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コラム

脇道ナビ (28)  『保護色』

自動車業界を始め、複数の業界にわたり経験豊富なコンセプトデザイナーの岸田能和氏が、日常生活のトピックから商品企画のヒントを綴るコーナーです。

【筆者紹介】
コンセプト・デザイナー。1953年生まれ。多摩美大卒。カメラ、住宅メーカーを経て、1982年に自動車メーカーに入社。デザイン実務、部門戦略、商品企画などを担当。2001年に同社を希望退職。現在は複数の業界や職種の経験で得た発想や視点を生かし、メーカー各社のものづくりに黒子として関わっている。著書に「ものづくりのヒント」(かんき出版)がある

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第28回 『保護色』

「あれ?どこにしまったかしら。確かにこのバッグの中に入れておいたのに・・・」と言う声が聞こえ、振り向いた。やがて、そのご婦人の顔色が変わり始めた。「ない、ないわ!どうしよう。」と大きな声になってきた。ポケットに手を入れて何かを探していた。あげくに、席の下も覗いていた。どうやら、もうすぐ新幹線が京都駅に到着するので、切符を用意しておこうとしたが、見つからないらしい。やがて、車内には「もうすぐ京都駅です・・・」とアナウンスが流れると、そのご婦人はバッグの中から化粧品、ハンカチ、お財布、レシートの束・・・と全部取り出しテーブルの上に並べ、バッグの底を探っていた。すると、「あった!やっぱり、あったじゃない。切符の裏が黒いから、見つからなかったのヨ。」と、言い訳のような一人ごとを言いながらあわててバッグの中のものをしまいこんだ。それまで、あたりかまわず切符を探していたことが照れくさかったようだ。

京都駅に着き、降りていく彼女のバッグを見て納得した。そのバッグが黒色だったからだ。新幹線の切符は磁気データを記録するために裏が黒くなっており、裏返しだと、「保護色」になってしまい見つけにくい。しかも、たぶん老眼も進み、あわてていたので見つけにくかったのだろう。

さあ、こんな状況に出会うと、たとえプライベートの時間でも何か解決策を考えてみたくなるのが、私たち開発者の悲しい性だ。ビール片手にすぐに思いついたのは、磁気を記録する素材を白くするアイデア。これはすぐにできないかも知れない。ならば、と考えたのが文字や模様の印刷。暗がりでも目立つようなコントラストのハッキリした文字や模様を印刷するアイデアだ。しかし、そんなことを考えるうちに、切符だけが悪いのか・・・と考え始めた。どうして黒いバッグの内側が黒い素材でないといけないのだろう?内側がもっと明るい色であれば、裏の黒い切符だけでなく、黒いアクセサリー、黒い軸のペン、小物類を探すことに苦労しなくて済む。もちろん、それは女性の持つバッグだけでなく、ビジネスバッグなどでも同じだ。あるいは、色だけでなく中の仕切りやポケットの工夫がされていれば、ベンリが良くなるかもしれない。こんなふうに考えていくと、切符の裏を工夫することよりも、切符を入れるカバンや財布などに問題があることがわかってくる。
私たちは、問題が起きると、たいていはそのモノばかりに目が行ってしまいがちになる。たまには冷静にモノがおかれている周りにも目をやらないと、いたちごっこに巻き込まれてしまうはずだ。

<岸田 能和>

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