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コラム

脇道ナビ (41)  『上海ガニ』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第41回 『上海ガニ』

上海と言えば、上海ガニだ。その上海ガニを本場に食べに行きたい。それも旬の時期に。しかし、そんなことを言うと勤務先や家庭でひんしゅくを買うことは分かっていた。そのため「急速な発展を遂げつつある中国を代表する都市である上海を訪ね中国のデザイン界の潮流を視察する」というツアー企画書を作ったところ、30 名弱のデザイン関係者が集まった。もちろん、現地では、デザイン関係者との懇談会や大学の見学もあり、企画書に沿った内容であった。ただ、上海に降り立った瞬間から「上海ガニはいつ食べるの?」との会話が飛び交っていた。

そんな食いしん坊で呑み助ばかりのメンバーで上海の博物館や旧跡などを見学したが、それぞれの場所でお決まりの記念撮影をした。ツアー名の横断幕を前に並んでガイドさんにシャッターを押してもらうが、さすがにデザイン関係者ばかりなので、みんなが持っているカメラはセミプロ用や最新型のデジカメばかりだ。それも台数が多いので、すべてのカメラのシャッターを押し終えるまでは大騒ぎだ。そんな、ドタバタ記念撮影をしていると、決まって中国人が集まってくる。一応、中国語で書かれている横断幕を読んで、メンバーに話しかけてきたりもする。なにが珍しいのか、自分の持っているカメラで私たちが記念撮影をしている姿を写真に収める中国人さえいた。あるいは、デジカメの液晶モニターが珍しいのか、カメラマンと一緒になって覗きこんでいる人もいた。

人だかりを作ったのは下町見物でも同じだった。店先というより路上のようなところで麺を打ち、延ばしていき、それを束ねていって適当な細さにする。
それを湯気がもうもうとあがる鍋にいれて茹でて食べさせてくれる店があった。そんな麺打ちを見物していたときのことだ。あたりにいた老若男女がワラワラと集まってきて、私たちの姿を見物し始めた。彼らにすれば珍しくもない麺打ちに見入ってカメラを向けたり、試食したりしてワイワイ言っている日本人の集団が珍しかったのだろう。こんな調子で、私たちの行く先々で人だかりができたのは面白い経験だった。

こうした人だかりは、日本では見かけなくなった。確かに、芸能人でも見つければ、人だかりはできるだろうが、多少、珍しい風体やモノを持っているからといって人だかりができることは少ない。むしろ、横目で見ながら、関わりを持たないように早足で通り過ごすことの方が多いかも知れない。そんな好奇心の違いが今の中国と日本のエネルギーの差になっているのだろうと、上海ガニの小さな足をしゃぶりながら考え込んでしまった。

<岸田 能和>

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