think drive (31)  『 スクラップインセンティブ 』

新進気鋭のモータージャーナリストで第一線の研究者として自動車業界に携わる長沼要氏が、クルマ社会の技術革新について感じること、考えることを熱い思いで書くコーナーです。

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第 31 回 『スクラップインセンティブ』

少し前になるが、H21年度補正予算が国会で承認され、スクラップインセンティブ(環境対応車への買い換え・購入に対する補助制度)が正式に導入されることになった。かくいう私も一台 13年超えのクルマを所有していて、同制度に該当するので、勝手に作られた借金(国債)のほんの一部でも取り戻そうかと、新車購入意欲がくすぐられているのも事実。

さて、同制度の詳しい情報はサイトで確認して頂くとして、ポイントは乗り換える車両が「新車」というだけではなく、ある基準を満たしていなければならない点。その基準とは「燃費が良いクルマ」ということ。では「燃費が良いクルマ」の定義とは、国土交通省が認定した「H22年燃費基準達成車」ということ。ここまでは特にスッキリ頭に入る。そこで、先に新車購入意欲の赴くままに欲しいクルマのスペックを調べていくと、”このクルマって燃費良かったっけ?”という類いのクルマが燃費基準達成車として認定されていることに気付く。

ご存知の方も多いと思うが、この「H22年燃費基準達成」の考え方というのは、車両重量を段階的に分類し、各段階で基準値が個別に設定されている。個別の基準には基準を作成した時点で各段階毎の最良値が適用される。つまり車両重量の違うクルマが等しく基準達成車であっても、絶対値で見ると違う数値(性能)となる。私はこの考え方に当初から違和感を感じている。もっとも現在の販売台数の車両重量分布に従って総量計算をすると、諸外国の燃費達成、基準目標と変わらない、あるいは優れている、と制度制定側は主張している。しかし、今回のようなインセンティブが導入されると、市場において重量が大きいクルマへ販売重心が移行する可能性もあると考えられないだろうか?

ちなみに諸外国での燃費基準では、欧州の CO2 排出基準も北米の CAFE もメーカー平均値を対象にしている。燃費基準達成の目的とは国内の自動車モビリティーから排出される二酸化炭素量の総量削減であると考える。つまり、市場とメーカーをリードする事も役目にある筈である。現在の日本の燃費基準の考え方では、技術向上には効果を示すが、市場を絶対的に燃費のよいクルマへ販売重心を移行させるという機能は持たない。車両重量が燃費へ及ぼす影響の第一因子であることは物理の法則から明らかである。

さてこの制度、13年以上経年車の廃車を伴わない場合も、環境要件を満たした新車購入へも補助対象となる。その場合の環境要件とは、H22年度燃費基準 +15 %以上、かつ、排出ガス性能が 4 つ星、だ。こちらは 4月 1日から先行して開始されている重量税、取得税の減税措置と同じ対象になる。4 つ星といえば、現行基準の 75 %減(1/4)!と工業地帯の大気よりもきれいな位のエミッション性能である。そして、H22 燃費基準もただ達成だけではなく、15 %以上の達成度が要求される。このような要件になると、対象車は絞られてくる。そしてほとんどが国産車に限られることに気付く。ではその理由を考えてみよう。

燃費基準も排出ガス性能も決められた測定モードで測定する。日本では 10.15 モードから JC08 モードへの移行中だ。ちなみに、北米や欧州では独自の測定モードが採用される。ここに理由がある。日本の測定モードで測定する限り、輸入車は国産車より排ガス性能が概して劣っていることになる。では、この測定モード自体を少し詳しく見ていこう。日本で JC08 モード (以前は 10.15 モード)、欧州で ECE+EUDC、北米で LA4(FTP72) が適応される。その平均速度と最高速度の違いをみると、日本:24.4km/h,81.4km/h、欧州:42.7km/h,120km/h、北米:31.5km/h, 91.2km/h となる。やはりそのお国柄を表しており、日本<北米<欧州と高速型になっている。平均速度だけでなく、加速度、減速度なども 3 様に異なる。もちろん、各地域の特性を考えて異なるのは合理的だ。
しかし、実態を表していなければ話は変わる。特に日本の JC08 モードは、実態からあまりにもかけ離れていたという意見もあった 10.15 モードに替わって制定されたのだが、それでも、まだまだかけ離れていると感じる。

話を戻すが、輸入車が先の排ガス性能や燃費性能が実使用において、性能表記のように国産車に劣っているのならば、この制度に何も不満は感じない。しかし、データがないので推測としてしか言えないが、実使用においてはさほど変わりはないどころか、燃費では逆転する場合もあるのが事実。従って、もう少し環境要件を緩和しても実環境への効果は同じものが得られるのではないだろうか。

ここまで、論点が飛び散り、ぼやけてきたので整理して締めくくりたい。

・環境要件を満たしたクルマへの買い替えを促す制度には賛成。
・財源が借金(国債)なのは反対。環境税等を検討すべき。
・対象車が少し偏っている。もう少し環境要件を緩和してもよいのでは。
・偏りの理由には、日本の測定モードの実走行との乖離が考えられる。
・国際統一も含め、測定モードは改善の余地あり。
・燃費基準はメーカー平均にすべき。

p.s. 結局、実家の 13年越え車両は、車検を受ける方向に傾いてきています。ほとんど使わないクルマなので、排ガス性能は古くても実害は少ないし、長く使うほうがエコということで...

<長沼 要>