらい浮かんでいそうですよね」と友人のデザイナーがつぶやいた。そう言えば、よく SF のイラストや映画では地球以外の星に建設された人工都市が描かれる。そこには天を衝くような高層ビルが並び、透明なドームに覆われた市街地があり、それらをつなぐ透明なチューブの中をクルマのような乗り物が走りまわる。そして、その都市が地球以外の星にある都市であることを示すために、空には月が3つくらい浮かんでいる。上海の夜景を見ていて、そんな人工的な都市のイメージとダブったのだ。

もちろん、もともと大都市は人工的である。しかも、東京や横浜にも高層ビルが建ち並ぶ夜景はある。なのに、上海で見た夜景と東京などと比べ、人工的なイメージを強く感じたのはなぜだろうか。それは、上海の高層ビルに象徴される都市開発がここ 5年くらいで進められたことが関係しているように思えてならない。つまり、そんな短い時間で都市の近代化(?)を進めた結果、整然としすぎた都市ができたように思う。確かに、一つ一つのビルのデザインを見ると、いろいろなカタチや色が施されており、全く別物だ。しかし、東京などでは歯抜けになっていたり、建設された時代の差や開発エリアの差がハッキリとしていたりで、全体ではどこか雑然とした印象がある。そうした雑然としたところが上海の夜景には感じられなかったのだ。

上海に限らず、ニュータウンなどへ行くと、整然としている都市や街並みを見かける。道路はまっすぐで、建物のデザインや高さなども規則性を持っている。屋外広告も規制されており、街中はスッキリしている。案内のサインなども統一されて分かりやすい。そのため、清潔でキレイだ。移動もカンタンだ。しかし、そんな都市や街並みは人工的過ぎて、どこか冷たい印象で、物足りなさを感じることは少なくない。特に、人気のなくなった夜などはなおさらだ。酔っ払って電車の中で寝てしまい、ニュータウンにある終着駅で眼を醒ましたときは、違う星へ着いたと思ったほどだ。

だからと言って、無秩序で、雑然とした都市や街並が良いとは言わない。ただ、理屈だけで出来上がったような人工的な街では息がつまってしまう。少なくとも、街をつくるには失敗やムダを許す時間が必要だ。そんな思いもあって上海ではガイドさんに「下町」も見せて欲しいとお願いした。案内された下町でドブの臭いに鼻をつまみながらも、どこかでホッとした。

<岸田 能和>

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