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コラム

脇道ナビ (39)  『鏡よ鏡、世界で一番・・・・・』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第39回 『鏡よ鏡、世界で一番・・・・・』

数日前、地下鉄で若い男の子が鏡を見ながら指先で前髪をつまんでは、しきりにその位置を気にしている姿を見た。油で固めてしまえば別だが、前髪なんて簡単に動く。それを、気にしても仕方がないじゃないの、と突っ込みたくなったのをこらえていたが、彼は降りるまでずっと鏡を見ながら前髪をいじっていた。そんな男の子はまだ少ないが、電車の中で女子高生や若い女性が鏡を出して、はさみのようなもので、まつげをつまんだり、眉を描いたりする姿を見ることは珍しくなくなってしまった。そんな彼女たちが持つ鏡はコンパクトなものではなく、直径が 15 センチくらいある手鏡など持ち歩くには結構な大きさだ。それでも、肌身離さず大きな鏡を持ち歩いていることに、おしゃれに興味のない私としては尊敬するしかない。

もちろん、おしゃれに縁遠い私でも鏡に向かうことはある。ひげを剃るのはなかなか手抜きができないからだ。ほんの数ミリの長さの剃り残しが 1本あっても、これがけっこう目立ってカッコ悪い。しかたがないので、休みの日以外は、鏡に向かって、ひげと格闘する。今朝も鏡を見ながら、ひげを剃っていて、ふと手が止まってしまった。鏡の中には長く付き合ってきた私の顔があったが、もし、鏡がなかったら自分自身の顔を見ることなく一生を過ごすことになると考えたからだ。それはそれで、なかなかオモシロイ話だ。たとえば、私が鏡のない国で暮らしていたとしよう。ある日、どこかの別の星から宇宙人がやってきて私の顔を鏡で見せてくれる。しかし、その鏡の中の顔を見せられ、「コレハ、オマエノカオダ」と言われても、生まれてこの方、私自身の顔を見たことがなかったのだから、信じて良いのかどうか迷ってしまうはずだ。

金属製にせよ、ガラス製にせよ、鏡は永く貴重品であった。それが、近代に入り、ガラスでできた鏡を誰でも(お金があまりなくても)手に入れることができるようになったのは 100年も経っていない。言い換えれば、水面に映るぼんやりとした顔ではなく、自分自身のハッキリとした顔を、貧富の差に関わらず誰もが知るようになったのはまだ少しの時間しか経っていないとも言えよう。

技術の進歩や市場の成熟などによって、いろいろなモノが生まれ、最初は遠い存在だったモノが身近な存在となること多い。携帯電話やパソコンなどはその最たるものだろう。たまには、身近になったことで、以前の私たち自身が知らなかったこと、分からなかったこと、できなかったことが何だったのかを考えてみることはオモシロイし、忘れていた大事ことを思い出させてくれる。

<岸田 能和>

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