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コラム

脇道ナビ (38)  『初めてのサーモン料理』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第38回 『初めてのサーモン料理』

年に一度(!)の結婚記念日に紅葉を見に行こうとしたら、冷たい雨が、遠慮会釈なく、ざーざーと降っていた。私の住む場所では、一年のうちで、雨の日よりも晴れた日の方が圧倒的に多い。だとすれば、むしろ雨にけむる紅葉を見ることができるのはラッキーだと考えた。つまり、今、流行りのポジティブ思考だ。(トホホ)

とは言え、足元の悪い山へ行く気もしないので、都内にある公園に隣接した美術館に行った。展示品を楽しんだあと、雨に濡れた木々の姿をみることができるしゃれたフレンチレストランへ入ることにした。結婚記念日でもあるし、たまにはぜいたくをしようと妻には言ったが、内心では、「まあ、ランチならたいした値段ではないだろう」と計算していたというのはせこい話だ。席につくと鮭好きの妻は「サーモンの何とか」を注文した。やがて出て来たサーモンに手をつけた妻が、「エッ!」と声をあげた。横から一口頂いた私も驚いた。
サーモンにかかっているのがクランベリーか何かでできたフルーツソースだったからだ。サーモンにそんなソースがかかっているなんて予想していなかった。「イヤなら、残したら?」と妻に言ったが、「イヤというわけでもない」とおっかなびっくりで食べ続け、途中から「案外とおいしい」と言うようになった。よくよく考えてみると、今までフレンチなど食べたことはないのだから、そんなソースがあることも知らなかったし、慣れていなかっただけなのだ。

知らないことに初めて触れるというのは、たいへんなことだ。もちろん、初めてでも、ピンとくる、抵抗がないというものも多い。しかし、たいていは今まで慣れ親しんだ味、考え、やり方、発想などと大きく違うものに、親しみを持つとか、理解するというのはカンタンではない。しかし、それまで、常識だと思っていたことが、正しいとか、唯一ではないはずだ。そう考えると、最初は面白くない、ムツカシイ、理解できない、と考えることでも、ある段階を乗り越えると全く違った世界が見えてくることは少なくない。ならば、「食わず嫌い」で、何もせずにいて、あとで悔やむことだけはしたくないと思っている。好奇心をなくしたら、新しいものを見つけることも、考えることもできなくなるだけだ。
なお、その日の夜、妻は「フレンチのサーモンもおいしかったけど、こっちの方が良いわ」と鮭茶漬けを食べていたことを付け加えておく。

<岸田 能和>

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